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「ハイド・ヌイ・サウラー」(後)

「ええ、皮も牙も爪も、加工すれば良い値になりまして……」

昨日の尊大な態度とは打って変わって、おどおどした表情で喋べるスブック親方。

「肉も美味(おい)しい。皮も上質」


「パレルレ、ロケットダッシュとかしなくて良いから。皆んなびっくりしてるじゃないの。空気が()げちゃったし」

(ああ、親方のオドオドは、そのためか)


「旅人や商隊が襲われる事もあるので、是非(ぜひ)とも退治して頂きたい」

  と、低姿勢のスブック親方。

「特別手当ては(はず)みます。商品価値を下げぬよう、なるべく無傷で捕らえて下され」

  過剰な装飾品を揺らして、親方は宣言した。


「ほら、あの赤っぽいつるんとした大岩と並んでいるトゲトゲした岩の方が、ハイドヌイサウラーよ」

  と指をさすミトラ。

「つるんとした岩は、本物だから安心して」

「うん? あれなに? 丸くなってんの? デカいな」


「成獣だと四ペート(四メートル)くらいの背丈があるわ。二足歩行で、体内に岩袋を持っていて、岩を吐いてくるから気をつけてね」

    と、ジュテリアン。

「今回、私の出る幕はないわね。相手が大きすぎる。心のないトカゲだし」

  過剰回復精神攻撃が出来ないと言う事か?

「そこまでお見送りはするけど」


ちなみにだが、ぼくはガニ股でも二メートル強の背丈だと判明。

ミトラは一メートル半くらい。

ジュテリアンは一メートル七十センチ(一ペート七十ポレ)くらいだ。


「赤い背中のトゲトゲ皮は厚くて頑丈」

「白い腹部は、やや(やわ)らかい」

「動きは、鈍い」

だから、タイミングを見て、商隊などは疾走してやり過ごすのだそう。


「吐き出される岩は握り(こぶし)以上。弾速は速くて危険。その動きの鈍さを補足して余りある」そうだ。


相手は野盗のたぐいでもなし、ボーナスのために命を()けようと言う物好きは、この世界の新参者のぼく(ミトラに誘われ、断れなかったのだが)と、恐い物知らずのミトラしかいなかった。


まず、「なるべく無傷で」と言う注文が無茶だ。

(スヴァスティカ)を使ったら早いけど、爆発も切断も御法度(ごはっと)になっちゃったし」

  などとつぶやいているミトラ。


  そのボヤきのような言葉を聞いて、

「ミトラ、卍が使えるんだ。私もよ」

  と表情を明るくするジュテリアン。


「おう。卍仲間。頼もしい!」

  ミトラが嬉しそうな顔でジュテリアンを見上げた。

「でも、傷つけない方向じゃ、使えないわね」

  声のトーンを落とすジュテリアン。


「殺すのは簡単なのか? ミトラ」

「うん、まあ。でも、ズタボロにしちゃうから、接近戦で行く」


ぼくはマントをジュテリアンに預け、ミトラはヘルメットとガントレットを装着して、フルアーマーになった。


ミトラと短く打ち合わせをして、ジュテリアンに手を振られながら、恐る恐る近づいてゆく一人と一台。


ぼくの足音が意外と大きかった。

 (これ、ヤバいのでは?)

と思っていると、ハイドヌイサウラーが頭を上げた。


見事な岩の擬態だったが、首の内側は白くて動物っぽかった。

  頭は巨大。口も巨大。

かの有名なティラノサウルス似の魔獣(モゴラ)だ。

  ただ、尻尾(シッポ)は短い。


ゆっくりと起き上がった。

(いや、コイツ。四メートル以上あんだろ?!)

しかし距離はまだ三十メートルは空いている。


小さな三本指の前脚 (ティラノは二本だっけ?)。

たくましい後脚。

  腹は確かに柔らかそう。

背中や前脚、後脚の外側は、ギザギザの岩にしか見えない。

  たっぷりとした肥満体形だ。


「跳べ、パレルレ!」

『御意』

と答えて、四本の足の裏のブースターを()かせ、空中に高く跳び上がるぼく。

さらに背中のブースターも噴いて、前進。

  ハイドヌイサウラーに迫った。

すべてサブブレインの仕業(しわざ)だが。


ぼくを見上げて岩を吐くヌイサウラー。

  聞いていた通り、さすがの弾速だった。

(フフ)いの(ヌール)(シルト)」を、心で命じて前面に発生させる。

  青く光る円盤状の厚みのない盾だった。


一発目の岩を、(ひじ)のブースターを噴かして右に避けたら、二発目は曲線を描いて青盾(フフシルト)を突き破り、ぼくのメタルボディに当たった。

     ガイィーーーン! 

と乾いた音を立てる。

欠損は無い。

  聞いていた通り、頑丈なメタルボディだ。


偏差射撃出来るんだ。

  (あなど)れねえ奴!

そして光の盾、お前は気休めか?!


岩弾を受けながら、収納庫からV字盾を取り出して投げた。

こいつはブーメランだ。

  曲線を描いてヌイサウラーに当たった。

ダメージはなさそうだったが、気を引く事には成功した。


そしてついに、大岩に隠れながら接近していた古代紫の鎧娘(アーマーレディ)、ミトラが棍棒に斧刃(ふじん)を飛び出させて殴り掛かった。


  ミトラに光の盾はなかった。

あんなの出してると見つかりやすいのからだろう。

  光ってるし。


刃はざっくりとヌイサウラーの右下腿(みぎすね)の内側に食い込んだ。

  紫紺の鮮血を噴く荒地大蜥蜴(ハイドヌイサウラー)

傷つけない約束だったが、これは「必要最低限」と言うヤツである。


一瞬の間を置いて、

「ガアァ!」

と吠えヌイサウラーは眼下を見るが、すでに二発目の斧が今度は左スネの内側を裂いている。


ヌイサウラーが大きくうつむいた所を、ミトラは跳び上がって生白(なまじろ)い腹を縦に斬り裂いた。


ぼくは、

「グゲーーー!」

(うめ)くヌイサウラーの頭上に降下しつつ、右胸から、途中で千切(ちぎ)れている(むち)を飛び出させた。

鞭は白い煙を上げ、赤く発光し、空気中の(ほこり)を燃やしている。


高熱鞭(ヒートウィップ)だ。

千切れている先端部分は炎を上げ、火花を散らしていた。

製品として見れば、完全な欠陥品である。


その直線にして五メートルほどしかない鞭で、ぼくは落下しながらヌイサウラーの顔面を打った。


「ガァア!」

  のけ()るトカゲ魔獣。

地面に着地して、今度は腹の裂け目を鞭打つぼく。


  「グギャウ!」

吠えるハイドヌイサウラー。

 これは効いたようだ。


ミトラはぼくの鞭を避け、すでに下がっている。


岩弾を喰らい、よろけながらも左右の内スネの傷口を鞭で打つと、トカゲ魔獣は大きく鳴きながら、ついに倒れた。


「パレルレ、退()いて!」

と言う右横からのミトラの声に反応して、ブーストダッシュで後方に跳ぶぼく。


ミトラの斧アタックは、ハイドヌイサウラーの左眼に斧刃(ふじん)をめり込ませた。

     眼から噴き出す紫紺の血。


ミトラもサブブレインも凄いと思うが、戦闘経験皆無のぼくは、吐きそうな気分になった。


でも、何を吐くんだろう?

潤滑油(じゅんかつゆ)か純水か?

どちらも勿体無(もったいな)くて吐けないけど。



   次回「参上! ゴルポンドとコラーニュ」(前)に続く




次回、第十三話「参上! ゴルポンドとコラーニュ」前編、後編。は、来週の金曜日に投稿予定。


第十四話「到着! クカタバーウ砦」前編、後編。は、来週の土曜日に投稿予定。

           ではまた、来週!

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