「黒騎士、リフレッシュする」(前)
女性たちの、唇をふさぐ交代の間隙を抜って、
「はひい!」
「ぬはう!」
「うはっ!」
などと呻き声を上げるバンガウアさん。
しかしその声も、三十分ほどで途絶えた。
彼が失神してしまったからである。
それでも、バンガウアさんの唇に喰らいついているギュネーさんに、フーコツは、
「その辺にしておいてやれ。もう、気を失いおったぞ」
と言って肩を叩いた。
「んぬぱっ!」
と音を立てて、アマゾネス・ギュネーさんが顔を離すと、バンガウアさんの舌が唇からダラリと出ていた。
「あっ、血が!」
バンガウアさんの舌を指さして、驚くミトラ。
「うん。噛んじゃった」
ギュネーさんはそう言って、血の付いた自分の唇を拭った。
満足そうな表情だった。
「噛むと美味しくなるの?」
と言ってバンガウアさんの舌に顔を寄せるミトラを、
「阿呆」
と呟いて叩くフーコツ。
「バンガウア殿はこれで捨て置くとして、次はワシらじゃ。ワシらは卍を何発も射ち、こう見えて疲れ果てておるのじゃ」
「うん。ジュテリアンが手に入れた伝説の回復杖で、疲れはほぼ吹き飛んだけどね」
「余計な事は言わんで良い」
とまたフーコツに頭を叩かれるミトラ。
バンガウアさんは、着替えの浴衣がなかったので、鎧のまま、
「こった、こっち!」
と言うアヤメさんのベッドに寝かした。
「揉みしだきの慣習は続けないとね」
と、ジュテリアン。
「そ、そうじゃ。これは明日の活力のための、正しき慣習なのじゃ」
名目を見つけて喜ぶフーコツ。
それから、バンガウアさんとの部分的接合を経て、やや興奮気味の女性たちとの、長い長い揉みしだきが続き、夜は密かに騒がしく更けていった。
皆んなが寝てしまったので、ぼくは例によって窓から虚空に浮かぶ天の渦を眺めた。
幾ら見ても飽きない神秘の渦巻きである。
そこへ、フーコツと一緒に寝ていたはずのギュネーさんが、
「眠れないのね、パレルレ」
と言って近寄って来た。
「眠らないんだよ。ゴーレムだから」
ぼくが教えると、
「えっ? じゃあ、今までずっと起きてたの?」
と驚いた様子で言った。
そう言えば、ギュネーさんはたいてい先に失神しちゃってたっけ。
「オレは今日は、戦いを見学していただけで、疲れてなかったからだと思う。目が覚めちゃって」
と、ギュネーさん。
「このまま起きているのもヒマでしょう、パレルレ。もう一度、施術をお願い出来る?」
「タフだね、ギュネーさん」
「ジュテリアンさんの、リフレッシュ光線が効いたわね」
と、苦笑するギュネーさん。
「今夜は体力が余っちゃったみたいで」
ぼくは身体の下部の二本の腕でギュネーさんの股を持ち、胸の辺りまで上げて、腰を掛けた形にした。
上部の二本の腕で、立ったまま揉みしだきを開始するぼく。
初めての施術体位であったからか、ギュネーさんは自分の口を両手で抑え、いつもより首を振って静かに悶え続けた。
例によって、失神するまで。
朝早く、
「リフレッシュとはこう言う事か」
とつぶやきながら、バンガウアさんが半身を起こした。
「なんと清清しい気分であろう。テント村での尋問以来だ」
ドSキャラに変身したジュテリアンに攻められた時を思い出したらしい。
隣にアヤメさんが寝ていたので、静かに目を剥くバンガウアさん。
「拙者、何か、やらかし申したか?」
アヤメさんを指して言うので、
「残念ながら、施術と接吻以上の事はなかったよ」
と、教えた。
「せせせ接吻?!」
覚えてないのか、バンガウアさん。勿体無い奴。
「そう言えば、舌が痛い」
と、口を押さえるバンガウア。
ギュネーさんに噛まれたからな。
それから、女性たちもぼちぼち起き始めた。
次回「黒騎士、リフレッシュする」(後)に続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
次回「黒騎士、リフレッシュする」後編は、明日の金曜日に投稿します。




