「名士ツベクトン」(後)
「毎週、『もうすぐ大地震が起きるぞ!』と言っている占い師くらいヤバいと思う」
ジュテリアンが、よく分からない例え話をした。
「思い出したんですけど、国に魔族が攻めて来た時、遺跡屋が無償で商品を投入して、撃退した昔話がありましたよね」
と、ギュネーさんが言った。
「ああ。デウデトラ国の遺跡屋ですな。ほんの三十年ほど前の話だ。お嬢さんは生まれていなかったかも知れないが」
と、ツベクトンさん。
「行くなら、そう言う遺跡屋さんに行きたいわ」
ミトラがもっともな事を言った。
「あの戦いで遺跡屋の店主は亡くなってしまい、痛ましい事であった」
と、うなだれるツベクトン氏。
「今は御子息が商売を継いでおられますよ」
と言ったのはジュテリアンだ。
「おお、御子息が。それは良かった」
と喜ぶツベクトン氏の返事。
遠くには、事件の顛末までは伝わらない好例か?
「攻めたのは老老魔王ドゥクェック。結構な遠征だったのに撃退され、魔王軍は大打撃であったろうと思います」
ジュテリアンが説明を足した。
デウデトラ国の遺跡屋は、祖先である大勇者サブローの勇姿を、自分で再現したかったのかも知れない。
大勇者の末裔として、こだわるべき強い面目があったのかも知れない。
いずれにしても身命を賭して一国を救ったのだ。
勇ましい話であった。
「あっ、馬糞業者の方が、荷車で」
と、トング状の器具で馬糞を拾っている二人を指すミトラ。
「この街、大きいのに珍しいわね。馬車で拾わないんだ」
「そうね、オレのいた小さな街なら分かるけど、こんな大都市で、人が荷車を引いて集めるんだ。大変そう」
と、ギュネーさん。
「それは、馬糞を馬車で集めると、結局、馬糞を垂れるからではないか?」
と、フーコツ。
「でも、効率が悪いように思います。移動が遅いし。手分けして馬車並みに拾おうとしたら、人件費が嵩みますし」
などと言うコラーニュさんに、フーコツは、
「街が馬糞で溢れるよりは、ずっと良いではないか」
と、返した。
「どうも。わしは馬糞商の元締めです」
ツベクトンさんが頭を下げた。
「あら。それで市役所の表彰式に出席されていたんですね」
と、ジュテリアン。
「はい。馬糞に塗れる街の行く末を憂いて、市に荷車での馬糞回収を訴えましたら、これが議会を通りましてな」
ちょっぴり得意そうに鼻の下を擦るツベクトン氏。
「それで、馬車ではなく人力による荷車で、馬糞を収得する事になったのですよ」
「大きな街ほど馬糞は大問題だよね」
と、ミトラ。
「ほかの街もユームダイムを見習えば良いのに」
「いやいや。わしも私財を投げ打って荷車馬糞商を始めましたが、市の補助金と、皆さんの寄付のお陰でなんとかやっておる状態でして……」
苦笑しつつ首を横に振るツベクトン氏。
「儲かる商売ではありませんからな。お勧めは出来ませんよ」
儲からないのでは、もはや商売ではないのでは?
ぼくがかつて居た世界では、街にあふれつつあった馬糞問題は、やがて突如として解決した。らしい。
自動車の出現、大衆車の普及によって、だ。
そして、「排気ガス」と言う新しい問題が、ビッグバンのように膨張拡大するのだ。
しかし、この世界には魔法がある。
ガソリンの代わりに、魔法を燃料にして走る車が出来るのではないだろうか?
ぼくの世界で問題になっていた排気ガス、一酸化炭素などの有害物質ではなく、この世界の車はオゾンなどを吐いて走るのかも知れない。
ぼくの妄想だが。
「それでは、わしはこの辺で。今の『ほかの街も見習えば良いのに』と言う話を、あの二人にも教えてやります」
そう言って、荷車を引いている二人に走って行った。
途中で振り返り、
「また夜の祝勝会でお会いします!」
と叫んだ。
ツベクトン氏と荷車を引いていた二人は立ち止まり、笑って話している。
「本当ですか、親方」
とか、
「おう、あちらにも落ちておる。わしも拾うぞ」
とか、話しているのを、ぼくは盗み聞きした。
次回「黒騎士近衞団!」(前)に続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
次回、第八十五話、
「黒騎士 近衞団!」前編の投稿は、来週の木曜日になると思います。
「続・のほほん」「新・ビキラ外伝」は、気力、馬力不足で書けておりません。いつかまた……。




