「怪奇! コノコノ爺さん」(前)
「昨夜は私も占ってもらいまして」
と、ひどく緊張した様子で喋るソルダ班長。
「『討伐団の逆鱗に触れれば死ぬ』
と言われまして、参上つかまつりました次第」
「逆鱗って、わたしたちの? 確かに私たちはナラズ者集団だけど、そこまで無茶はしないから」
と、ジュテリアン。
「そうそう。たまに突然キレる程度だから」
と、ミトラ。
「警備隊員を殺めては、よほどの理由がない限り、重罪は確定だからのう」
理由があれば迷わず殺生する事を宣言して、ソルダさんをビビらせるフーコツ。
「奇岩山の亡霊は、今も山籠りと言う事でしょうか?」
「そうですね。特段、悪さをする訳でもないようですし」
テキトーな事を言い、フェアブさんを擁護するジュテリアン。
それから多少、クカタバーウ砦での、魔族との攻防戦の話をした。
ソルダ班長が知りたがったのだ。
「パレルレから飛び降りたオーガの大剣扱いは、大大大火吹蜥蜴を一刀両断に斬って捨て」
とか、
「その時、ギューフは大火柱を放ち、あたしはたまらず吹き飛んだ!」
などと盛って話す三人娘のヨタ話を、ソルダさんは喜んだ。
たぶん隊内で、「蛮行の雨の蛮行突入」を仕入れたのだろう。
昨夜の非礼? を詫び、
「それでは私はこれにて。お食事中に申し訳ありませんでした。お先に御無礼仕ります」
と言って、ソルダさんはギクシャクとした歩行で去って行った。
「なんで緊張してたの、あの人?」
と、ミトラ。
「ワシらの機嫌を損ねて暴れられたら、『旅館の損害は全て私の自腹!』とか考えておったのではないかな?」
と、フーコツ。
「どんな無頼漢よ、私たち」
苦く笑うジュテリアン。
「だから、名前なんか売れたら駄目なのよ。こうやって、よくない方向に尾ひれ背びれが付くだけなんだから」
「ユームダイムの狼藉が、まだ伝わってないようで良かったのう」
「ロウゼキってなによ。飛行竜に乗った魔族を撃墜して、岩石竜をブッ殺しただけじゃん」
雑談を適当に切り上げ、宿に頼んでおいたお昼用の御弁当を受け取り、ぼくたちはトゥープの街を出た。
「雲行きが怪しい。雨になるやも知れんな(フーコツ談)」
とか言いながら、アレドロロンの方角に歩みを進める。
お昼ご飯は、黄色い花の咲き乱れる草原で食べる事になった。
茎の長い黄色い花は、プアアサラダと言い、ぼくの居た世界で言う「豚」のような動物が好んで食べる植物だそうだ。
「若葉は厚みがあり、苦味がなくて、揚げたら美味しいのよ」
と、花ではなく若葉を摘みまくるミトラ。
手伝うジュテリアンとフーコツ。
ぼくも四本の手でテキトーに若葉を摘んで、叱られた。
うん。知らないのに手伝うものではない。
ぼくはダニの類いを、食べもしないのに心配したが、
「揚げてしまえは大丈夫!」
と言う返事だった。
旅人は、こうでなくては務まらないのか?
ぼくの居た世界では、魚介類の寄生虫アニサキスが、激痛、嘔吐を伴う食中毒を起こすので有名だが、
「加熱してしまえば大丈夫」な話と一緒だ。
釣った魚をサシミにして食べ、アニサキスに当たったが、
「胃潰瘍になっちゃって」
と言い訳をしていた会社の同僚を突如思い出した。
あいつ、釣りが趣味だって言ってたもんなあ。
今も元気に釣りして、当たったりしてるんだろうなあ。
羨ましい。
それはさておき、油と小さな鍋やフライパンは、ぼくが収納している。
花の蜜を舐めに来た小さな甲虫も捕らえ、若葉と一緒に小さなフライパンで揚げた。
「野の揚げ物」は初めてではない。
小さなトカゲ、池や小川の小魚も揚げて食してきた女性たちである。
そのため、胃もたれのしにくい菜種油的なモノを使っている。
パリポリと、美味しそうな音を立てて甲虫を食している三人娘だった。
食あたりしなければ、良し! だ。
次回「怪奇! コノコノ爺さん」(後)に続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
次回、第九十六話「怪奇! ノコノコ爺さん」後編は、
たぶん来週の木曜日に投稿します。
一話完結で、「続・のほほん」「新・ビキラ外伝」などあります。よかったら、読んでみて下さい。




