「あなたは、メタルオーパーツ」(後)
観光客ふたりは去り、がっかりしながら、ぼくはまた辺りに埋まっている兵器?! の類いを見て回った。
他にする事が無かったからである。
バズーカ砲みたいなのや、ガトリング砲みたいなのも転がっている。
たぶん名称は違うんだろうが。
このように、ぼくの細やかな文明兵器の知識が消えていない。
おそらく、何か別の記憶が消されているんだと思う。
しかし、古戦場の情報は観光客の会話から、ある程度収集済みだ。
この荒地は遥かな昔、ムン帝国とやらを従えた大勇者サブロー(たぶん、日本からの転生者!)と、魔族、妖魔、幻魔、外道魔を従えた大魔王デスラモゴラが戦った戦場のひとつなのだ。
大勇者は大魔王を討ち倒した。
だが、駒として使われていたムン帝国は滅亡した。
一方、大魔王軍の、妖魔、幻魔、外道魔は絶滅危惧種となった。
今は古の名残りが、こうやって各地に散らばっているばかりなのだ。
その大勇者軍と大魔王軍の戦い、大魔王大戦からは、二千年以上の時が過ぎているそうだ。
ただし、一年が何日なのか、ぼくは知らない。
もっと言えば一日が、ぼくの元いた世界の「時間」と同じなのかどうかも分からない。
が、一日は一日なので、特に不自由はない。
生き延びた大勇者は、絶対権力者らしく酒池肉林に溺れ、世界中に子孫を残して、最後はヘンな病気を患って死んだ!!
やや平和な現代、コンプライアンス的に問題アリ! な勇者の死に様はディスられつつあるらしい。
などと物思いに浸っていると、
「あなた、戦場の地縛霊ね。さっき、叫び声を上げていたでしょう? 待ってね、今、成仏させてあげるから」
と声を掛けられた。
いつの間にか、足のないぼくより背の低い女の子が真横に立っていた。
黄緑色のツヤツヤした顔色をしていた。
たぶんドワーフだ。
この古戦場で見た人間やエルフたちに比べると、ずっと小柄だ。
目のぱっちりとした、唇のぷりんとした、可愛い見た目の娘だった。
古代紫色の金属鎧を着たその少女は、深緑の髪の毛をしていた。
おかっぱ頭だったが、襟足近くで切り揃えられた髪は、内側に曲がっていた。
癖毛なのだろう。たぶん。
太い革ベルトを腰に巻き、ホルスターには棍棒が差してある。
戦士と言うのだろうか?
「大丈夫。あたしはこう見えて、呪術職能者の家系に生まれたから。痛くないように成仏させてあげる」
その娘は、楽しそうな笑顔を見せた。
危ない!
話が成仏の方向で進んでいるっ!
「待って! ぼく、異世界から来たからっ!」
「うあ、なんと。転生者がムン帝国の駒となり、戦死して地縛霊に?!」
「いやぼくはこの、実体のない状態で、つい最近、転生したばかりなんですよ!」
「ふうん。身体のないスカタン転生ね」
小手をしていない素の手でぼくを指すドワーフの娘。
(ス……スカタン転生ってか?! くっそう! あの転生担当の女っ)
ぼくは改めて怒りが込み上げて来た。
「じゃあ、身体を与えたら良いんじゃないかしら」
「でもぼく、この古戦場から出られなくて」
「話はだいたい分かったわ。ここで身体を調達しましょう」
ドワーフの娘は、背負っていた荷袋を地面に下ろすと、中から猫形仮面の付いた兜と、小手を取り出して装着した。
フルアーマーだ。
「こうしないと、あたしの呪術は充分に発動しないのよ。まだ未熟だから」
そして辺りをキョロキョロと見回す少女。
「あっ、あれなんか良いんじゃない?」
少女は、胸のあたりまで斜めに地面に埋まった、ラグビーボールのような楕円形の頭のロボットを指した。
「ちょっと待ってよ」
ぼくは焦った。
「そのロボット、下半身がなかったらどうするの? ここ、戦場跡でしょ? 壊れて放置されてんじゃないの?!」
「ロボットって何? ここは古の戦場。古代の英雄が眠る所。彼はもはや場違い工芸品よ」
ロボットに近づいて、楕円形の頭部に積もった土を払った。
「オーパーツって言うの、こういう我楽多は」
(うわ。ガラクタって言ったぞ、この娘)
ぼくの身体は、その放置された場違い工芸品しかないのか?!
うん。
ないのかも知れない……。
次回「立て! メタルオーパーツ」(前)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
第二話「立て! メタルオーパーツ」(前)、(後)は、明日に投稿します。
ペンネームの「にれ たつや」を入れ忘れて、最初の「設定」の時に書いた「きあきあ」で登録されてしまいました。
作風、文体、アイデアが「魔人ビキラ」に似ているのは、作者が同じだからです。
決してパクリではありません。
ほなまた明日、「召しませ!(中略)ですか?!」第二話で、お会いしましょうか?!
(ペンネーム、「にれ たつや」に直せました)