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「ファイドとピノルス」(前)

二度目の死を覚悟して、スコルピウスの大鋏(おおばさみ)から手を離そうとしたその時、ミトラが二度目の斬撃(ざんげき)を行った。


大バサミをひとつ斬り落とし、後はぼくに任せて大丈夫。

  だと思ったら、ダメだった。という話だ。

申し訳ありません。


右の大バサミも第二関節部を砕かれ、ぼくが手を離したので、重い音を立てて床に落ちた。


両方の前脚大バサミを失い、驚いたように上半身を大きく起こすスコルピウス。

左右の前脚を振って、第二関節から先が「無い!」ことを確認している?


反転して、外側の壊れた窓に移動してゆくスコルピウスゴーレム。

「よし。逃げる気だ。攻撃止め! 追うぞ」

  廊下で身を起こすフーコツ。

「ジュテリアンも呼んで来てくれ、パレルレ」

  そう言われ、玄関に走るぼく。


  自分が壊した窓から出てゆくスコルピウス。

「目的に、『無能(ニュル)なる空気(アリア)()いておくから、追ってこい」

  と、フーコツ。

『了解!』と、サブブレイン。

宿を出て、玄関前の広場に(たむろ)する群衆の中にジュテリアンを見つけ、

「スコルピウスゴーレムは外に逃げ出しました。ジュテリアン、やっぱり来てくれ」

  と伝えた。


「スコルピウスは大バサミを二本とも失いました。ハサミは食堂の床に転がっています。ぼくたちは、追い掛けます」

  と、皆さんに伝えた。


宿の従業員や野次馬(やじうま)に見送られ、ぼくはジュテリアンを抱いて走り出した。

正面玄関から壊された窓のある側面に回り込むと、早くもフーコツの落とした白い泡、「無能なる空気」が地面に落ちていた。

  点々と続いているのが見える。

付いて行くのは、容易だった。


「スコルピウスは食べ物を(あさ)っていたので……」

  と、経緯(いきさつ)をジュテリアンに話した。

「食べ物? ゴーレムは物を食べないのに?」

「だから、(あやつ)っている人間がいるって話で……」

「なるほど、ゴーレムは操っている人間の所へ戻るって話ね」

  と、お姫様抱っこをされたジュテリアン。

「でも、馬鹿みたいに高価なゴーレムを使って、まったく何をやってんだか」


「面白半分でやらせたのかもね」

  と、ぼく。

人を(おど)して楽しむ、いわゆる愉快犯(ゆかいはん)だ。

  お金を持て余した暇人(マッドマン)仕業(しわざ)かも知れない。


白い泡は、宿屋の庭から(かたわ)らの雑木林へと続いていた。

  そして、雑木林の中で、ミトラたちに追いついた。

「いらっしゃい、ジュテリアン。早かったわね」

「そっちが遅いのよ。どうしたの?」

「あいつが遅くて」

  と、前方を指すミトラ。


雑木林の木をへし折りながら進んでいるスコルピウスの後ろ姿が見えた。

「大バサミを失ったから、思うように木や枝を切断出来ないみたいで、進行が遅いのよね」

「この雑木林を抜けて宿屋に来たんなら、同じ所を通れば楽なのに。木がすでに切られているでしょう?」

「残念じゃが、そういう知恵はないようじゃな」


「食べ物を盗ませた奴が、スコルピウスを遺跡屋から買ったとしたら、そいつ、大富豪だよ」

  と、ミトラ。

「富豪って権力者なんでしょ? 敵に回すとヤバいんだよね?」


「そうじゃな。窃盗(せっとう)と器物破損では、捕えても金で解決して、すぐに釈放されそうじゃなあ」

  フーコツは、(あご)をしごいた。

「そして、捕えたワシらを恨んで、殺し屋を差し向けてくるかも知れん。後腐(あとくさ)れのないよう、死んで頂くのが一番良いかもな」


丁度(ちょうど)良いじゃん。向こうにはスコルピウスがいるんだから、『手強(てごわ)かったから、つい、殺してしまった』で通るわよ」

  と、ミトラ。

どこまで本気が分からないが、話はなかなか物騒(ぶっそう)な方向に向かっていた。


「大金持ちの、遊び半分の窃盗という可能性もある訳だろう? 殺すのは罰が重すぎないか?」

  と、余計な事を言うぼく。


「窃盗に大魔王大戦の兵器を使う奴が悪いのじゃ。やり過ぎで死ぬのじゃ」

「スコルピウスは兵器じゃなくて、工場用ゴーレムですよ、たぶん」

  さらに余計な事を言うぼく。


「えっ? そんな事が分かるの? パレルレ」

  驚いたような声を出すミトラ。

「やっぱり、ゴーレム同士のつながりってヤツ?」


「ぼくの居た異世界の工場用の、えーーっと、大型道具に似ているんですよ」

実は似ていない。ハサミの構造が違う。

  工事用重機のハサミは両方動く。

スコルピウスは、サソリやカニと一緒で、可動するハサミは片方だけだ。


「工事用だから、殺人の意図なんかない。ただのイタズラだよ」

  と言う方向に持って行きたいぼくだった。

「ふむ。形からして、用途が工事用だという話じゃな」

  と、工事用重機を知らないフーコツが言った。


「魔族の身体(からだ)をチョン切るにしては、大袈裟(おおげさ)なハサミだと思った!」

  ミトラも(だま)されて、乗っかって来た。



          次回「ファイドとピノルス」(後)に続く



お読み下さった方、ありがとうございます。

次回、第百十五話「ファイドとピノルス」後編は、明日の金曜日に投稿します。

ファイドとピノルスは、次回に登場します。

そうです、人の名前なんですね。

読み返して確認しましたよwww。


ゴールデンウィークには、「蛮行の雨」の在庫を放出する予定です。

だもんで最終回が早まります。

          ではまた、明日。

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