「ヒポポサウラーVS蛮行の雨」(前)
「真夜中の訪問者ですよ」
「演劇のタイトルみたいな事、言わないでパレルレ。早い話が、夜這いな訳?」
胸元に手を突っ込み、たわわな部分を掻くジュテリアン。
「ふん。女ばかりだと舐められるのう」
胸元を直すフーコツ。
ジュテリアンは伝説の杖を、フーコツも攻撃杖を握っていた。
寝ぼけても冒険者だ。
ここは荒くれ者の身の上を心配する所か?
しかしミトラが顔を見せない。熟睡しているようだ。
「どどどどどどどうだい、お嬢さん方。真夜中のデートと洒落込まないかい?」
思った以上の上玉に、舞い上がっている様子の荒くれ者たち。
「ふん。テント村の出入り口までデートしてやろう。そこで警備隊に引き渡す」
「な、なんだと。大人しくしてりゃ図に乗りやがって。力づくで可愛がってやるぜ」
それから夜這い三人男は、胸元をチラつかせるフーコツの、豊乳の頭頂部が見えそうで見えない作戦に翻弄され甚振られ、別人のように顔を腫らした。
出入り口の検問所までは、ぼくが引きずって行った。
「私たちを襲おうとした姦物たちです」
「余罪があると思われる。厳しく取り調べてもらいたい」
ジュテリアンとフーコツが報告すると、
「おお。夜這い未遂事件が、他のテント村からも多数寄せられています。此奴らの仕業やも」
「よくぞ捕らえて下さった!」
と言う反応の警備隊員二人、うつむくひとり。
「ただの美女じやなかったぜ。金返せ、てめえ」
と喚く姦物のひとり。
その視線の先には、うつむく隊員が居た。
それで分かったのだが、検問所の警備隊員の一人が、金で買収され、「めぼしい女」の情報を渡していたのだ。
観念して、
「俺らだけが逮捕されるのは理不尽だ」と、内通者をゲロった荒くれ者のファインプレーであった。
国境の警備兵が、金をもらって越境を見逃すのとは違う。
いや、「金欲しさ」と言う点では同じだが。
荒くれ三人男と情報を漏らした警備隊員は、即座に街の屯所送りとなった。
余罪が見つかれば、死罪もあると言う。
案外、厳しい。
「公営テント村にあるまじき不祥事よな」
眉をしかめるフーコツ。
「何卒、ご内密に……」
と、小袋を差し出すテント村の責任者。
「あの不届き者らは、キッチリと罰します故」
小袋を受け取って、その重さを量るように手を上下させるフーコツ。
「これで土産物でも買えと言うのじゃな?」
懐に小袋を仕舞う豊乳女。
「うむ。後で売店に寄らせてもらおう」
「そうね。テント村で不祥事があったらしいけど、私たちはよく寝ていたので、何も見てないわ」
と、ジュテリアン。
「よって、言い触らす事はないぞ」
と、フーコツ。
「公営テント村の大失態など、知らぬ!」
そうして夜はつつがなく更け、翌朝、ミトラは、
「なんで起こしてくれなかったのよう!」
とムクれていたが、売店であれやこれやなお菓子を買ってもらい、たちまち機嫌を直したのだった。
その売店で、お昼ご飯用の弁当を買おうとしたら、
「『蛮行の雨』様のお弁当は、ドンパヤ隊長の奢りとなっております。どうぞ、どれでもお求め下さい」
と売店のお姐さんに言われた。
「えっ、大盛りでも良いの?(ミトラ談)」
「あっ、はあ、まあ大丈夫だと思います」
「トッピングは自由?(ミトラ談)」
「ももももちろん、無料で御座います」
「二つ頼んでも良いの?(ミトラ談)」
「そ、それはもう、二つまでなら」
などの交渉があり、それぞれ大盛り弁当を二つずつ頂くさすがの「蛮行の雨」だった。
昨夜の雨が嘘のように、晴れ渡った青空の下、まだあちこちに残る水溜まりをうっかり踏み散らしながら、ぼくたちは街道を進んだ。
やがて、人集りに出会った。
「おや? 街道が塞がっておるようじゃな」
「大道芸でもやってるんじゃないの?」
「岩なんかだったら、排除を手伝おう。パレルレが」
三人娘は三者三様に言いながら、人を掻き分けて前に出た。
見物人に聞いたところ、街道を塞いでいる目の前の物体は、「ヒポポ蜥蜴」と言う名の魔獣。との事であった。
目が開いているので、寝ている訳ではなさそうだ。
歩き疲れて、休んでいるのか?
横たわる巨体が、完全に街道を封じている。
「迂回しようにも、もし気づかれて追われでもしたら」
と思うと、恐ろしくて出来ない。
という話だった。
「ヒポポサウラーのう」
と、顎を撫でるフーコツ。
その、全長六メートルばかりの巨体を見上げて、思案顔の三人娘だった。
「確か、『この地方では、ヒポポサウラーが人気だ』と聞いたが、あのヒポポじゃのう?」
「そうそう。ちびっ子黒騎士と出会った時に倒した四つ足の火吹き蜥蜴の、ツノを売りに言ったら、そう言われたわね」
「今度こそ、お金になる獲物に出会ったって事ね」
ミトラは、やる気満々のようだった。
次回「ヒポポサウラーVS蛮行の雨」(後)に続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
次回「ヒポポサウラーVS蛮行の雨」後編は、明日の月曜日に投稿予定です。
ではまた、明日。




