「大大大大福虫」(後)
地図で見ると、ピクアナイトは街道をこのまま、目的のアレドロロン方面に進んだ所にあった。
「でっ、では、ご一緒に!(ラナハ談)」
という事になり、今度はミード爺さんの息子さんとの道ゆきになった。
「馬車と一角馬が買えたら、仕入れもするから、帰りは明日になるよ」
とラナハさんは言い、人の良さそうなミード爺さん、可愛らしい奥さん、こまっしゃくれた顔の娘さんに見送られて、表街道を進んだ。
歩いても歩いても、振り返っても振り返っても、家族が手を振っている姿が見えるので、ラナハさんは、
「照れくさいなあ」
と、笑った。
布で包んだ剣歯のひとつは、なぜかフーコツが持った。帯でくくって背負っている。
もうひとつは、ラナハさんが同じくヒモで背中にくくっていた。
ラナハさんもフーコツも、
「重いでしょう」
「重いであろう」
と、言って自分で持ちたがったのだ。
もうすぐ売ってしまうので、別れを惜しんでいるのかも知れない。
ラナハさんは、「将来のために」と、御者資格を所得していたので、
「帰りは馬車を操って帰るから早い」
と語った。
馬車に追い抜かれ、荷車に追い抜かれ、マイペースで進む「蛮行の雨」とラナハさん。
雑談にも花が咲いた。
と言うか、間を持たすために、とにかく喋り倒す三人娘であった。
「なんと! クカタバーウ砦で、黒騎士様をお助けしたトンパチ突入隊とは、貴方達の事でしたか?!」
クカタバーウ砦発行の、「爆炎のギューフ軍討伐証明書」を見せなくても、ラナハさんは信用したようだった。
場つなぎには、丁度良い話題だと思う。
爆炎のギューフを倒したのはミトラ、ではなく黒騎士様。
ギューフの片目を潰したのも、ジュテリアンではなく黒騎士様。
火吹き大蜥蜴を二匹倒したのも、ミトラとフーコツではなくて、黒騎士様。
と言う事にしたが。
そうそう、ヌイサウラーは、巷の噂に合わせ、ヌイヌイヌイサウラーとして話した。
しかし、砦に突入して北と西の門を開けたのは、「蛮行の雨」だったので、「勇者団」のレベルは上がらなかったが、討伐ポイントはゴルポンドさんに次いで高かった。らしい。
「そうですか。お名前は失礼ながら存知上げませんが、ウチの親父なんぞに、こんな施しをして下さって」
そう言って、剣歯を包んだ背中の布を叩くラナハさん。
「きっと大成なさいますよ、皆さんは」
と、褒めてくれた。
「うん。確かに大成にはまだまだ程遠い!」
口を一文字に結ぶミトラ。
心強い仲間を得てしまい、テキトーな見聞の後、故郷のオララ集落に帰る話は忘れてしまったっぽい。
怖いな。大成、考えてんのか、ミトラ。
ピクアナイトへの道半ば、雑木林を背にして、お昼を食べる事になった。
輪になる四人と、輪の外に立つぼく。
固そうなパンを齧っているラナハさんに、
「どうぞ、この街道のテント村で二人分、貰ったので」
と言って自分の分をひとつ渡すミトラ。
「えっ? そ、それでは貴方の分が半分に……」
「大丈夫、こっちの二人に貰うから」
「うぬ。拒否の出来る案件ではないのう」
などのささやかな会話があった事は流そう。
ところが御弁当のフタを開けて、
「あら、びっくり(ジュテリアン談)」
中の具が、かなり乱れていた。
「あっ。パレルレ、ヒポポから逃げる時、ごろごろ転んでいたっけ?」
と、ミトラ。
『否! 爆風、爆風!』
と、サブブレイン。
「そ、そうだよ、卍手裏剣の爆発で吹っ飛ばされて転んだんだよ」
「確か、収納庫には押さえが付いておっだろうが? なんとした事だ」
「スプリングが効かないくらいの衝撃だったんだよ」
「いやでもこれは、混ぜ御飯だと思えば……」
大盛りのぐちゃぐちゃ弁当を見て呟くラナハさん。
確かに、ガチガチのパサパサパンよりは美味しそうだった。
いや、「よりは」と言う発言は失礼だ。
「うんまい!」
ラナハさんは笑顔で、混ぜ御飯大盛り弁当に食いついていた。
「煮物の味が焼き肉と混じって、美味い!(フーコツ談)」
「焼き魚が解れ、野菜と紛れて絶品!(ジュテリアン)」
「同感!(ミトラ)」
と言いながら、蛮行の三人娘も舌鼓を打った。
結果オーライとは、この事か?
次回「ラナハさんの買い物」に続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
次回、第百一話「ラナハさんの買い物」前編は、来週の木曜日に投稿予定です。
何事もなく百話が過ぎてよかった。
と思っているのはワタクシだけか?!




