行商人プピペテラ」(前)
宿屋を出て、
「メリオーレスさんに、お別れしておこう(ミトラ談)」
という事になり、ユームダイムの討伐ギルドに向かった。
メリオーレスさんにはクカタバーウ砦に行く時、隊長であったロウロイドさんに向けて手紙を書いてもらった。
また、このユームダイムまで馬車に乗せてもらった。
色々とお世話になっていたので、ジュテリアンもフーコツも賛成した。
討伐ギルドは仕事柄、年中無休、年柄年中しばしも休まず営業している。
ギルドに入るのはアルファンテ以来だ。
建物は大きく、
「凄い! こんな大きなギルドもあるのね」
と、ミトラが声を上げた。
レンガ造り三階建てであった。そして建物の幅が広い。
入ってみると、朝っぱらから賑わっていた。
黒騎士が「お付きの部隊」を従えて乗り込んでいたので、室内は一挙に騒ついた。
「引き潮の海」は、ギュネーさん以外、黒装束だ。
アヤメさんも、黒装束。
「蛮行の雨」は、ぼくが黒色迷彩だった。
全体に、黒っぽかったのだ。
「すわ! 如何なる討伐依頼か?!」
と思われたのだろう。
カウンターの受け付け嬢たちが硬直していた。
受け付け嬢にはメリオーレスさんがいなかったので、面会を求めると、
「彼女は二日酔いで、昼からの出勤になると連絡が来ています」
との返事だった。
「あらあら、二日酔い? 昨夜の祝勝会で羽目を外し過ぎたのね、メリオーレス」
ジュテリアンが笑った。
すると、フーコツが顎を撫でながら、
「いや、違うな」
と言った。
「黒騎士殿に『お持ち帰り』を断られたので、ヤケ酒を飲んだのであろう」
「えっ? じ、じゃあ、私たちの部屋で黒騎士さんが一夜を明かしたと知ったら……」
と笑顔から一転、顔を強張らせるジュテリアン。
「うむ。夜遅くまでの嬌声は、すでに宿屋の者に知られておる。いかに言い訳をしようが真実を語ろうが、『何もなかった』などとは……」
「信じてくれないわ! 早く逃げよう」
ミトラがキッパリと言った。
「うんむ。メリオーレス殿は、自分が実行したかった事が、夜な夜な展開したと思うであろうな。逃げよう!」
フーコツも逃亡を進言した。
(黙って去るのは不自然だ)
と思ったのだろう、
「ああ、ユームダイムの皆さん。昨夜はお世話になりました。ご機嫌よう」
と言い、手を振りながら黒騎士バンガウアは、討伐ギルドを出た。
フーコツは、黒騎士に寄り添い、
「うむ。良い小芝居だ」
とつぶやいた。
やがて我ら黒騎士一行は、ユームダイムの検問所まで来た。
「彼が、疑わずに拙者を通してくれた検問官だ」
検問ボックスに向かい、お礼を言うバンガウアさん。
「検問官殿! お陰様で、雷のガシャスの討伐に間に合いましたぞ!」
握手を求められ、それに応じる面長の検問官。
「ああもう、昨日から丁寧に何度も有り難う御座います、黒騎士様」
恐縮の態の検問官。
隣の同僚、警備に立つ隊員たちも笑顔を浮かべた。
「こっ、これは昨夜の菓子折りのお礼で御座います」
カウンターテーブルの中から包みを取り出し、差し出す検問官。
「えっ? あっ、そ、そうですか?」
『断っては失礼』と思ったのだろう、頭を下げ、包みを受け取る黒騎士バンガウア。
検問を通り過ぎて、ぼくは検問官たちが、
「さすがは黒騎士様。近衞団とも言うべき配下を、すでにあれほど潜入させておられたのだな」
とか、
「良いのか、奥さんの手作り弁当を渡してしまって」
とか、
「はずみだよハズミ。昨日は菓子折りをもらっちまったしよう」
などと話すのを盗み聞きした。
内容的に、皆んなに伝えるのは止めたが。
徒歩でのノンビリ旅だ。
ユームダイムを出て、ラファームの護符屋に向かう黒騎士+アヤメさん+「引き潮の海」と、アレドロロンに向かうぼくら「蛮行の雨」は、分岐点まで一緒だ。
街道を少し歩いた所で、黒騎士が、
「ちょっと待ってくれ」
と言って脇に逸れ、茂みの木の下闇に歩んだ。
そこで、手に持った目出し帽を小闇に差し出すと、その被り物は、スッ! と消えた。
皆んなには見えないと思うが、小闇の中に、発熱物があった。
ぼくは熱感知眼を起動させ、縦横一メートル、厚みは三十センチほどの壁を捉えたのだ。
巨大化前の、幻魔トオセンボ。
バンガウアの友だち? ディンディンだ。
次回「行商人プピペテラ」(後)に続く
次回、「行商人プピペテラ」後編は、明日の日曜日に投稿します。
最近は、一話、四百字詰め原稿用紙十枚くらいで在庫を書いていますが、この頃(投稿作)は、基本八枚くらいで書いていました。
投稿は、前後に分けるので、一回がだいたい四枚くらいなんですね。
読み返して「短い!」と思うようになり、徐々に、書き足しが増えたり、下書きが長くなったりしております。
うまくゆくと良いなあ。
(投稿時の突然の書き足しが、後で破綻につながらないかと、心配しているのではあるまいか?)




