「グーノングの災難」(前)
「アヤメ殿は、ワシらが束になっても敵わぬ豪傑と旅をしておる。心配はいらんぞ」
フーコツが言った。
「えっ? 何よそれ。そんな、噂の黒騎士みたいなのと知り合ったの? あの娘」
驚くランランカ。
「うん、まあ、そんな話」
と、ミトラ。
「えっ? くくく、黒騎士様? 本当?! 吾輩、サインが欲しいんだけど」
「わしらもで御座る!」
色めき立つランランカと忍者六人衆。
「行方は知らないわよ」
と、ミトラ。
「彼は神出鬼没だし」
「彼? 男なのね、黒騎士!」
「ええ、たぶん」
「まあ、どっちでもオッケだけど」
そんな話をしながらトンネルを抜けると、馬車に乗ったグーノングさんが居た。
ぼくたち「蛮行の雨」をアレドロロン村まで運んでくれた、早馬車の最後の御者である。
そして後ろに連なっている騎馬隊と、二台の幌馬車。
「ご無事でしたか、蛮行の皆さん!」
そう言って御者台から飛び降り、見事に転ぶグーノングさん。
急いで起き上がりながら、
「おや? 皆さん、濡れておられる?」
と、ハテナ顔になった。
濡れ方は、ランランカたち機動忍者部隊の方がひどかったが。
「グーノングさん、大丈夫ですか?」
転んだのを見て、駆け寄るミトラ。
「濡れているのは、魔法で雨を降らせたからです」
「そうでしたか。ご覧下さい。我が街、ガハイプンの警備隊を呼んできましたぞ!」
自分の背後の騎馬隊を、両手を広げて紹介するグーノングさん。
騎馬隊のひとり、一角白馬に乗った偉丈夫が数歩、馬を進め、
「天空に走る閃光を何本も、そして何度も見たが、一体、何事があったのか?」
と言った。
「あっ、隊長のポーガンスさんです」
と、紹介するグーノングさん。
「その光は、回復光と浄化光よ」
と、ジュテリアン。
「勇者団『蛮行の雨』の僧侶、ジュテリアンさんです」
と、グーノングさん。
「馬鹿な。なぜ回復光が天をめざすか?!」
「じゃあ、やって見せても良い?」
と、肩に掛けた革ベルトから、灰色の杖を抜くジュテリアン。
「やって見せよ」
軽々に言う隊長、ポーガンス。
(これがコチラの騙し討ちだったら、どうするんだ? イチコロで全滅だぞ)
と、思ってしまうぼく。
「美人は嘘つかない」とか、馬鹿な妄想に塗れてんじゃないだろうな、この隊長さん。
そして唱えるジュテリアン。
「回復!」
何十本もの回復光が繰り返し八方に散り、直撃を受けていななく一角馬たち、呻く騎馬隊隊員。
「うおっ?! 疲れが布団のように吹っ飛んだ!」
「なんという心地よさ!」
「女神様の祝福は、かくもあろうか?!」
口々に隊員たちが褒めたたえるので、目をへの字にして喜ぶジュテリアン。
「ううむ。こんな爽快な回復光は初めて受けた」
唸る隊長。
「今も天空に走る光を見た。納得だ。つまり、負傷者をハズれた回復光だったのだな?」
「未熟者ゆえ、この有様です」
「なんと勿体ない」
残念そうに眉を寄せるポーガンスさん。
「して、浄化光とも言っておられたが、村で何があったのだ?」
「実は少し大変な事が。パレルレ、タグを出してくれる?」
ジュテリアンにそう言われて、村で皆んなが集めたタグの収納庫を出すぼく。
姿勢を変えて、中身を隊長が見られるようにした。
「な、なんと! なぜそれほどのタグを持っているのだ?!」
死体 漁りか?! とでも言いたそうな目でぼくらを見るポーガンス隊長。
隊長の言葉に騒めく騎馬隊員たち。
ぼくは念の為に、タグを鷲掴み(わしづか)みにして、高く掲げた。
騎馬隊の前にフーコツが進み出て、大雑把にアレドロロン村での顛末を話した。
騎馬隊は、
「まさかそんな?!」
「御伽噺でもあるまいに!」
「にわかには信じられない!」
という反応であった。当然か。
騎馬隊は話を聞いて村に入りたがったが、
「もう陽も落ちた。どんな罠があるか分からない。実際に、落とし穴があった(ジュテリアン談)」
「探索は、明日、明るくなってからにしてはどうじゃ?(フーコツ談)」
「お腹空いた(ミトラ談)」
と提案すると、
「それもそうだな」と、了承された。
肝心の「伝説の杖」は、すでに亡くなったが、自分を守るために冒険者を守護者にしていた奴である。
罠のたぐいも、色々と張り巡らしていると考えるのが自然だ。
たとえば、「吊り天井」や「仕掛け矢」、「転がる岩」だ。
実際に、「落とし穴」があったんだから。
ぼくたちは、幸いにして引っ掛からなかっただけである。
夜の探索は、危険だ。
そして、
「実は謎の村が怖くて、騎馬隊も突入をためらっていたのです」
と、グーノングさんはコソッと教えてくれた。
「あなた方が無事に出てきたので、少しヤル気になったのでしょう」
と。
次回「グーノングの災難」(後)に続く
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次回、第百十一話「グーノングの災難」後編は、明日の金曜日に投稿予定です。




