「スコルピウスの解体」(前)
「ああもう、こんなところで火球を乱射して!」
怒りと水球を撒き散らして、燃える草原を消火しているフーコツ。
ジュテリアンも、捕らえた野盗をぼくに任せ、「無能なる空気」で鎮火を急いでいた。
こうして、野盗・赤馬団は壊滅した。
「一人、馬に引きずられて逃げて行ったが、あれは新入りの黒馬だ。問題ない」
と、ロイファード隊長。
一人、死んでいたが、
「落馬による死亡だ。運が悪かったな。なに、そこらで懇ろに葬ってやるよ」
と言う返事だった。
野盗なので、墓地には入れてもらえないのか?
(悪党なんか、気取るもんじゃないなあ)
と、ぼくは思った。
賞金の掛かっていた野盗団だったので、討伐ポイントとお金が貰えるそうだ。ありがたい。
野盗どものそこそこの怪我は、ジュテリアンが伝説の超回復光を乱射しつつ治した。
「ぼっ、ぼくも回復光を受けてスッキリしちゃったんですけど」
と、流れ弾を受けた隊員たちが恐縮していたが、
「どんまい。お裾分けだから」
と、ヘルメットを脱いでフォローするミトラ。
「流れ弾」とは言えず、ミトラの言葉にコクコクうなずいているジュテリアン。
「で、コイツはどうすんの?」
尻を上げ頭を地面に埋めて、草原に鎮座するスコルピウスゴーレムを指すミトラ。
「ええ、まず三等分にして頂きまして……」
揉み手をしながら頭を下げるロイファード隊長。
「ええっと、あたしたちがヤッちゃって良いのね?」
「ええ。我々の武器と魔法では、スコルピウスの皮膚には歯が立たないのを確認しましたから」
確かに先ほど、スコルピウスを囲んで、
「ドリルクラッシャー!」だの、
「真空絶対斬!」だの、
「ハイブレードデストロイヤー!」だの、
「超真理斬撃弾!」だの、やってたっけ。
ロイファードさんの、清清しいまでの居直りに、言葉を失う蛮行の三人娘。
そして、
「狡猾な首領も、ジュテリアンさんが捕まえて下さったし」
と言ったロイファード隊長の言葉に、即座に反応するミトラ。
「えっ? ジュテリアンが首領を捕まえた?!」
「はい。あの通行人のような顔をしている斧使いが、首領のダウマンです」
と、荷造りヒモで括られた野盗どもを指す隊長。
と言われても、武器は取り上げているし、一箇所にまとめて転がしているので、誰が首領ダウマンか分からなかった。
「あたしの捕まえた、それなりに手強かった大柄な火球男は?」
「ああ。用心棒のオキオテガです。奴のせいで、あと一歩と言う所で赤馬団には何度も逃げられました」
と、ロイファード隊長。
「大手柄ですよ、ミトラさん!」
わっし! とばかりにミトラの手を握る隊長。
「でへへ」と相好を崩すミトラ。
めでたしめでたし、であった。
それから、お昼ご飯を食べた。
解体前の腹ごしらえである。
奮発したヒポポサウラーの焼き肉弁当は、すこぶる美味しかったらしい。
時間を経て、タレが程よく染み込んでいたのだろう。
かくて、スコルピウスの解体となったが、そこはぼくらもミトラ頼みなのだった。
卍を使えば早いが、卍はそれなりに魔力を消耗するから、「これ以上はやめておこう」と言う話になったのだ。
「余ったら、妖精に食べられるだけだし。あたしゃ、惜しみなくエナジーを使うぜ」
と、張り切るミトラ。
スコルピウスは、頭は地面に着いているが、脚を突っ張っているため、尻の方が地面から高く浮いていた。
これでは分割しにくいので、まず、脚の根元を切り離し、地面に寝かせる事になった。
ミトラはヘルメットを被り、再びフルアーマーとなった。
金剛力を奮おうにも、フル装備でないとパワーが出ないミトラなのだ。
まず、一番後ろの太くて大きな脚、第三脚を切断するべく、スコルピウスの身体に登るミトラ。
「大丈夫か? お嬢ちゃん」
と、隊員らから声が掛かった。
なにせ、三人娘の中では一番小柄だ。
そして隊員たちは、ミトラがスコルピウスの大バサミを斬り落とすところを見ていない。
ぼくは、そこそこのパワーがある事は分かっているが、スコルピウスの関節部を捻じ切るほどの力はないことが、やってみて立証済みだった。
「おおう」という残念そうな隊員たちのため息が、今も聴覚機の奥に残っている。
さてミトラは、スコルピウスの尻の高みに立ち、ゴルフのスイングのように下方に斧を振って斬るつもりのようだ。
地上から上段に斧を振って斬るのでは、ジャンプしなければ一番高くなっている第三脚の根元に届かない。ジャンプでは、十分なパワーが伝わらない。
まずは、右の一番後ろの脚の根元だ。
ミトラは、
「下段! スイング斬り!」
と、怪しげな詠唱をして、斧刃の出た伝説の斧を振った。
火花が散り、その一刀で胴体と脚の接続部分、球体関節が砕けた。
ミトラはリキむ余りバランスを崩して地上に落ちたが、難なく着地する。
まずは一本、無事に切断が完了した。
「おう。気合いか?」
「うむ。気合いだ」
見物する隊員たちが拍手をし、声を上げた。
「儂にもやらせてもらえないだろうか」
と、スキンヘッドの巨漢が進み出て来た。
大剣を背負っている。簡単そうに見えたのだろう。
「伝説の斧」のカラクリを知らなければ、そう見えるのも無理はなかった。
先ほどの、寄って集っての醜態を挽回したいのかも知れない。
やり方は、見て分かったのだ。
「あ。どうぞ」
と、あっさりと譲るミトラ。
力仕事だ。代わってくれる者がいれば助かる。
「おう、ハブーパいけ!」
「ワシらでも役に立つところを見てもらおう!」
活気づく警備隊。
なにせ、野盗・赤馬団を倒したのは蛮行の雨。彼らは野盗を運び、ヒモでくくるくらいしか出来なかったのだ。
ハブーパさんは、力自慢らしい面構えと体格をしていた。
地上から、左の第三脚を狙うつもりらしい。
巨漢のハブーパさんが大剣を大上段に振れば、地に足を着けたまま第三脚の根元に届くだろう。
「真っ向、愚直斬り!」
なんだそりゃ、という詠唱で、大上段から振り下ろされるハブーパさんの大剣。
「出た! 愚直斬り!」の叫び。
火花と高い金属音を上げ、刀身の一部が散った。
刃毀れだった。
さすが古代ムン帝国の金属ゴーレム。硬い!
「ぐあ!」
と叫んで身を竦める巨漢ハブーパ。
腕が痺れただろうに、手を離さなかったのは流石だと思った。
ハブーパさんの頬から血が流れていた。
四散した剣の破片が掠ったのだろう。
折れなかったが、大剣は大きく欠損していた。
ハブーパさんのパワーを物語る残状だった。
「残念。剣の強度が足りなかったか」
と、フーコツ。
「警備隊の支給品だもんね」
と、ミトラ。
「どこに当たりました? 治しましょう」
ジュテリアンは、ハブーパさんに駆け寄った。
ジュテリアンは背後のホルスターから短剣型回復杖、無法丸を抜いて、彼の頬にかざした。
「そ、その短剣も回復杖なんですね」
刃を顔に近づけられ、目を泳がせるハブーパさん。
短剣が放つ金色の光が傷口に当たると、傷口から剣の破片が出て来て、地面に落ちた。
(掠ったんじゃなかったのかよ?)
(破片が頬に入って、痛くなかったのかよ!)
(どんだけ我慢強いんだよ?!)
ぼくは警備隊員の根性に触れて、慄いた。
次回「スコルピウスの解体」(後)に続く
お読み下さってありがとうございます。
次回、第百二十話「スコルピウスの解体」後編は、明日の火曜日に投稿予定です。
読み切りショートショート集「のほほん」「魔人ビキラ」なども書いています。
よかったら、覗いてみて下さい。
ではまた、明日。




