「ヒポポサウラーVS蛮行の雨」(後)
ヒポポサウラー。
それは、ぼくの居た世界の動物で言うと、河馬そっくりの頭部をしていた。
でっぷりとした鎧蜥蜴だ。
体格は、図鑑で見たアンキロサウルスと言う、四つ足恐竜に似ている。
頑丈そうな背に、ゴツゴツの棘を幾つも生やしていた。
尻尾はいたって短いので、回転攻撃はないだろう。
草食の、普段は大人しいサウラーだそうだが、ナニかでキレると、時速六十キョロ(六十キロ)で爆走するらしい。
しかも、スタミナもあると言う、水性草食動物だそうだ。
「六十キョロかあ。あたしとパレルレは逃げられるけど、ジュテリアンとフーコツは踏みしだかれるわね。御愁傷様」
と、ミトラ。
「パレルレに抱いてもらって、彼奴を飛び越える事は容易じゃが……」
と、顎を撫でながらフーコツが言った。
「それだと、一般人を見捨てたみたいで、勇者団のイメージが悪くなるわねえ」
と、ジュテリアン。
「何処の勇者団が存知ませんが、退治してくれんかのう」
荷車の横に立つお爺さんが言った。
「えっ? 退治するの? 草食のサウラーでしょ?」
と、ミトラ。
「それはそうですが、暴れ出すと手がつけられんでのう。この辺りでは、年間千人くらいの人型が殺されておるのです」
と、爺さん。
「げっ。そ、それはひどい」
と、ミトラ。
ぼくも、確かに惨い話だと思った。
「火吹き蜥蜴も岩石大大蛇も近づかぬ、恐ろしき厄介者なのじゃ」
と、さらに物騒な事を教えてくれるお爺さん。
「あちらの草原の向こうに」
とフーコツが遠くで煌めく水面を指した。
「水面が見える。池か沼であろう。取り敢えず、あちらに移動させるかのう」
「パレルレよ。飛び上がって、彼奴の気を引くのじゃ。あの水面まで連れて行くのじゃ」
と、ミトラがフーコツの口真似をした。
「そうやって、街道を開くのじゃ。のよね?」
「そ、そうじゃ。パレルレ、頼んだぞ」
と、フーコツに言われ、ぼくはマントをミトラに預けた。
「うむ。こんな時のゴーレムですな」
と、お爺さん。
「もともと命がないから、死ぬ事もない」
ううむ。それが、ゴーレムに対するこの世界の認識なんだろう。
街道に突っ立っているヒポポサウラーに、ぼくは、そ〜〜〜っと近づき、
ドッ!
と足の裏のブースターを噴かせて飛び上がった。
ピーー。ピーー。と鼻歌? を掻いていたヒポポが、カッ! と目を見開き、すぐにぼくを見上げた。
口を大きく開き、
「ガパーーー!」と叫んだ。
下顎の巨大な剣歯が、剥き出しになっている。
(いや、ぼくの特殊金属身体でも、あれはヤバいだろう?!)
と、直感した。
上半身を捻り背中のブースターを噴かせて、水面の見える方向に空中を進んだ。
果たして、ヒポポがぼくに向きを変え、街道を離れた。
やがて推進力不足で地上に落ちると、四つ足の裏に車輪を出し、背中のブースターを止めてぼくは草原を走った。
(よし。このまま、水面に誘うぞ)
『御意!』
(あれっ? ヒポポが追いついて来るんですけど?!)
と、心の内に叫ぶぼく。
『意外的御意!』
と、同意するサブブレイン。
(速いよね? 聞いていたより、ずっと速いよね?!)
迫り来るヒポポサウラー。
ぼくは慌てて、再び背中のブースターを噴かせた。
(あの水面まで! 水面の縁でもう一度、足の裏のブースターを噴かせて、池だか沼だかを越える!)
『ヒポポ。池に落下!』
(そ、そうだ。それで逃げられるはずだ!)
『御意っ!』
爆音と言ってよい足音を立てて、距離を詰めて来るヒポポサウラー。
(うわあ! なんてスタミナだ、そこまで迫って来たっ!)
(くそっ、ブースターの熱風が熱くないのかっ?)
(あっ。鈍いのか? 釘を踏んでも、三、四歩、歩いてから『痛ッ!』とか言う横綱みたいな?)
(このままでは噛まれる! 多分、噛まれて凹む)
(下手すると凹んで死ぬ!)
『御意!』
(いや、そこは「御意」要らない!)
次回「お礼はメロコトン」(前)に続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
次回、第九十九話「お礼はメロコトン」前編は、木曜日に投稿予定です。




