「進撃する蛮行」(前)
「ストップ! ストップ! ジュテリアン! 死んでる! 村人たち、死んじゃってる!!」ミトラが後ろからジュテリアンに抱きついた。
背後から抱きつき、腹部を鷲掴にするミトラ。
あまりの痛さに、浄化光の乱射を止めるジュテリアン。
「うわっ、骸骨になっちゃってる?!」
地面に散乱する貫頭衣を着た白骨を見て驚くジュテリアン。
「ななななななんでっ?! この人たち、人間なんでしょう?」
「おそらくだが、村に来た時代が古く、とうに寿命が尽きておったのではないかな」
と、独り語りを始めるフーコツ。
「肉体は朽ちたが、『伝説』が能力と外見を残留させ、傀儡の術で操っておったのだ」
「そ、そうね。白骨化が早すぎるものね。私がこここ殺したわけじゃないわよね」
「死への恐怖はなかったでしょうね。意識を奪われていたんだから。だからどうなのって話だけど」
と、ランランカ。
「ジュテリアンは、自我を奪われ囚われていた魂を解放したんだよ。マイマイダブツだよ」
と、念仏らしきモノで労うミトラ。
「そうよ、皆んなを解放したのよ。吾輩たちはクグツが短かったから、肉体も無事だったんだわ」
と、ランランカ。
「意識を持ちながら心を蝕まれて、ハンゾーたちとは会話も出来なくて辛かったわ」
「申し訳ありません。脆くも自我を喰われ、鍛練不足を痛感いたした次第」
確か、忍者マニアにすぎなかった部下たちだが、反省や感謝を述べ始めた。
「忍術よりも、自我の確立が先だ!」
「解放して頂き、感謝の言葉も御座いませぬ!」
「そうだのう。村人たちも、ようやく成仏出来たと思うぞ、ジュテリアン」
フーコツの言葉はただの慰めかも知れないが、言った方が良い労いだとぼくは思った。
「数人、逃げ出した奴もいたわね」
と、ミトラ。
「伝説の杖が、『逃げろ』と命令したのよ」
忌忌しげに、ランランカが言った。
そうやって、ずっと操られていたのだろう。
幾重にも掛けた光の盾を、一旦、解除した。
エナジーの損耗を心配しての事だ。
「皆、同じ方向に逃げたわね(ミトラ談)」
「形勢不利と見た伝説が、自分を守るために呼び寄せたのであろうな(フーコツ談)」
「すると今、村長の家に村人全員が集まっているわけね(ジュテリアン談)」
「ジュテリアンよ、撤退は止めじゃ。村人たちを先に解放しよう。お主の浄化光でイケる」
「そうだよね。出直して時間を与えると、警護が強化される気がするもん」
「私も無茶苦茶腹が立って来たトコ。伝説の杖をブッ殺して、今後の憂いを断つ!」
また、出たトコ勝負の蛮行だ。
危険だと思ったが、止めても聞かないんだろうな、この三人娘は。
「伝説は、引っこ抜いたら自我を失って、ただの道具になると思うわ」
と、ランランカ。
「でも、召使いみたいな女性が傍らにいたから、要注意よ。たぶん、三つのシモベのひとりよ。手強いと思うわ」
「そんなのが三人もいるのか」
「吾輩の勘だけど」
たしかに、シモベと言えば三つと、相場が決まっている。
ぼくの思い込みだが。
「この村人たちのタグと武器は、警備隊に届けねばならんが、後回しじゃな」
フーコツはそう言って、地面の白骨に手を合わせた。
(それ、勝ったらの話でしょ?!)
と、ぼくは口に出しても仕方のない事を思った。
まあ、タグをジャラジャラ鳴らしながら武器を持って移動出来ないけど。
「せっかく、村長の家に集まってワシらを迎え撃とうと言うのじゃ。応えてやらんとのう」
(いや、ただ我が身を守ろうとしているだけだと思うけど)
(放っておけば、向こうから噛みついてこないと思うけど)
(でも、それじゃ伝説に囚われた村人たちの解放にならないし)
「パレルレ、分かっておるではないか。では、行くぞ」
(ああっ、また心の声が外に漏れてたかっ?!)
「うん。ダダ漏れだよ。気をつけてね、パレルレ」
さしたる策もなかったが、村長の家へと進んでゆく「蛮行の雨」と「機動忍者部隊」だった。
「村人たちの魂を、天界に届けましょう(ランランカ談)」
という思いでぼくたちは、まとまった。
村人の倒し方、というか、解放の方法が分かってしまったからだ。
「それにしても貴方、凄い浄化力ね」
感心しきりのランランカ。
「下界人も、頑張ったらこれくらい出来るようになるのよ」
回復杖が『伝説』である事は隠したままなので、「どんなもんだい」と言わんばかりに鼻を高くして、ジュテリアンが言った。
「わ、吾輩だって、いつか追いついてみせるわよ!」
ランランカは負けん気を見せた。
「ウカツに攻撃して、村人を破壊するのはナシ」
と言う事になったので、ジュテリアンの浄化頼みの進軍だった。
「あの雑木林の向こうに見えるのが、村長の家よ」
と、前方を指すランランカ。
赤い屋根に灰色の壁。
大きく、そして窓が見えない。
「むう。要塞かのう」と呟くフーコツ。
その大きな家の前には、武器を手にした村人たちの姿が数十人、見えた。
(やはり一度撤退して、警備隊を巻き込んで策を練り直した方が良かったんじゃないのか?!)
と言う思いが、今更ムクムクと湧き上がってきた。
雑木林越しに、矢を射って来る村人。
「盾!」
と言うフーコツの声で、再び光の盾を発生させるぼくら。
ランランカは虹を五枚。
忍者部隊は、赤をそれぞれ三枚。
ぼくは青を十枚。
そして蛮行の三人娘は、金、銀、紫を五枚ずつだ。
この盾の集合体を破壊出来るものなのか?
果たして、魔法で強化されたらしい矢であったが、虹の盾に触れるなり炎を上げて消滅した。
「えっ? カウ・ヴォン、強化されてる?!」
「吾輩とて下界に堕とされ、慌てて修行に励んだのだ」
「付け焼き刃ってヤツ? でも凄いじゃん」
「ふふん。もっと褒めても罰は当たらんぞ、小娘」
そんなミトラとランランカの会話はさておいて、
「このまま進むと、雑木林で本格的に戦いが始まって、樹が無茶苦茶になりそうね」
「樹々が可哀想じゃから、迂回するか」
などと話し始めるジュテリアンとフーコツ。
「えーーっと、迂回ね。迂回してから戦いね!」
ミトラが雑木林越しに、大きなジェスチャーで村人たちに迂回を示した。
それを攻撃の合図と受け取ったのか、突如として雑木林の向こうに竜巻が起こった。
竜巻は稲妻を孕んでいた。
稲妻は、バリバリ飛んで来ては、こちらの盾を壊したり跳ね返されたりした。
「盾の復元、急いで!」
と、ミトラ。
「あら。私たちを捕えるのはやめたのかしら?」
と、ジュテリアン。
「十人以上、村人を解放したからのう」
と、フーコツ。
「賢明な判断じゃ」
かくて、村人たち、いや『伝説』との戦いが始まろうとしていた。
えっ、もう始まってる?
そ、そうかも。
次回「進撃する蛮行」(後)に続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
次回、第百八話「進撃する蛮行」後編は、明日の日曜日に投稿予定です。
古の「伝説の杖」は、果たして誰の手に?!
あっ、無事に倒す、と言ってしまったような……。
細かい事は気にせずに、明日を待たれよ。




