表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/367

「大大大大福虫」(前)

ミード爺さんの息子さん、ラナハさんを説得するのは少し時間が掛かった。


「メロコトンのお礼」

  と、

「ヒポポサウラー退治を(ねぎら)ってくれた、ただ一人の人だったから」

  が、

剣歯をプレゼントした理由だったのだが、それだけではラナハさんを納得させられなかったのだ。


(話がうま過ぎる、なにかの詐欺(さぎ)かも知れない)

  とか、考えたのだろう。


「ううむ。実はだな」

  と語り出すフーコツ。

「あなたの父、ミード爺さんは、ワシの亡き父にそっくりだったのだ」

と、思いつき丸出しな事を言い始める()れ目で豊乳な魔法使い。


「お父上を見た途端、身体(からだ)にビリビリするものが走った」

  ヒポポを(くる)んだ布を抱いたまま、両手を合わせるフーコツ。

「これは女神様の(おぼ)し召しに違いない! とワシは直感した」


不治(ふじ)の病で無念の最後を(むか)えた父。

 乳飲子(ちのみご)(かか)えて泣き崩れる母親。

 そんな父の子として恥ずかしくない人生を送ろうと誓う乳飲子ことワシ。

 いや、ワタクシ。

 そして、人のため世のため、悪漢や魔獣退治に明け暮れ、疲弊(ひへい)していたワタクシの心の前に現れた父そっくりの老人! 

 嗚呼(ああ)。ワタクシはこの人の役に立つために今日(こんにち)まで旅をして来たのだっ!」


  と言うフーコツの世迷言(よまよいごと)に涙するミトラ。

その姿を見て(あき)れ顔のジュテリアン。


「そ、そうだったんですかっ!」

と、滝のような涙を流しながらフーコツに向かって叫ぶ壮年の息子、ラナハ。

抱きつきたい所であったろうが、いかんせん胸に抱いたヒポポの剣歯が邪魔だったのだ。


「お嬢ちゃん、苦労をしたんだねえ」

と、具体的な苦労話がひとつもない身の上に涙し、女神に合わせているフーコツのその手を握るミード爺さん。

  ラナハさんの嫁も子供も、もらい泣きをしていた。


ついにジュテリアンが、今まで我慢をしていた反動だろう、ドッ! と泣き崩れた。


ただ、フーコツだけが余りの効果に驚き、罪悪感に(ひた)(おぼ)れ、苦悶(くもん)の表情を見せていた。


「疑って申し訳ありませんでした、旅の方々。父の危ない所を助けて頂いたのに」

と、自分で話を盛りながら頭を下げる壮年の息子さん。嫁さんと子供。

「分かりました。ヒポポの剣歯は有り難く頂きます。そして必ずや、街の役に立ててみせますよっ!」

  と、大志を(いだ)息子(ラナハ)さん。


(これ以上ゴネずに受け取ってくれそうだから、まあ良いか)

  と言う顔のフーコツ。

グズグズ泣いているミトラに、自分の涙を拭いたハンカチを渡すジュテリアン。

  なんとが丸く? 収まってなによりだ。


「良かったわね、あなた。店の借金が返せるわ」

  思わず内情を口にして喜ぶ嫁さん。

「借金、借金!」と、無邪気にはしゃぐ子供。


「天の助け、地の女神。全くお礼の言葉もありません」

苦しい台所 (たぶん)なのに、それでも(もら)(いわ)れのないヒポポの剣歯を拒否しようとした息子さん。

  貧乏請負人(ビンボーうけおいにん)か、それとも借金に()りた疑心暗鬼人か?


が、まあ、ぼくたちの土産物(ヒポポ)が店を立て直す切っ掛けとなれば、なによりである。

(だま)されやすい性格が直らない限り、立て直しはムズカシイようにも思えたが。


「うむ。頑張ろうぞ、ラナハよ! ワシはもう安易な(もう)け話には乗らん!」

ミード爺さんが、息子の持つヒポポの剣歯を叩いて言った。

(いや、ぼくたちのヒポポ話に乗ってるから!)

  と、さっそく心配になるぼく。


「残り福虫、いや、大大大大福虫って奴だぜ、親父!」

  ラナハさんは、ヒポポの剣歯を抱きしめて言った。

「借金を返した残りで、一角馬(コーンマー)付きの馬車が買えるぞ、親父。商店街の共有にして、皆んなで仕入れに使おう!」

 なんだか、貧乏になったのが分かるような大志を語るラナハさんだった。


「しかし何処(どこ)に剣歯を売るかなあ。ウチの街の加工屋は小さいからなあ」

  と、ミード爺さん。


「せめてピクアナイトまで行かないと、(さば)けないだろうなあ」

  そして腰の長剣(ロングソード)()でるラナハさん。

「この剣はピクアナイトの武器屋で買ったんだ。あそこは加工屋も兼ねてる。きっと高く売れると思う。なにせこれだけの剣歯だ」


「あたしたちも、ヒポポの剣歯を売りたいの。一緒に、そのピクアナイトに行っても良い?」

  ミトラは白い歯を見せて迫った。


それにしても少し気になるのは、フーコツの身の上話である。

  大変な()け顔のお父さんが、早世(そうせい)

おかあさんは女手ひとつでフーコツを頑張って育てた?

  なんでおかあさんを残して旅に出たの?

おかあさんも亡くなっちゃた?

再婚してフーコツが邪魔になって追い出したという、イジメ物語でよくある展開?

フーコツ、復讐して、ざまあ物語を達成するために旅してる?

  こういうのも、追放系になるの?


まあ、フーコツの事だから、剣歯を受け取ってもらうために言ったデマカセ話だと思うのだが……。

  多少は真実が混じっているとしたら?


  いやいや、(すべ)てフーコツの作り話だ。

後腐(あとくさ)れのないように、ぼくはそう思う事にした。



            次回「大大大大福虫」(後)に続く




お読み下さった方、ありがとうございます。

次回、第百話「大大大大福虫」後編は、明日の日曜日に投稿します。

百というキリ回らしい大どんでん返し! はありません。

     ではまた、明日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ