「大浄化光線」(後)
目覚め、床に正座している六人の忍者に向かって、
「ハンゾー。サンダユー。コタロー。サイゾー。サスケ。ゲンヨーサイ! 村から脱出するわよ」
と、宣言した。
「扉の外には、村人たちの気配があります」
と、一番小柄な忍者が言った。
「あっ。皆さんを捕らえたら、引き渡す手筈になってたから」
と、ランランカが説明した。
「じゃあ、裏をかいて、壁をブチ破って外に出よう」
と、ミトラ。
「こちらの壁が、外の道に面しております」
と、一番細い忍者が壁を指して言った。
ぼくが一番、ガタイが大きいし丈夫なので、壁はぼくがブチ抜く事になった。
一番大柄な忍者もやりたがったので、ミトラの提案で、ぼくと尻相撲で決着させた。
「ぐぬぬ、まだまだ鍛練が足りぬ!」
負けて自分を責める巨漢忍者さん。
慰める仲間とランランカ。
いやいや、ぼくは四本足で、安定感が違う。
そもそも無茶な決着方法だったから。
「これ、丸ごと村の罠だったら、あたしら一網打尽だよ」
と苦笑するミトラ。
「仕方がない。伝説の攻撃杖は、また改めて取りに来るとしよう」
と、フーコツが呟いた。
「場所も分からぬしな」
すると、ランランカと六人の忍者が、
「伝説の杖なら」
「村長の居間に刺さっています」
「村長の家は」
「村の中央にあります」
「赤い屋根に灰色の」
「レンガ壁の大きな家」
「デス!」
と、言葉をつないだ。
「あんたたち、助かりたいからって、口が軽すぎない?」
ミトラが呆れた。
「仮にも、さっきまで仕えていた相手でしょ?」
「だっ、だから、ご飯に釣られて捕まって、身体を支配されたって、言ってるでしょ!」
「ランランカ様のおっしゃる通りです」
進み出て言うガタイの大きな忍者。
「好きで従っていた訳では御座らん」
「ほら、ハンゾーが言うんだから間違いないわよ」
「ハンゾーさん知らないし」
放言するミトラ。さらに、
「だいたい、黒忍者は意識もなくて、従っていた事も自覚がないんでしょ?」
と、言った。
「そっ、それはそうだけど、一番大柄なのが、ハンゾー。
一番太ってるのが、サンダユー。一番細いのがコタロー。一番小柄なのがサイゾー……」
「あっ、今はそういうのはいいから!」
自分から突っ込んだくせに、一方的に断ち切るミトラ。
「えーーっと、じゃあ、壁を破りますよ。皆さん、付いて来て下さいよ」
ぼくは青の盾を壁に向けて発生させた。
一枚、二枚、三枚と丸い盾を増やしながら、力任せに壁に突進した。
壁は二枚の盾を壊したものの、派手な音を立てて崩れ、ぼくは無事、外に跳び出した。
後に続いて飛び出して来る皆さん。
コタローさんが言った通り、外は道に面していた。
そして、村人がそれぞれ盾を張り武器を持って、待ち構えていた。
大剣。大斧。大槍。ノーマルな長剣。武器は様々だった。
「外にもおったか。念の入った事じゃ」
フーコツはそう言って盾を五枚、横に並べて発現させた。
ミトラ、ジュテリアンも、フーコツに習って盾を並べた。
ぼくも盾を十枚まで復元させ、周囲に張った。
「パレルレ、危ない!」
フーコツが叫び、ぼくの頭上に水球を打った。
屋根の上にも村人がいたのだ。
そいつの事は後頭部の電子眼で見えていた。
その村人が飛び降りて来たのだった。
ぼくは金属身体なので、人間如きに壊される事はなかろうと、受け止めるつもりでいたのだが、フーコツの水球に撃たれて、その飛び降りて来た村人は遠くの地面に落ちてゆく。
しかし、身体を捻り、地面に打ちつけられる事なく、四つん這い状態で着地した。
コイツら、ちょっとヤバそう?
起動忍者部隊もそれぞれに盾を出現させ、背中の長剣、腰の短剣を抜く。
ぼくたちは頭上も背後もガチガチに防衛した。
ミトラ、フーコツ、ジュテリアンとぼくで、計二十五枚もの盾がある。
「攻撃してこないわね」
と、ジュテリアン。
「壊さず捕えるように命令されたから」
と、ランランカ。
「じゃあ、こっちから攻撃してみましょうか?」
ジュテリアンは、短剣型の杖を背後のホルスターに収め、背中の伝説の杖を抜いた。
「浄化ね?」と、ミトラ。
「そう。ランランカさんたちも解放出来たし、このくらいの人数なら、すぐに倒せるかも」
「倒せば、味方に出来るかも」と、ミトラ。
「待て。ジュテリアンお主、ここまでの道中、何度も回復光を射っておったであろう? エナジーは大丈夫なのか?」
「ふん。あんまり余力はないわね。でも、この人たちを倒して逃げるくらいなら大丈夫。たぶん」
ジュテリアンは伝説の回復杖のグリップ、三つの水晶体がある部位を脇に挟み、腰撃ちの姿勢で杖先を村人の群れに向けた。
だが、村人たちに逃げる気配がない。
ジュテリアンを僧侶と見抜いているのかも知れない。
アレドロロン村の伝説杖が、村人の目を使ってぼくたちを見ているのかも知れない。
「僧侶は何も攻撃出来ない。恐れるな」
と、指示が出ているのかも知れない。
「浄化して、傀儡から解放する。連れて逃げられないけど」
そう言うと、ジュテリアンは進み出て、詠唱した。
「喰らえ! 解放せよ! 大浄化!!」
ジュテリアンの盾以外の、ぼくたちの盾を内側から破壊し、八方にほとばしる光の帯。
前方と言わず、後方と言わず、頭上と言わず。
浄化光を受け、
「わっ!」と叫んで逃げ腰になる忍者たち。
一度目の浄化光の記憶はないんだし、ダメージはないけど、いきなり光の帯が身体にめり込んだら驚くよね。
「うがっ。闇呪術力がっ!」
「ぐげっ。光呪術力がっ!」
と、例によって呻くミトラとフーコツ。
村人たちの幾層もの盾をなんなく破壊して、その身体に侵入してゆく浄化光。
叫び声も上げず道に倒れてゆく村人たち。
「ぬはははははは! たわいもない!!」
杖先を左右に振って光線を射ちまくるジュテリアン。
「あはあはあはあはあはあは!」
上機嫌だった。
次回「進撃する蛮行」(前)に続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
次回、第百八話「進撃する蛮行」前編は、明日の土曜日に投稿する予定です。
読み切りショートショート集、「のほほん」「魔人ビキラ」なども書いております。
よかったら、読んでみて下さい。




