「パルウーガの遺跡」(前)
「よし!」
と言って、フーコツは再び出現させた円盤盾を卍に変え、残るひとつの裂け目の完全な切断に掛かった。
そして無事に切断されるスコルピウスゴーレム。
「なんだか、疲れたような顔ね、フーコツは」
「ミトラ、あなたもよ。アレドロロンからこっち、エナジーや魔法を吐き出してばっかりだったから」
と、ジュテリアン。
「お疲れ様よ、もう皆んな。二、三日はグータラ寝ていたいくらいだわ」
ぼくは、早馬車に揺られて何日も走った疲れが出てきたのだと思っていた。
ろくに眠れなかったはずだからだ。
残り二つの胴体も、一メートルちょいくらいで切断されていた。
最初に切断した頭部より幅があり重かったが、ぼくは持ち上げる事が出来た。ホッとした。
ぼくがスコルピウスをヨタヨタ運んでいると、「わっしょい」の合いの手が繰り返され、盛り上がる草原。
「ワッショイ」は大勇者サブローの仕業に違いない。
警備隊は、用意した馬車をスコルピウスゴーレムのすぐ近くまで持って来ていたので、運ぶ距離は短くて済んだ。
バラしたスコルピウスの三つの胴と六本の脚を、三台の馬車に分けて乗せた。
脚を持つ時は、警備隊員たちが手伝ってくれた。
「お前たちも、こうなりたくなかったら、大人しくしてろ」
と、野盗たちに忠告するロイファード隊長。
「なんだなんだ、この女どもは? 伝承にある遺跡の魔女か?」
と、凡人顔の男。
偉そうに言うので、首領なのかも知れない。
「黒騎士近衛団よ」
と、ユームダイムで言われた名称を使うジュテリアン。
「黒騎士とは、クカタバーウ砦の魔族討伐以来の腐れ縁よ」
黒騎士の名を出せば、異様な蛮行も、説明が付く。
ように思われたからだろう。
騒めく野盗。そして警備隊。
「近衛団って、噂では黒装束だと聞いたのですが」
若い隊員が、おずおずと言った。
「黒装束? ゴルポンドさんたちかしら?」
「おそらくそうじゃろう。噂になるとは、奴らも頑張っておるのう」
「色々いるのよ、近衛団にもね」
「ゴルポンドとは?」
と、くだんの若い隊員。
「あなたの言った黒装束の近衞団員だよ」
と言うミトラ。
「ユームダイムでも、一緒に魔族討伐をしたよ」
「クカタバーウ砦の元・隊長殿がリーダーをやっておる近衛団じゃ」
ミトラとフーコツの話に、警備隊と野盗は再びザワザワした。
「さあ、そろそろプトンの街に帰るか」
ロイファードさんのその声で、三分割され馬車に放り込まれる赤馬団。
乗り込む警備隊と蛮行の三人娘。
ぼくはまた、殿を走った。
赤馬団は、解体されたスコルピウスゴーレムと同じくらい大人しかった。
多少、ぼくらの経歴をバラしたのが効いたのかも知れない。
ちなみに、赤馬団がスコルピウスの遺骸に集っていたのは、
「見つけた時、『こいつは物好きな金持ちに高く売れるんじゃねェか?』と、つい、考えちまって(首領ダウマン談)」
との事だった。
凶悪で知られる野盗団が強欲なアホで良かった。
お陰で捕まえられたのである。
ロイファード隊長がコッソリ教えてくれたのだが、
「赤馬団は、近在の市民や警備隊員を何人も殺しているので、『市中引き回しの上、晒し首』は間違いない」
のだそうだ。
つまり、極極刑である。
知ってか知らずか、ぼくの目の前の馬車では、縛られたまま、身の上話をしている赤馬団。
刑の軽減を狙っているのか?
神妙な顔で、その本当かどうか分からない話を聞いている警備隊。
「うるさい、黙れ!」
ではなくて、
「ほうほう。冤罪で、故郷を追われたんだ」
「そりゃあ大変だったなあ」
などと同情を見せる隊員たち。
でも、「晒し首」は、隊員は皆んな知ってるんだよねえ?
知らせて暴れられても困るもんねえ。
「これは情状酌量もあるか?!」
と、甘い事を思っていたら、首をチョンパされるのである。
その落差、絶望感を味合わせるために話を合わせ、同情気味にうなずいているのだとしたら、これは失った仲間の仇討ちかなあ。
と、ぼくは思った。
プトンの街に帰り着き、隊員たちは赤馬団をとっとと留置所に運んで行った。
ロイファード隊長だけ、ぼくたちに着いて来た。
赤馬団の逮捕を屯所に知らせるためだ。
ぼくたちが警備隊屯所に入ったのは、赤馬団の賞金を貰うためだ。
警備隊屯所には警備隊員のほか、討伐ギルドの職員、泥棒髭の大男が居た。
プトンの文字の入った紺色の革鎧を着ている。
蛮行の三人娘に、「酸っぱい匂い」を知らせ、銭湯に走らせたオジサンである。
「おう、お嬢さん方」
と目を大きく開くドロボウヒゲさん。
「ガハイプンに確認を取ったよ。教えてくれた通り、アレドロロンの伝説杖は引っこ抜かれていた。つーーか、本当にあったんだなあ、伝説が」
「今、こちらも教えてもらった所だ」
と、受け付けカウンターのおじさん。
「伝説の杖は、ランランカという美しいお嬢さんの所有物になったらしいが、アレドロロン村を解放したのは、『蛮行の雨』という勇者団だったそうだ」
そう言って目を細めるドロボウ髭さん。
「これ、あなたたちの事だよね?」
観念したのか、黙ってうなずく三人娘。
それから屯所はアレドロロン村と、スコルピウスと、赤馬団の話で盛り上がった。
「アレドロロンの解放、お礼の言葉もない。あの村の無視を決め込んでいた我々の責任だ」
と、うなだれるロイファード隊長。
スコルピウスの討伐や赤馬団の逮捕で浮かれたあとなので、アレドロロンショックは大きかったかも知れない。
「あんたたち、色々と忙しくやってるんだなあ」
と呆れるギルドのドロボウ髭さん。
このプトンの街のスコルピウスの始末は、屯所でついさっき、赤馬団の逮捕はたった今、聞かされたからだ。
「アレドロロン村で養殖されていたザリガニとかは、どうなるの?」
と、突っ込むミトラ。
「あ。畑も養殖されていた生き物も、廃棄処分が決定したそうだよ。ガハイプン警備隊の判断だけどな」
と、ドロボウヒゲさん。
「わあ。美味しかったのに」
と、残念がるミトラ。
「アレドロロンの忌わしさを考えると、仕方がありませんな」
腕を組むドロボウ髭さん。
「アレドロロン村は閉鎖され、今後は立ち入り禁止になるそうだ」
「広い平地らしいな。勿体ない」
と言ったのは、受け付けのオジサンだ。
(こうして不可触領域が出来ていくんだなあ)
ぼくはボンヤリと思った。
次回「パルウーガの遺跡」(後)に続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
次回、第百二十一話「パルウーガの遺跡」後編は、明日の金曜日に投稿します。
後編は、今までに比べると長いです。
四百字詰め原稿用紙六枚くらいです。
投稿するために書き写すのはシンドイ。
しかし、読み終えるのはすぐ。みたいな。




