表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/366

「蛮行の雨VSオババ様」(後)

ぼくが扉を開く前に、ミトラたち三人は姿勢を正して、それぞれのベッドの(ふち)に腰を掛けた。


扉を開くと、

「夜半に申し訳ありません」

と言いながら、紺色の革鎧(レザーアーマー)を着た警備隊員が三人、入って来た。


  装備は長剣が二人、長杖が一人だった。

鎧の胸に「トゥープ」の文字がある。

「警備隊班長、ソルダと申します」

「同じく副班長、ミーレス」

「平隊員、サルダート」


そしてさらにその後から、小柄なお婆さんがひとり、入室した。

  派手な幾何学(きかがく)模様の衣服(ワンピース)を着ていた。

顔にも白線で模様が(えが)いてあった。

  手首には、綺麗な石をつないだ腕輪を幾つもしていた。

パワーストーンか?


  そちらのお婆さんは、名乗らなかった。


「こちらの勇者団が、奇岩山ヴレームトを越えて来られたと聞いたものですから」

三人の中で一番体格の良い、ソルダと名乗った隊員が言った。


宿からの通報だろう。

  ジュテリアンの疲労した姿を見た宿の人に、

「大丈夫ですか、お客様」と、問われ、

「はい。近道と思い、奇岩の林立する山を越えてしまったものですから、少し疲れております」

  と、答えていたからだ。


「はい。地図を見たら、近道のようでしたので、越えました」

  さらりとジュテリアン。

「ヘトヘトんなったので、こんな事なら街道を歩けば良かったと思いました」

  と、ミトラ。


「それでそのう、奇岩山を越える時に、何かその、変な事はなかったですか?」

  ソルダ班長が、言いづらそうに喋った。

ジュテリアンとミトラが顔を見合わせたタイミングで、

「特になにも」

  フーコツがそう言ったが、すぐに、

「いや。昼間だと言うのに、空に突然、星が現れたっけ」

  と言い直した。


「ああ、北の空の星。わたしも見ました」

  と、ソルダ班長。うなずく他の隊員。

「突然、発行石の光が増したり、大変な一日でした。何かのパワーが降り(そそ)いだのかも」


「で、皆さん、何事もなかったんなら良いのですが、そのう、いつの頃からか、奇岩山には化け物が棲み付いたと噂されておりまして」

  とは、副班長ミーレスさん。

(フェアブさん、化け物にされちゃってる?!)

  と言う顔の三人娘。


「人間に悪さでもするのですか?」

  トボけるフーコツ。

「い、いえ、特に何も。滅びた教団の亡霊が、(つつ)ましく生きているとの噂でして」

  (あわ)てた様子で補足するミーレス副班長。

「亡霊が生きている?!」

  矛盾した表現に突っ込む三人娘。


「それで、警備隊の見解はどうなんですか?」

  少し踏み込むジュテリアン。


問われた警備隊は口々に、

「人畜無害であれば、我々も取り立てる事はありません」

「残念ながら、『立ち入り禁止』の立て看板通り、我々には不可触領域なのです」

「無頼漢どもの溜まり場になっておらねば、それで良いのです」

  などと応じた。


「無頼漢など、亡霊が追い払ってくれるでしょう」

  と笑うジュテリアン。

「そ、そうなのです。実にそのような事象が、過去にあったようでして」

  少し目を泳がせて言うサルダート隊員。


「ワシらは地元の噂を知らず、近道と思い、越えてしもうた」

  と、フーコツ。

「それだけの事じゃが、何か?」


そのフーコツの不敵な言葉に、それまで黙っていたお婆さんが、

「亡霊が人間に化けて下山した。それがお主らだ、と言う話に落ち着いたのじゃ」

  と、自信満々に言った。

「なんとなれば、突如として真昼の天空に星が出現した! 発行石が強く輝き、タイミングを同じゅうして、

『山を越えて来た』と言う者が街に侵入して来た!」


(おう、言いがかりの見本!)

  と言う顔で目を()くフーコツ。

「検問所で、ちゃんと身分手形を見せたわよ」

  抗議の口調でミトラが言い返した。


「そんな物、亡霊の妖術でなんとでも出来よう!」

  (わめ)く幾何学服老婆に、

「ああ、オババ様」

  ソルダ班長が慌てて手を振って、

「ええとそのう、街一番の除霊師が形式的に取り調べますので、なにとぞ御協力を」

  と言い、口を結んだ。


「身の潔白が立てられるのだ。拒否する理由はあるまいがっ?!」

  オババ様が力んだ。

ぼくたちが、ヴレームト山の亡霊の化身(けしん)だとしたのは、このお婆さんで間違いないだろう。


「問題ない。その疑いはもっともじゃ。では、存分に」

  と言って立ち上がり浴衣(ローブ)を脱ごうとする豊乳の妖艶女(フーコツ)を、

「あっ、脱衣の必要はありません!」

  両手を振り回して制するソルダ班長。


「ぬぬぬ。色仕掛けで男らを(たぶら)かそうとするとは! ますます怪しき者ら!」

  手首の幾つもの腕輪を(はず)して、手に握るオババ様。

「まずその黒銀(エレギュミュシ)の、いと長き髪の(をんな)のベッドに並んで座るのだっ」


言われるままに、フーコツのベッドに並んで座る蛮行の三人娘。

なぜフーコツのベッドだったかと言うと、単に、扉に一番近かったからだろう。


「おう。三人が並ぶと歴然としてきた!」

手に巻き直した腕輪を、じゃらじゃらと鳴らすオババ様。

「この者たち、明らかに怪しげな気配を(かも)し出しておるぞ!」


「ほ、本当ですか、オババ様?!」

  ソルダ班長は、腰の長杖(ロングロッド)を抜いた。

他の二人も、眼を険しくして長剣(ロングソード)を抜いた。


三人とも、

貴方(あなた)たち、背中に悪霊が!」

と言われたら、即座に信じそうな純朴な目をしていた。

大丈夫か、この街。

  ぼくのいた世界では、

暴力団対策(マルぼう)の刑事は、暴力団と同じ眼をしている」とか言われてるぞ。


それだけ、警備隊員たちの老婆への信頼が厚い、強いという事だろうが。

  おそらく、幾多の実績を積んで来たお婆さんなのだ。

そしてこちらは、通りすがりの討伐団。不利だ。


(厄介(やっかい)な敵だ)

老婆の言動は、ぼくらに対する明らかな敵対行為だった。



      次回「続・蛮行の雨VSオババ様」(前)に続く



お読み下さった方、ありがとうございます。

次回、第九十五話「続・蛮行の雨VSオババ様」前編は、

明日の金曜日に投稿します。


楽しみな方、お楽しみに。

小生は毎回、楽しみです。たぶん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ