「続・蛮行の雨VSオババ様」(前)
「如何に起用に人型に化けようとも、このオババ様の眼は誤魔化せぬぞ」
両手に分けた石のブレスレットを振り回し始める老婆。
「オババ様、亡霊は四体も居たと言う事でございますか?」
神妙な顔でたずねるソルダ班長。
「うむ! そう言う事になるのう。どれ、正体を見てやろう」
お婆さんは腕まくりをし、詠唱した。
「天に在す精霊よ! 大地に在す精霊よ! 海に在す精霊よ! 吾の願いを聞き届けたまへ!!」
X字型に何度も細い腕を振りながら、
「滅せよ魑魅魍魎っ!」
と叫んで両手を前に突き出した。
そのお婆さんの前には、真顔の三人娘が居た。
しかし、三人娘に変化がないので、
「滅せよ、妖怪変化!」
と、唱え直した。
だがそれでも変化がないので、
「滅せよ、奇奇怪怪!」
と、さらに喚き直した。
けれどもやはり変化がない三人娘。
「かっ、かなり深く侵されておるぞ、この者ども!」
「オババ様の除霊術を受けて、ここまで平気な化け物はおりませなんだぞ」
と、ソルダ班長。
「見込み違いと言う事はありませんか?」
「そっ、そんなはずはないっ。この者ども、確かに怪しき気配を発しておるのだっ!」
額に汗して腕を振るオババ様。
「オババ様。優秀な冒険者ほど、歪な気配を放つと言うではありませんか」
なだめるようにソルダ班長が言った。
そんな二人のやり取りにシビレを切らしたのか、
「パレルレ、私の杖を」
と、ジュテリアンが言ったので、部屋の隅に無造作に立てかけてあった伝説の杖にぼくは歩んだ。
「こ、こらっ、勝手に動くな」
慌てた様子で言うミーレス平隊員を無視して、ぼくは伝説の杖を持ち上げた。
ぼくのパワーを持ってしても、かなりの重さに感じる奇妙な逸品だった。
質量増大の魔力か? 重力強大の呪いか?
ともかくも、ベッドの前に立ち上がったジュテリアンに、ぼくは杖を渡した。
重さを持て余し気味に渡す杖を、軽々と手に取るジュテリアン。
「な、なんじゃ、物の怪娘。吾とやろうと言うのかっ?!」
興奮冷めやらぬ様子のオババ様が、腕輪をメリケンサックのように手に巻いて構えた。
警備隊員たちは、凛凛しい美女は苦手なのか、ジュテリアンに対して剣や杖を構えてはいるが、形ばかりである事が足の配置で分かった。
「私は僧侶ですので、浄化力で対抗しようと思います。よろしいですか?」
と、ジュテリアン。
「ふん。面白い。やって見せよ」
余裕をカマして答えるオババ様。
「怪しい動きをみせたら、直ちに攻撃しますよ」
と、ソルダ班長は言ったが、両者は近すぎた。
ジュテリアンが本気で攻撃したら、瞬殺される距離だ。
すでに「眼前暗黒感」の攻撃、いや回復範囲である。
「では、浄化光を放ちます」
ジュテリアンは、杖を少し持ち上げた。
すでに、赤い水晶玉が輝きを増している。
「滅せよ、悪しき魂よ! 浄化」
と、唱えた。
何十条もの黄金色の光の帯が八方に広がった。
オババ様は何本もの直撃を受け、
「ぎゃっ!」と叫んでひっくり返った。
叫ばぬまでも、胸を押さえる闇呪術師ミトラ、光呪術師フーコツ。少しは効いているのか?
「オババ様!」
しゃがみ込み、老婆を抱き起こそうとするソルダ班長。
ヘラっとした笑顔で、鎧を撫でているミーレスさん、サルダートさん。
気持ち良かったのだろう。
「あっ、服の模様が?!」
異変に気がつくソルダ班長。
「あっ、顔の模様も?!」
「消えてしまった!」
他の二人の隊員も叫んだ。
老婆の衣服は幾何学模様が消え、純白のワンピースになっていた。
顔の模様が消え、案外やさしげな素顔を晒しているオババ様。
「ふん。そ、その除霊師は、紋様の化け物に取り憑かれておったのではないかな?」
若干の動揺を見せながら、フーコツが言った。
「うう。此処は何処? 私は誰?」
純白ワンピースのオババ様が目を覚まし、ありがちな台詞を吐いた。
「オババ様、気がつかれましたか?」
半身を起こしてやるソルダ班長。
「オババとは、なんですか? 私の名は……、なんだっけ?」
引き起こされながら、
「貴方たちは……誰?」
と警備隊員に問うオババ様。
「こ、これはしたり! ソルダです。オババ様の術で、夜尿症を治して頂いたハナタレのソルダですよっ!」
「痛みもなく虫歯を抜いて頂いた、凸凹頭のミーレスです!」
「縄跳びの二重跳びを教えて頂いた、運動音痴のサルダートで御座います!」
オババ様に信頼を置くのが分かる警備隊員たちの叫びだった。
「な、何を言っているの、貴方たち」
先程の除霊とは打って変わって、穏やかな声と表情で呟くオババ様。
「あの、あのう。新たな問題が発生しましたので、今日はこれで失礼致します」
警備隊員たちは、協力してオババ様を小脇に抱えた。
「ええ、皆様の疑いは晴れました。しからば御免!」
そう言って、ソルダ班長以下、三名の警備隊員は部屋を出て行った。
「なんだったの、オババ様」
と、ミトラ。
「除霊術を高めるために、色々と自分を強化していて、うっかり何かに憑依されたのではないかな?」
と、フーコツ。
「その、ナニカ。私たちの街への侵入を感知して、先手を打って倒そうとしたのかしら?」
とは、ジュテリアン。
「優秀な悪霊ですね。反対に浄化されたみたいだけど」
ぼくは感心して言った。
次回「続・蛮行の雨VSオババ様」(後)へ続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
次回、「続・蛮行の雨VSオババ様」後編は、明日の土曜日に投稿します。
ではまた、明日。




