「蛮行の雨VSオババ様」(前)
ロビーや廊下の発光石は、すべて布で覆われており、色布越しの光はファンタジックだったが、少し暗いように感じた。
布は小さな釘で壁に留められている。
部屋に入ると、壁や、テーブルの上の筒型発光石も、布に包まれていた。
「ランプもあるわ。ああ、『暗いようでしたら、お使い下さい』って、メモ書きがある」
と、ジュテリアン。
「そう言えば、ちょっと暗い感じかしらね」
「包んである布の厚みを調整したら、良いのよね。パレルレ、布!」
と、ミトラ。
ミトラは手持ちのタオル系をアレコレ出してみたが、明るすぎたり暗すぎたり、うまくいかなかった。
「くそう。上手くいかない!」
悔しがるドワーフの娘。
「すでにそれなりに調整済みってわけね」
と、ジュテリアン。
「大変だったであろう、宿屋も」
と、フーコツ。
女性たちは浴衣に着替え、風呂が使えると言うので、入りに行った。
長風呂だった。
果たして、のぼせた感じで帰ってくる三人娘。
「ミトラったら、ワイドタオルで風呂場の発光石を調整しようとするのよ」
ジュテリアンがボヤいた。
そういう長風呂だったのか。
三人は、売店で買ったという瓶入りのお茶をグビグビ飲み、街道で貰った煮干しを齧り始めた。
そして始まる雑談。
「ねえねえ、ちょっと拷問を考えたんだけど、聞いてくれる?」
と、ミトラ。
「お主はまったく、悪党を痛めつける事しか考えておらんのか?」
呆れるフーコツ。
「痔持ちの魔族に辛い物を食べさせると、お尻の穴が凄く痛むそうじゃないの」
「それは人間でも魔獣でも同じだと思うが」
「それって、拷問に使えると思わない?」
「痔持ち専門の拷問になるのう」
「だから、お尻にコブが出来るような拷問をまず行って……」
「糞詰まりの回復魔法を十日ほど掛けて、その後、脱糞怒涛の回復魔法に切り替えるとか?」
「おう。尻はイッパツで壊れそうじゃ」
「いや、裂けると思います、私は」
「そんな事ばかり考えていると、罰が当たって痔になるよ、皆さん」
ぼくはやんわりと注意した。
「パレルレお主、尻穴がないと思うて気楽に言うのう」
三人娘のお陰で、決して気楽な人生ではなかったが。
煮干しを食べ終えると、三人はそれぞれそのまま、ベッドに寝転んで眠ってしまった。
そしてぼくが、V字盾でジャグリングクラブの練習をしていると、起きて来て、
「そろそろ晩御飯、食べる?」
と、本能のままに言う三人娘。
やがて、ぼくを残して階下の食堂に去った。
早い晩ごはんを食べ、ゲップなど発しながら帰って来る乙女三人組。
洗濯物は例の如く部屋の隅の乾燥室に入れ、フーコツかま温風の呪いを掛けた。
それから、めいめいのベッドに横になり、膨れたお腹を撫でたり、内股を掻いたりしながら、また雑談を始めた。
「食堂の『お品書き』に、ラクガキがしてあったでしょう?」
と、ジュテリアン。
「あーー。『敵に言うべきトドメの七文字』?!」
と、ミトラ。
「お主なら、何を言う? ミトラよ」
と、フーコツ。
「観念せい!」
即答するミトラ。
「七文字だって言ってるでしょ!」
怒るフーコツ。
「お観念せい!」
言い直すミトラ。
「笑ってるけどフーコツ、貴方なら、どう言うのよ」
「特定機密!」
「フーコツ、難しそうな事を言っただけじゃん」
「正解はなんなんですか?」
ぼくは、聞いてみた。
「正解なんかないわよ。ただのラクガキなんだから」
と言うジュテリアン。
「パレルレ、なんで尾頭もないあたしらの話に突っ込んで来るのよ」
ミトラはなぜか御冠の態だった。
「そうそう。女子会の話に意味を求められても困るんだけど」
ジュテリアンがツッコミ返しをして来た。
(くっ。男の不覚か?!)
ぼくは深く反省した。
雑談は続いた。
今度は、少し意味があるように思われた。
「伝説の杖のあるアレドロロン村って、アビソ便契約がないのよ」
と、ジュテリアン。
「へえ。いかにも僻地っぽい」
と、ミトラ。
実際、ヘキチなんだろう。
「なんかこう、静寂の中に佇む伝説の杖が、目に浮かぶじゃん」
「おう、ミトラ。詩人じゃのう」
(下腹をポリポリ掻きながら、「セイジャク」だの「タタズム」だの常套句を並べて、何処の詩人だ)
ぼくは腹の中で異論を唱えた。
(決まり文句横丁の凡句詩人か?!)
突っ込み返しに落ち込んだぼくの、ただの不満であった。
などと、物静かにディスっていると、ノックの音がした。
「うあ。お客?」
半身を起こして姿勢を正すジュテリアン。
「パレルレ、出て」
と、起き上がり手を振るミトラ。
「どちら様ですか?」
ぼくは鍵の掛かった扉に言った。
「トゥープの街の警備隊員です。ちょっと、お伺いしたい事がありまして。入室を許可して頂きたいのですが」
と言う言葉が返ってきた。
「街の警備隊だってさ」
「よかろう。入って頂こう」
フーコツの返事は、簡潔だった。
次回「蛮行の雨VSオババ様」(後)に続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
次回、第九十四話「蛮行の雨VSオババ様」後編は、木曜日に投稿予定です。
今回の話は、木曜日に投稿する予定でしたが、ヒマなのと、カウントが多いのとで、すけべ心を出して今日、投稿しました。
明日は二月の満月。
綺麗に見えると良いなあ。火星はまだ近いのかなあ。




