「お礼はメロコトン」(前)
必死に走るぼくの後頭部の電子眼が、飛んで来る六枚の大型卍手裏剣を確認した。
紫と銀と金が二枚ずつ。
(ああ、天の助け!)
天から降って来た卍手裏剣は、ヒポポサウラーの背中や近くの草原に突き刺さり、そして即座に爆発した。
爆風をモロに背に受け、吹き飛ばされてゴロゴロと草原を転がるぼく。
ヒポポサウラーは転がるぼくの傍らを走り抜けた。
背中数箇所と頭部から、紫の血と白煙を吹いていた。
なんと言うか、そのう、裂けた皮膚から肉塊も見せていた。
そのまま池に走り込み、盛大に水飛沫を上げ、やがて沈んでいった。
『出血性ショック死?』
と、サブブレイン。
『あるいは、再浮上!』
「物騒な事を言うなよ」
起き上がりながら、ぼくは呟いた。
水面が紫色に滲んでゆく。
(死んだ? チんだよね?!)
心の中心で希望を叫ぶぼく。
(いや、死んでなくても今の内に逃げよう!)
(『御意!』)
サブブレインも勢い良く同意した。
「卍攻撃をするなら、前もって教えといてよ!」
ぼくは皆んなの所へ戻って言った。
爆発で身体に付いた泥や肉片は、フーコツが水魔法で洗い落としてくれた。
ぼくの身体を洗いながらフーコツは、
「荒っぽい作戦じゃから、前もって知らせると、お主、ビビってしまうであろうが」と、言った。
そのフーコツの言葉に、
「うんうん」とうなづいているミトラとジュテリアン。
「丈夫なゴーレムあっての作戦ですなあ」
と、ミード爺さんは感心していた。
街道は、何事も無かったかのように、往来が再開していた。
荷馬車のお爺さんは、ミトラたちと一緒に立っている。
お爺さんは、
「お疲れ様でしたぞ。儂の名はミード。こんな物しかないが、好きな物を食べておくれ」
と言って、荷馬車の布を外した。
沢山の木箱に、様々な果実が入っている。
「ただし、お一人様、二個までな」
と、付け足すミード爺さん。売り物なのだろう。
蛮行の三人娘は、淡いピンク色の、桃のような凹みのある果実を二個ずつ手に取った。
左様。三人とも、同じ物を手にしたのだ。
「うぬぬ。さすがは冒険者、抜け目がないのう。それが荷物の中で一番高価な果実だ、お嬢ちゃんたち」
唸るミード爺。
「この中で、食べるならこのメロコトンよね」
と言って皮ごと齧るミトラ。
したたる液体。
「うんまい! 体液が凄い!」
「果汁じゃ、ドワーフのお嬢ちゃん」
「ありがとう、ミードさん。待っていてくれて」
と、ぼく。
「退治を頼んだのは儂だからな。ヒポポサウラーの剣歯を取れなかったのは残念だが」
「ヒポポの剣歯?! そうだ、値打ち物だったんだっけ?」
と、ミトラが目を見開いた。
「そうじゃ。街道で退治したフーサウラーの角を売りに行ったら、『この辺りではヒポポの方が人気がある』とか言われたのう」
やや小柄だった偽黒騎士の絡んだ事件? を思い出したらしいフーコツ。
「あれだけの巨体ヒポポの剣歯であれば、さぞ高く売れただろうよ。傷が入っておらねば、だがな」
荷馬車にカバーを掛け戻しながら、お爺さんが言った。
「じゃあ、今から取って来よう!」
ミトラが元気良く言った。
「ウチのゴーレム、水に潜れるから!」
「そうじゃな、ワシらはメロコトンを食べるのに忙しい」
と言う訳で、ぼくは前照灯などを灯けて、池に潜った。
底の泥に足を取られながら、沈んでいるヒポポサウラーを見つけた。
すでに絶命しており、早くも傷口を小魚に突かれていた。強きも弱きも流転する。諸行無常だ。
ヒポポの口をこじ開け、ぼくは下顎の剣歯を捻り取った。
自分の剛腕と蛮行に驚きつつ、浮上する。
二本の剣歯を持って草原に上がった。
そのぼくの持つ剣歯を見て、
「大物だ!」と叫ぶミード爺さん。
そうなのか? 一メートル強の長さだが。でも、太さは凄いかも。
ぼくは身体に付いた水草や泥を、またフーコツの水魔法で洗ってもらった。
剣歯の根っこにこびり付いた肉は、ジュテリアンが、実は回復杖である短剣で削って落とした。
「これは凄い牙だ。一ペート(一メートル)以上あるのう」
ジュテリアンの傍らに立ち、腕を組んで唸るミード爺さん。
「一本はミードさんのものよ」
と、ミトラ。
「メロコトンのお礼じゃな。それが良い」
フーコツが後を受けて言った。
「なっ、何を言うか?!」
ミード爺さんはミトラたちを振り返って叫んだ。
「ヒポポサウラーの牙の値打ちを知らんのか?!」
「知ってるわ。一角馬付きの馬車を買ってなお、お釣りが来るのよね?」
ジュテリアンが応じた。
次回「お礼はメロコトン」(後)に続く。
お読み下さった方、ありがとうございます。
明日、金曜日には第九十九話「お礼はメロコトン」後編を投稿します。予定です。
「のほほん」「魔人ビキラ」など、読み切りのショートショートも書いております。
よかったら、読んでみてください。
脱力必至?! みたいな。




