「ランランカの来襲」(前)
「村の人たちに気づかれちゃったわね」
と、ジュテリアン。
「村の人たち、なんか遠くを指してるけど」
と、ミトラ。
「ああ。向こうに入り口があるのじゃな。ほれ、絶壁に穴の開いた所がある」
と、フーコツ。
「あれが村の入り口だとしたら、あたしたち物凄く迷ってた?」
「そのようじゃな」
「あそこまで外側をぐるっと歩くの?」
「パレルレ、もう一度抱いてちょうだい。ここを飛び降りましょう」
「そうじゃな。それが一番早かろうて」
軽軽と村人の指示を無視する蛮行の三人娘だった。
ぼくは三人娘を抱いて、眼下の村に下りた。
「当たる!(ミトラ談)」
「屋根に当たる!(ジュテリアン談)」
「もっとブースターを噴射!(ミトラ談)」
「駄目じゃ、屋根が燃える!(フーコツ談)」
「あああああ!(三人娘談)」
と騒がれながら、間一髪、ぼくは家を壊さずに着地した。
「客人じゃ(厳つい髭だらけ村人談)」
「客人じゃ(精悍なスキンヘッド村人談)」
「客人じゃ(綺麗なおばさん村人談)」(以下略)
と言いながら、人懐っこい笑顔で近づいてくる数名の村人。
さらに、あちこちの家屋から次々と出て来る村人たち。
たちまち十数人に膨れ上がった。
「客人じゃ。客人じゃ」
と、お経のように唱えている。
服の色はとりどりであったが、皆、同じ貫頭衣だった。
筒状の衣に、頭、腕用の穴を穿ち、そこから部位を突き出す単純な衣服だ。
腰ひも一本で、胴を縛っている。
子供がいない。
年寄りもいない。
女性が極端に少ない。
そして、種族はまちまち。
人間が多いが、エルフ族、オーガ族、ドワーフ族、さらに単眼族や大きな耳やシッポのある獣人族まで居た。
(この寄せ集め感は何だ?!)
ぼくはちょっと怖くなった。
しかし、村人たちの手に、武器はない。
「どこから来なすった?」
「どこから来なさった?」
「どこから来んさった?」(以下略)
髭だらけも、スキンヘッドも、おばさんも、その他の村人も、ほぼ同じ笑顔で、同じ事をたずねてくる。
「ユームダイムから参りました」
フーコツが手を上げて言った。
その手を、「ここは任せろ」と言う意味に捉え、口を閉じるミトラとジュテリアン。
「ユームダイム。大きな街だ」
「大きな街は、ユームダイム」
「大都市、ユームダイム」
ユームダイムの事は知っているんだ。
村人の誰かの情報か?
全く村を出ないわけじゃないんだ。
しかし、
(その反応は変じゃないか?)
と思うぼくと、同じ気持ちらしい三人娘が、眉をひそめている。
いや、顔に出すのはマズいぞ、三人娘。
とはいえ、眉のないぼくの無表情を見習えと言うのも無理な話か?
「ええと、その、人を探しに参りました。白い衣服の女性と……」
「肌も、髪も、杖も白い」と、ミトラ。
「他にも黒い衣服の者が数名、一緒のはずです」
「たぶん、六人」と、ミトラ。
ミトラ、沈黙が怖い性格か?
ともかくもフーコツは、そうしてとっとと本題に入った。
「白い衣服は、ワンピースです。黒い衣服は、忍者衣装。男性たちです」
と、補足するミトラ。
寸時、硬直する村人たち。
(おっ。手応えあり!)と言う顔の三人娘。
そしてほぼ同時に喋り始める村人。
「はて? 白き者? 知らんな」
「黒き者? 知らんな」
「白きも黒きも知らんな」
「知らん。知らん。知らん」
無邪気な顔で「知らんぷり」する村人たち。
そしてそれは、「信用のおけない顔」でもあった。
(何か隠してやがる!)
と言う顔で眉間の皺を深めるミトラ。
(顔に出すでない!)
と言う顔でミトラを睨むフーコツ。
(顔で叫ばないで!)
と暴露る事をを恐れ切実に顔で願うジュテリアン。
「まあどうぞ、食事でも」
「お疲れでしょう、食事でも」
「お疲れは、まあこちらへ」
各各に手を広げ、笑顔で何処かへ誘う村人たち。
(どうする? 一旦逃げる?)
と言う顔のジュテリアン。
(怪しいけど、お腹減った。何か食べたい)
と、腹を鳴らして訴えるミトラ。
(まずは村人に従ってみるぞ!!)
フーコツが目力で叫んだので、彼女に従うジュテリアンとミトラ。
結局、声の大きな者勝ちなのか?
ぼくは「一旦、逃げるぞ!」派だったが、やむを得ず三人娘に従った。
三人娘は、十数人の村人たちに誘われ、赤レンガ造りの平屋に入ってゆく。
窓のない、板敷の居間に通された。
長方形の狭い部屋の中央に、大きなテーブル。
テーブルの周囲に、背もたれ椅子が全部で七脚も。
そしてテーブルの一辺に、横に並んで座る三人娘。その後ろに立つぼく。
一旦、村人が下がったので、話し始める三人娘。
「ランランカたちも、この怪しいもてなしを受けたのかしら?」
「椅子が七脚もあるのは、その名残りではあるまいか?」
「でも、姿がないのは、オカシイ!」
「しっ! ミトラ、声が大きい」小声で叱るフーコツ。
「な、なによ、いつもは大声で叱るくせに」
「盗み聞きされているかもしれないでしょ?」
「えっ?! ど、どこから?」
「天井裏とか、床下とか、幾らでも潜む場所があろうが」
「うーーん。誰もいないよ」
部屋の飾戸棚を開いて言うミトラ。
「勝手に歩き回らないで!」
「勝手に物を開けるでないわ!」
「ぷぷぷ」と、どこかから忍び笑いが聞こえ、
「ほら、やっぱり!」
と言う顔になるジュテリアンとフーコツ。
テーブルに立ち、天井を斧の柄で突こうとするミトラを止める二人娘。
そんな所へ、食べ物を持って入って来る村人たち。
ミトラは、慌ててテーブルから跳び降りた。
テーブルの天板を埋めてゆく田畑の幸、池の幸、果実の幸。
タレに埋もれたザリガニの素揚げ? お頭付き。
屋台でお馴染み、串焼きサウラー。
出汁に浸かっているのは、豚蜥蜴の角切りか?
色鮮かな、果実の数々。
たんまりの野菜サラダ。
芋類らしい煮物? 足のある焼き魚? 焼き鳥?
エトセトラ……。
食べ物、飲み物を並べ終えた村人たちは、
「どうぞ、ごゆっくり」
「ごゆっくりは、どうぞ」
などと口々に言い、部屋を出て行った。
盗み聞き確定、たぶん盗み見も確定の部屋で食事か?
三人娘には、おそらく何でもないだろうが。
次回「ランランカの来襲」(後)に続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
次回、第百六話「ランランカの来襲」後編は、明日の日曜日に投稿予定です。
危うし? 蛮行の三人娘。料理に毒が?!
と、思わない人はいないであろう展開。
それを承知で喰らうと言うのか?
幾ら「なろう」でも、乱暴ではないか?
「蛮行の雨」らしい、いや、「なろう」らしい展開はまた次回!
明日をお楽しみに。




