「パルウーガの遺跡」(後)
「しかし、たまたま立ち寄っただけの我がプトンの街でも、とんだ災難でしたな」
ロイファードさんが、軽く労ってくれた。
「我が街は、大助かりでしたがね」
と笑う受け付けのおじさん。
受け付け台に一片の紙と小袋を置いた。
「赤馬団捕獲の賞金と、捕獲証明書です」
「全く災難でした」
小袋をと紙を受け取り、苦笑するジュテリアン。
「で、皆さんは、これから何方へ」
と、ロイファード隊長。
うんうん。ぼくらみたいな災難屋にウロチョロされたら困るよね。動向が気になるよね。
「『足の向くまま気の向くまま』よ」
と、サブロー語録らしきモノを吐くミトラ。
「ははあ。『あても果てしも無い旅』に出られますか?」
と、後を受けるドロボー髭さん。
ロイファードさんは、
「行く先ではまた面倒もありましょうが、それもまた貴方がたの天命なのでしょうなあ」
と、感慨深げに言った。
行き先は考えてなかったので、ロイファードさんには伝えられなかった。
赤馬団とスコルピウスゴーレムに関しては、ぼくたちが捕まえたが関連はないので、賞金と証明書を持って屯所を出た。
「さあて、次は何処をめざすかなあ」
と、ギルドでドロボー髭さんにもらった地図を、鎧の首の内側から出すミトラ。
「疲れてます。この街でもう少し休みたいです」
ジュテリアンが弱音を吐いた。
「この街で休むと、また何かに巻き込まれるかも知れんぞ。と、思うものの、無念にもジュテリアンと同感じゃ」
と、同じく弱音を吐くフーコツ。
「仕方ないなあ」
と言いながら、地図を鎧の首に仕舞うミトラ。
そしてスコルピウスに食堂を壊された宿で、もう一泊することにした。
「今日も疲労しちゃったねえ」
晩ご飯を終え、風呂を終え、浴衣姿で長椅子に座り、ため息を吐くミトラ。
ぼくも、施術で、どこまで回復出来るか不安である。
しかし、施行しない訳にはゆかない。
疲労の回復は、確かだからである。
ミトラ、ジュテリアン、フーコツを強かに喘がせ眠りに着かせ、ぼくは朝を待った。
(さしたる大事もなく夜を迎た。いよいよ三人娘が寝ている間に何か起こるのか?)
ぼくはビクビクしながら闇夜を過ごした。
しかし無事に朝は明け、赤い朝焼けの空の下、ぼくたち『蛮行の雨』はプトンの街を出た。
ぼくの収納庫には、今日のお昼用に宿で作ってもらったヒポポサウラーの大盛り焼き肉弁当が再び入っていた。
早朝とて人通りの少ない街道を歩きながら、ミトラが、
「さて、何処をめざしますかねえ」
と言って、プトンのギルドでもらった地図を広げた。
フーコツが横から地図を覗いて、
「このまま道なりに歩いて行けば、風のシュクラカンスを埋めた場所にいけるのう」
と、言った。
「ええっ? そうなの?!」
驚いて地図を睨み直すミトラ。
「どこどこどこ? シュクラカンス!」
「ここに『竜の巣』とあるじゃろう? して、この黒い筋が今、ワシらの歩いておる街道じゃ」
と、地図を指でグリグリするフーコツ。
ジュテリアンも覗きこんで、
「山脈が途中に横たわっているじゃないの!」
と、叫んだ。
「この街道、全然関係ないじゃん!」
ミトラも叫んだ。
「滅茶遠い。周囲に村も街の印もないじゃん」
「竜の巣の近くに集落を作る阿呆はおらん」
「あの山脈の果てでしょうが」
と、霞んで見える山々を指すジュテリアン。
街道はしかし、山脈の方向に続いていた。
たまたまだろうが。
「まあ、この方向から竜の巣に行ったわけではない。山脈を越えねばならんからのう」
「あそこに行く気なら、コッチ来ちゃいけないヤツ」
「そうそう、こちらは竜の巣の裏側になるからのう」
「行かないから、そんなトコ。途中から街道を逸れて、野宿続きになるじゃん!」
「しかし、美味しいザリガニの巣が見つかるかも知れんぞ。水浴びに気持ちの良い泉に出会うかも知れんぞ」
「えっ?」
一瞬、思案顔になり、すぐに、
「騙されるかっ!」
と叫ぶミトラだった。
「ヒマ潰し。いつものヒマ潰し」
と、つぶやくジュテリアン。
とりあえず、道なりに歩き続ける蛮行の三人娘。
現在地から一番近い伝説物件は、「パルウーガの遺跡」とやらに眠る「小手」であった。
魔族と一悶着あったクカタバーウ砦の南に、ワウフダンという大きな街があった。
手遅れながら、砦に援軍を送ってくれた街である。
そのさらに南に、「パルウーガの遺跡」かあるのだった。
「途中から脇道に逸れて南下してゆけば、パルウーガの遺跡まで行けるぞよ」
と、フーコツ。
「ガントレットは良いと思わぬか? ジュテリアン」
「そうね。盾がないと、火炎を撃てば手が熱いし、冷凍系を撃てば、手が凍るんだって?」
「そうなのじゃ」
と、手を摩るフーコツ。
「盾を出さずに魔法を撃てれば、攻撃も早くなろう?」
「おおっ。伝説のガントレットがもし手に入ったら、良い感じになるじゃん。たぶん、殴打もハンパなく強いだろうし」
「フーコツ。熱い冷たいと言うのなら、手にずっとミトンとか装着してたら良いじゃないの」
「そうなのじゃが、面倒じゃろうが。ミトラだって、普段はガントレットを外しておるではないか」
「うん。素手はやっぱ、便利だもん」
「戦闘の時にいちいちミトンを装着するよりは、盾を張った方が早いしのう」
「だけど、伝説のガントレットなら、浮かれて常時装着したくなるでしょうね」
「そ、そういう事じゃな。素手が便利な時もあろうが、伝説に浮かれて常時装着するであろうな、ワシは」
フーコツは正直に欲望を告白した。
「伝説」を持っていないのは、フーコツだけなのだ。
「じゃあ、パルウーガの遺跡に、ガントレットを取りに行こう!」
数時間後、地味に歩き続けて、やがて街道を離れ木陰で昼ご飯にする三人娘。
少し早いお昼ご飯だった。
弁当箱を開いて、
「うわ。お肉が昨日のお弁当より盛り盛り!」
と、喜ぶミトラ。
「手紙が付いてるわ。
『蛮行の皆様、ありがとうございました。旅に疲れた時には、是非ともまた、我がエブリマの宿にお泊まり下さい。ヒポポの肉も喜んでお待ちしております』だって」
と、ジュテリアン。
「宿に侵入して来たスコルピウスを倒したのじゃから、女将の正直な気持ちであろうな。あの街に寄る事は二度とないであろうが」
フーコツは、苦い笑みを浮かべて言った。
それから、たっぷりなお昼ご飯を、三人娘はゆっくりと堪能していた。
次の街には、日暮れのずっと前に着けた。
プトンの街を朝早く発った甲斐があった。
パルウーガ遺跡に行く事を決めたので、宿に入ってすぐに、クカタバーウ砦と、ユームダイムの警備隊宛に伝達蜥蜴を飛ばした。
「行き先を、時々で良いから知らせてくれ」と頼まれていたからである。
そして、
「この宿はすぐに発つので、返信は無駄である」
事も、ジュテリアンが書き添えていた。
次回「救世主」(前)に続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
次回、第百二十二話「救世主」前編は、明日の土曜日に投稿予定です。
救世主、とはなんぞや?
読み返していないので、よく分からない。
思い当たるエピソードはある。
えっ? もう、あそこまで来たの? な驚きである。
あかんがな。はよ、新しい話を書かんと。




