「バンガウアVS女性連合」(前)
「伝達蜥蜴は結構早いぞ。空を飛ぶからな、障害物がない」
気を取り直したのか、ロウロイドさんが顔を上げた。
「ここからクカタバーウへは、朝に出せば夕方には着く。向こうがすぐに返信すれば、翌朝にはこちらに届くぞ」
「しかし、事故もあろうが?」
と、フーコツ。
「うむ。アビソサウラーが飛行魔獣に襲われる事も稀にあるようだが」
そこは素直に認めるロウロイドさん。
「街道沿いは、ほとんど飛行魔獣の縄張り外だ。心配ない。『魔法印』があるので、行方不明になっても『手紙』は追跡出来るそうだし」
「いずれにしても脆弱な伝達法じゃ」
フーコツは冷たく言い放つ。
「そのうち、もっと早くて簡単な伝達方法が開発されますよ」
コラーニュさんが話を納めようとしているのか、そう言った。
携帯電話の出現はまだまだ遠いだろう。
まずは、有線の電話か?
いや、魔法が通信手段に向かって発達すれば、有線電話時代を飛び越えて、いきなりケータイもあるんじゃないのか?
魔法電話だ。
それからも、ぼくらはグダグダと雑談をしながら、宿まで帰った。
「引き潮の海」は一階、ぼくたちは二階なので、玄関ロビーの階段前で別れた。
すでに「引き潮の海」の入団登録を済ませたギュネーさんだが、ぼくらの部屋で登録してあるので、今夜も一緒に寝る事になった。
部屋に戻ると、ミトラたちは浴衣に着替え、ベッドの上で思い思いにくつろいだ。
「ジュテリアンよ。メリオーレス殿に退出を伝えに行った折、少し話し込んでおったようじゃが、なんだったのだ? 面倒事か?」
「ああ。名士連が、
『魔族たちの死体を晒しモノにしよう』
と言い出したので、ミトラと私、そして黒騎士とメリオーレスさんで反対したのよ」
「おう。当然じゃ。そんな事をしたら、対魔族の最前線で戦っている兵士たちが魔族にやり返され、晒し者になるではないか」
「名士たちって、自分が晒し者にされる想像力がないんだ」
と言ったのはミトラだった。
「資金援助をしておるからとて、最前線視察に来るのは良いが、ちゃらちゃら着飾っておったりするからのう、彼奴等は」
と、経験談らしきモノを語るフーコツ。
「国王も、激励には汎用の戦闘服で来ると言うのに」
「あら、フーコツ。最前線? で何をしてたの?」
と、不審がるジュテリアン。
「ええっと、傭兵経験談?」
と、思い付きらしき事を言うミトラ。
「そうじゃ。あっ、最前線の場所と時代は極秘じゃ」
と、キョドって言うフーコツ。
「時代」って言っちゃう所がヤバい。
さすがは、「人間似の何か」な存在。
「でも、そんな場違いなチャラい服装を、誰も注意しないなんて変じゃないですか? 先生」
と、ギュネーさん。
「最前線でも周りに気を配らず自我を通す名士連を、嫌われ者にするためかも知れんな」
フーコツはそう言って、ニヤリと笑った。
「無論、誰も注意の出来ぬほど肥大した権力者であった可能性もあるぞ」
そうやってあれこれと雑談を弾ませている所へ、ノックの音がした。
「誰じゃ。こんな夜中に」
と、股を正すフーコツ。そして女性連。
真っ先に頭を過ったのは、名士連の夜這いだったかも知れない。
ジュテリアンが扉に近づき、
「どうぞ」と言って開くと、すぐさま入って来るなり、
「ああ、この被り物は暑い」
と言って漆黒の目出帽を脱いだのは黒騎士バンガウアだった。
どんぐり眼。
たくましいゲジゲジ眉。
張った顎。
五分刈り? の頭髪。
魔族としては普通な背丈。二メートルくらい?
ヘルメットは小脇に抱えている。
そして、脱いだ目出し帽をヘルメットに入れた。
得意ではない、と言う得物の大剣を背後に背負っている。
「剣豪黒騎士」らしいギミックである。
クカタバーウ砦で「伝説」を引っこ抜いた事になっているので、使いもしない棍棒を腰のベルトに差している。
得意の武器、四本爪のクローは見えない。
「おう。お疲れ様であった、バンガウア殿」
駆け寄って、漆黒の鎧を脱がせに掛かるフーコツ。
「確かこのタイプは、この辺に解除鍵が……」
と言って慣れた手つきでロックを解除してゆく。
「あっ。なっ、なんで外せる?!」
「光精霊の接触呪術じゃ。気にするな」
「えっ? 呪術は自分のためにしか使えないよ?!」
と言う闇精霊の呪術使い、ミトラ。
「だから自分のためにロックを解除しておるのであろうが」
と説明? する光精霊使いフーコツ。
「へえ、そうなんだ。あたしにも出来るのかな?」
ミトラも、まだバラされていないバンガウアの下半身を触るが、ロックは外せなかった。
「ええ? 外せないよ。闇が光に劣るって事?」
「スキルを所得しておらんのだから、当たり前であろうが。間抜けな闇呪術師よ」
「ああ。スキルね。安心した」
マヌケ呼ばわりされた事は、気にしていない様子のミトラだった。
次回「バンガウアVS女性連合」(後)に続く
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「バンガウアVS女性連合」後編は、明日の日曜日に投稿します。




