「その者、金属場違い工芸品なり!」(前)
「なんか、村の外って大変なのね」
と、ミトラ。
「ついでだから言っちゃうと、名声の取り合いもあるわね。
『あいつ大した働きもしてないのに、勇者だって言うだけで名誉を持って行きやがる』とか、
『誰が敵にトドメを刺したのか』とか、まあ色々と大変だったわよ」
ジュテリアンは懐かしむように微笑んだ。
(だからリフレッシュがてら、ウチみたいな呑気そうなチームに加わったのかも知れない。とりあえず今回は)
ミトラは、「『蛮行の雨』は、そんな事はないから」
と言ってから、
「と思います」と付け足した。
「正直ね、ミトラ」
ジュテリアンは可笑しそうに笑った。
「でもミトラの旅は、見聞を積んで村に無事に帰る事でしょう? 少しはのんびりした冒険になるんじゃないかしら」
「内輪話をすると、これが案外、危険な旅なのだ」
ミトラは手を合わせて言った。
「他所の村や街で、見初められたり見初めたりして、あらぬ所に定住しちゃって村に帰って来ない者がしばしば。たまに里帰りはして来るんだけどね」
「な……、成る程」
うなずくジュテリアンとぼく。
そう言われると、確かに危険な旅かも。
「で、でもそれは、種族の拡散に貢献しているのでは?!」
と、ぼくが言うと、
「そうよ。我がドワーフ村の裏目的よ。たぶんね」
ミトラは、鼻をツンと上げて暴露した。
「でもあたしは、ちゃんと村に帰って、今は妹に任せている守備隊長に戻るのよ」
ミトラはさらに、ジュテリアンに話を振った。
「あたしはそのうち村に戻るけど、ジュテリアンはひょっとして、ユーム大僧侶の後釜を狙ってるの?」
と、伝説の英雄(ミトラ談)の名を出すミトラ。
「そ、そんな大それた事、考えてないわよ。私は怪我は治せるけど、複雑な病気は治せないし」
ジュテリアンは慌てて手を振った。
「複雑な病気」とは、ウィルス性の事かも知れない。
後遺症も残って大変だからだ。
しかし、ジュテリアンに限らず僧侶は基本、傷は治せても病気は治せないものらしい。
その複雑な病気を、ユーム大僧侶という人は治したらしい。
まさに英雄だ。
この人も、ミトラの話を聞くに大勇者サブローと同じで、異世界から転生したっぽかった。
そんな盛り上がりを見せている所へ、紺色の革鎧を着た女性が、喫茶ルームに入って来た。
右手には書類の束を持っている。
「初めまして、『蛮行の雨』の皆さん。当ギルドの副所長、グローネと申します。あのう、少し、メタルゴーレムさんとお話がしたいのですが」
と、ボブカットの頭を下げるグローネさん。
「あ。はいどうぞ」
警戒心皆無な顔で応じるミトラ。
事務室へでも行くのかと思ったら、その場で話し始める副所長グローネ。
「えーー、登録書には、『大魔王大戦の古戦場ナーファに落ちていた金属場違い工芸品』とあるのですが」
「その通りです。地縛霊になって彷徨っていた転生者の魂を」
と言って胸の前で両手をわしゃわしゃするミトラ。
「我が一族秘伝の呪術で定着させました」
なんだか自慢げだった。
そう言えば、「珍しく成功した」
とか言ってたっけ。
「では、ゴーレム……パレルレさんでしたか?」
書類を見て言うグローネさん。
「はい、パレルレと言います。ミトラに名付けてもらいました」
「名付けの儀式はもう終わっている、と」
表情を明るくする副所長。
「で、どのような異世界から来られたのでしょうか?」
「それがその……、記憶が定かではありません……」
「ふむふむ。転生の女神が、異世界情報の流出を恐れたいつもの処置ですね」
と、空いた左手で顎を撫でるグローネさん。
「では次です。連想する事を教えて下さいね、パレルレさん」
「はい」
「ジドウシャ?」
なんだ。情報、漏れてるじゃないか、と思いながら、
「児童者は……子供の事です」
人間の本質と言って良い、「嘘を吐く」ぼく。
「ヒコーキ?!」
「空中を飛ぶ折り紙です」
「ジバクレイ?」
「『自』分から『爆』発する『霊』魂です」
苦しいと思いながらも、とりあえず言ってしまうぼく。
「確かに人間の魂が宿っているようですね。必死に嘘を吐かれて好感が持てました」
(えっ、暴露てた?!)
(と言うか、人間かどうか確認したかったのか?)
(ネットのロボット検査は苦手だ)
(『階段のある写真をすべて上げよ』とか、『人の笑顔を全部上げよ』とか……わかんねーーよ)
(ううっ。人として自信がない)
(ぼくは合格したのだろうか?)
次回「その者、金属場違い工芸品なり!」(後)に続く
間違って、「続・のほほん」の方に、「その者、金属場違い工芸品なり!」(前)を投稿してしまいました。
で、ここにどうやって戻したかと言うと、最初からもう一度、書き(打ち)ました。
前にコピー機能を使ってみたら、フリガナの部分が駄目だったので、返って作業がややこしくなったのです。
そんな私事は横に置いといて、
次回「その者、金属場違い工芸品なり!」は、今日の午後に投稿します。
お楽しみは人それぞれ! 私は楽しみですが。




