「怪奇! コノコノ爺さん」(後)
「美味しいわね、この甲虫」
顔をほころばせてジュテリアンが言った。
「近所の果樹園で、美味しい果実を食べ荒らしているお陰だと思うわ」
と、ミトラ。
「宿の作ってくれた御弁当も美味しいが、やはり自分らで汗して捕らえた食べ物は格別じゃのう」
フーコツも嬉しそうだった。
お昼を終え、再び歩き出した所で、雨が降って来た。
蛮行の三人娘は、自分の盾を頭上に広げた。
ぼくも頭上に青の盾を広げた。
雨雲に遮られて、ぼくは光子エナジーを吸収できない。
だが、充電器に蓄えられたエナジーでしばらくは持つ。しばらくは。
大きさは調整出来るとは言え、盾は嵩張るので、こういう場合は出来るだけ道の端に寄らなければならない。
馬車などと接触したら危ないからだ。
街道を行き交う人々も、皆、頭上に盾を差すか雨合羽を着ている。
盾の傘は、魔力を消費する。が、致し方ない。
フーコツはローブが長いので、裾を捲り上げて腰のベルトに差している。
いつもは隠れているピンクのロングブーツと膝頭が剥き出しになっていた。
一見すると、あらら? な姿だが、こちらも濡れないためだ。致し方ない。
一列になって進んでいると、ローブ姿の人が座り込んでいるのを見つけた。
街道を少し離れた小さな丘の斜面だった。
「あら、あんな所に人が」
と、指をさすミトラ。
フードを被っているので、人型だが、厳密には人かどうかは分からない。
盾も差さず合羽も着ずに、そぼ降る雨に濡れている。
「雨に打たれるのが好きな詩人かも知れぬ。ソッとしておこう」
と、無難にやり過ごそうとするフーコツ。
「渡せる雨合羽もない。ここは見て見ぬフリ……、こらミトラ、待たんか! 人の話を聞けっ」
ミトラが雨に打たれている人? に走ってゆくので、ぼくも後を追った。
「もしもし、どうしました? 雨が好きなんですか? 余計なお世話だと思いますが、友だちがそんな事を言っているので」
と、声を掛けるミトラ。
フードを被りうなだれていた人が、ヒョイと頭を上げた。
口が半開きだった。
そして、瞳がグルグル回っていた。
「うひゃん!」
嬌声を上げて、一挙に跳び下がるミトラ。
ぬかるみに着地して泥水を散らした。
盾を斜め前に差し、泥水を盛大に跳ねて走って来るジュテリアンとフーコツ。
ミトラの嬌声のせいだろう、やって来る二人は険しい顔をしていた。
すでにをフーコツは短杖を、ジュテリアンは伝説の杖を抜いている。
「この人、寄生されてる!」
ミトラが男にもう一度近づきながら、叫んだ。
「ああ、コノコノを生で食べたのか。愚か者め」
と、雨に座るその人、老人のグルグル回る瞳を見て眉を寄せるフーコツ。
コノコノとは、この世界の陸の巻き貝で、生で食べると支配される事があると言う。
瞳をグリグリさせながら、やがて深い森に入って行き、魔獣のエサになるのだそうだ。
そして、コノコノの卵は魔獣の糞と一緒に森の大地に落ち、巻き貝はテリトリーを広げるのだ。と言う話であった。
大した巻き貝、そして大した調査だ。
ジュテリアンは、斜面に座る濡れ濡れローブ男に杖を突き出し、モーションなしで、
「浄化!」と唱えた。
八方にも走る光の帯。
直撃を喰らって胸を押さえるミトラとフーコツ。
ポカンと口を開けてぼくたちを見上げているローブの老人にも、何発かの浄化光が当たった。
するとそのローブ老人は、瞳をクルンと回して目を白くし、仰向けに倒れた。
「経験から言って、これで寄生虫は死んだはず」
と、ジュテリアン。
「杖は伝説だし大丈夫だと思うけど、侵食が深いと、元に戻れるかどうか分からないわね」
自信はないようだった。
それだけ深刻な寄生だと言う事だろう。
「素人診断じゃが、侵食はまだ浅かろう。浄化光でひっくり返ったからな」
フーコツにも、経験があるようだった。
「回復院に放り込んで専門の治療を受ければ、なんとかなるのではないか?」
「もう街が近いはずだから、連れて行くわよ。あなたが」
と、ミトラ。
「とりあえず、警備隊屯所へ。面倒事は、警備隊に限る」
びしょ濡れだったが、ローブ老人は軽かった。
「見た目、結構なお爺さんよね。どうしたのかしら」
と、ジュテリアン。
「また、悪食学会の手の者かのう」
顔をしかめて言うフーコツ。
そんなのあるんだ。僕の居た世界でも、
「何にでもコメントする、『コメント学会』」とか、
「いかなる物にも評価を下す『評価学会』」とかが繁盛してたけど。
「うーーうーー、唸ってるけど、意識はないのよね?」
ぼくに背負われたお爺さんを見上げるミトラ。
「ないはず」
ジュテリアンがキッパリと応じた。
「コノコノに寄生されると、意識は失うそうよ。きちんとした治療を受けないと、戻ってこない。らしい」
死にたがった訳ではなく、人騒がせな迷惑爺さんである事を、ぼくは祈った。
次回「黒騎士近衞団」(前)に続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
次回、第九十七話「黒騎士近衞団」前編は、明日の金曜日に投稿する予定です。
一話完結のショートショート(回文オチ)、「続・のほほん」「新・ビキラ外伝」も、よかったら読んでみて下さい。
馬鹿馬鹿しさは、保証します。




