「黒騎士近衞団!」(後)
ところが、ぼくたちが護符を見せると、
「これ以上の強化は無理ですな」
と、市松模様の服を着たマスターは、あっさりと強化を断った。
確かに、幾つかの高価そうな護符を持って来てくれたが、手持ちの護符とは反発して重ならなかった。
自分の短杖を見せて、
「魔力タンクの拡張もか?」
と迫るフーコツにも、
「ウチの護符では、逆に弱体化してしまいますな」
などと言い首を横に振る店主だった。
「しかしさすがは黒騎士様の近衞団! 皆様、素晴らしい護符を持っておられますな」
マスターは商売にならなかったに、嬉しそうに揉み手をした。
「到着が遅れる黒騎士様に代わり、早朝に魔王軍の飛行竜隊を撃墜されたのでしたね!」
(あーー、そういう話になってるんだ)
と言う顔でお互いを見る「蛮行の雨」。
「良いのかな、近衞団で」
と小声で囁くジュテリアン。
「構うまい。クカタバーウ砦から、ワシらは黒騎士と縁があった事になっておる」
と、負けないくらいの小声で答えるフーコツ。
「ロウロイド殿のお陰でな」
「これ以上の強化の方法は、本当に無いの?」
食い下がるミトラだったが、
「後は、人格の向上と人徳の蓄積ですかな?」
と、店主は言った。
「あうっ。魔力は関係ないんだ」
両手で頭を抱えるミトラ。
「魔力量も強度も、地力では魔族には勝てません。しかし、魔族には人徳、品格が無い」
そのマスターの言葉に、
「ぶふぉっ」と咳き込むフーコツ。
「そこで知性です、品性です。そこは人間、エルフ、ドワーフ。それからオーガも勝りましょうぞ」
店主は満面の笑みで宣言した。
護符の強化をあきらめ、店を出る「蛮行の雨」。
歩きながら、
「人格と人徳が護符を強化するって、都市伝説だよね?」
などと言い出すミトラ。
「知性とか品性なんて、大の苦手分野だわ」
「呪力を高めれば問題はあるまい」
呪術師らしい独断を下すフーコツ。
「護符も釣られて強化されるはずじゃ。呪力の向上は実戦の積み重ねで出来る!」
と、店主の訓戒を台無しにするフーコツだった。
「えーーっと、アレじゃ。『暴力なき正義は無能なり』?」
(あーーっ。昔に読んだ漫画の台詞で、そんな感じのがあったと思う)
と、心の膝を打つぼくであった。
その後、ジュテリアンの肩鞘を買いに防具屋に行った。
伝説の回復杖の鞘である。
黒と赤が捩れ合った禍禍しい杖は、宿で塗料を借りて、すでに無難? な灰色に塗りつぶされていた。
「服が紅色だから、黒で良い」
と、エレのの革鞘を所望するジュテリアン。
灰色になった伝説の杖を、大剣のように背後に差し、悦に入った様子のメイド風戦士僧侶のジュテリアン。
腰の背後にあるホルスターに収まった短剣型回復杖は、「無法丸」という名前なので、背中の大きな回復杖は「無法丸・改」と名付けられた。
「『大無法丸』にするかどうか迷った」
とジュテリアンは照れたが、正直、どちらでも良いと思ってしまったぼく。
「無法丸」という名称自体が、超攻撃的だったからだ。
宿に帰っても、ヒマを持て余した三人娘は風呂に二回入り、とは言え祝勝会の事があるので、浴衣に着替えられず、宿の売店で買ったお茶と駄菓子で時間を潰した。
「どう?」
と、駄菓子の味を聞くぼく。
ぼくは食べないので、しかしヒトであった時代はモノを食べていたので、食レポを聞きたいのだった。
「外皮はパリパリ、中はバリバリ」
と、ミトラ。
「じゃあ、お茶の味はどう? ミトラ」
「駄菓子にふさわしい駄茶ね。街道の水たまりより美味しいよ」
「ジュテリアン、お茶の味、どう?」
「うん。昔に飲んだ水たまりよりも美味しいわ」
「フーコツ、どう? お茶は」
「舌を噛んだので、血の味がして美味しいぞ」
なんというか、いつもの食レポだった。
宿でガッツリ食べてしまうと、祝勝会の食事が堪能出来なくなるので、皆んなは腹をヒーヒー鳴らしながら、その時を待った。
そしてついにメリオーレスさんが迎えに来てくれて、「引き潮の海」と一緒に迎賓館の大ホールとやらへ向かった。
ゴルポンドさんたちは果たして、ハーン公園で後片付けの心地良い汗をしとどに流したらしく、爽快な疲労感? に薄笑いを浮かべ、蹌踉めく足取りで歩を進めていた。
「なんか、肩を砕かれたクカタバーウの時より疲れてない? ゴルポンドの奴」
と、ミトラ。
「しっ。警備隊に負けまいと、ムキになって片付けを張り切ったらしい。そっとしておいてやれ」
フーコツが、武士の情けとばかりに気づかった。
ゴルポンドさんの耳に届いたら、彼はハンパねえ屈辱を覚えただろう。
聞こえなかったよね?
心なしか、表情がさらに虚ろになった気がしたが。
次回「黒騎士VSミトラ」(後)に続く
次回、第八十六話「黒騎士VSミトラ」前編は、
明日の土曜日に投稿します。
ではまた、明日。
一話完結で、「続・のほほん」「新・ビキラ外伝」などを書いております。
よかったら、読んでみて下さい。




