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「黒騎士VSミトラ」(後)

「酔ってんの、バンガウア」

  と、酔ってるミトラ。

「酔ってるわね」

  と、やはり酔ってるジュテリアン。

「おいおい、建物の中だぞ」

  と、ゴルポンドさん。


何処(どこ)か壊したら、弁償だけに(とど)まらず、投獄されませんか?」

  と、コラーニュさん。

もっともな心配であった。


「壊して見せろ!」

  そう言って黒騎士は、

恐怖(ドロモス)(エレ)(シルト)!」

  と、詠唱らしきモノを叫んだ。


「あっ、無詠唱で出せるくせに、なんかカッコつけてる」

  ミトラが笑った。


  黒騎士の前に具現化する一枚の輝く黒盾。


大ホールのあちこちから、

黒色盾(エレシルト)!」

「エレは危ない!」

  と言う驚きの声が上がった。


黒盾は攻撃を反射する事を知っている人々だろう。


「じゃあ、行ってくる」

  と言って、椅子の上に立つミトラ。

なぜ椅子に立ったかと言うと、酔っているからだろう。

  そして同じテーブルの者が、誰も注意をしない。

皆んな酔っているのだ。


ぼくが収納していた古代紫のヘルメットとガントレットを装着するミトラ。

  フルアーマーだ。


「殺すのは、ほどほどにね」

  と見送るジュテリアン。

「あんたも酔っているのか、ジュテリアンさん」

  と、鼻髭ロウロイドさん。

もはや無言で、跳躍蜥蜴(リープサウラー)飛行竜(ヴォルドラゴーラ)の肉に喰らいついているフーコツ。


  ミトラが舞台に向かうのを見て、響動(どよ)めく大ホール。

「あんな小さな騎士が」

  と言う、ミトラを知らない人々と、

「大本命の少女が」

と言う、岩石竜(ロックドラゴーラ)を本当に倒したのは誰か? を知っている警備隊員たちだ。


  やがて舞台の上で対峙(たいじ)する黒騎士とミトラ。

その距離は五メートルほどか?

  どちらもフルアーマーだ。

黒騎士は背中の大剣を手にしていなかったが、ミトラは棍棒をぶら下げていた。

  けれども、ミトラもさすがに斧刃(ふじん)は出していない。


ミトラは身体(からだ)の前に、黙って紫色(ビオレータ)の盾を出現させた。

  その盾を九十度回転させ、黒騎士に向ける。

会場からもよく見えるようになり、会場に失笑が漏れた。

ビオレータは、(ギュミュシ)(アウルム)よりも弱いとされているからだ。


銀や金よりも格上の黒に、盾の常識から言って、紫が(かな)う訳がないのだった。


(スヴァスティカ)!」

と叫んで円盤型の盾を大きな卍手裏剣に変形させるミトラ。


(マオ)(シルト)!」

「遠距離武器をあんな近くで?!」

「爆発するぞ!」

  卍を知る者が、会場のあちこちで叫んだ。

テーブルの下に隠れる者も居た。


「爆発はさせない。たぶん」

  骨付き肉を(くわ)えたまま、フーコツがつぶやいた。

「うん。修繕費(しゅうぜんひ)が怖い。爆発しないはず」

  心配そうなジュテリアンは、肉付き骨を噛み砕いた。


「広いとは言え、室内だ。爆風の逃げ場がない。大丈夫だろうな」

  と、不安そうなゴルポンドさん。

顔が(けわ)しくなっていた。ミトラだからなあ。


卍手裏剣は、床に対して垂直に立った状態で、高速回転を始めた。

  そして回転が速すぎ半透明になって、黒の盾に飛んだ。


卍は甲高い金属音を立てて黒騎士の盾に刺さり、(まんじ)を削り質量を減らしながらも回転し、食い込んでゆく。


「な、なんだと?!」

  声を出して驚くバンガウア。

最初のテント村の戦いでは、黒盾が卍に一発で穴を空けられる事はなかった。

 驚愕するのも無理はない。


「くっくっく。『女子、三日会わざれば、刮目(かつもく)して見よ』」

  サブロー語録らしきモノを、楽しそうに吐くフーコツ。

「私たちは、モグリの護符屋さんで強化済みだものね。勝負あったわね」

  ジュテリアンも嬉しそうだった。

バンガウアはまだ、護符すら持っていないのだ。

  ぼくはミトラが勝ちそうな気がした。


黒騎士は二枚目の黒盾を発動させ、勢いよく一枚目に()つけてミトラの卍を(はじ)き出した。

「まだまだ」

ミトラは叫び、弾き出された卍を円盤に戻して消した。


  そして新たに二枚の卍を具現化させた。

卍二枚はぴったりと合わさり、高速回転で空気を震わせた。

その回転音が鼓膜を圧迫しているのだろう、人々が耳を(ふさ)いでいる。

「左と右で、卍の回転方向が逆になっているぞ」

  と、報告するぼく。

「へえ。その方が効くの? パレルレ」

  と、ジュテリアン。

「さ、さあ、どうなんだろう。たぶん破壊力を強化したんだと思うけど」

  と疑問形のぼく。

見たままを言ったので、自信がなかった。


やがて回転音は人の可聴域を超え、フーコツだけが「うるさい」とつぶやいた。

  ぼくの超聴覚可聴器にもうるさく聞こえたので、(オフ)った。


二枚合わせの卍手裏剣は、圧迫波(ブーム)を撒き散らしながら黒盾に飛んだ。

  先程よりさらに深く盾に喰い込む二枚刃。

しかし砕かれない黒盾(エレシルト)

  だが裂け目を広げてゆく卍手裏剣。


「なんの!」

黒騎士はさらに二枚の黒盾を発現させて、高速で前面の自分の盾に衝突させた。

  勢いよく(はじ)き出される卍。

自分に返ってくる二枚卍を、斧刃(ふじん)のない伝説の斧、つまり棍棒で叩き、砕いて消した。

  しかし卍と棍棒の、接触の衝撃が大きかったのか、

「わっ」と叫んで仰向(あおむ)けに倒れるミトラ。


それを見て、椅子から腰を浮かせる「蛮行の雨」と「引き潮の海」。

立っていたぼくは思わず、ぴょん! と跳び上がってしまった。



        次回「ミトラ、敗れたり?!」(前)に続く



お読み下さった方、ありがとうございます。

次回、第八十七話「ミトラ、敗れたり?!」は、

来週の木曜日に投稿します。

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