「遺跡屋店主、ザパット」(後)
その、太りすぎて首がないようにも見える超人級は、ニヤニヤ笑いを浮かべて、四輪の車椅子をこちらに動かして来た。
眠いのか目は半分、閉じている。
「遺跡屋ザパットにようこそ。大勇者サブローの子孫、店主のザパットです。何がお望みかな?」
慌てて名乗る「蛮行の雨」と、ギュネーさんをふくむ「引き潮の海」。
ぼくたちの要件を聞いて、
「何? そのゴーレムの武器を買いに来たと? 売りに、ではないのか?」
意外そうな顔をするマスター・ザパット。
「はい。買い物に。なんだっけ? パレルレ」
と、ミトラ。
「多弾装マガジンが空なので、合う実弾があれば、購入したいと思って来ました」
と、ぼく。
「どういう仕掛けだ?」
ぼくの返答に首を捻る店主ザパット。
「そのゴーレム、まるで自分の意志で喋っているように聞こえるが」
「自分の意志で喋っているわよ。転生者の魂が宿っているから」
「ははっ。ドワーフの娘よ、戯けた事を。転生者と言えば、勇者予備軍ではないか」
「うん。だから、勇者団のリーダーなのよ」
と言って背伸びをし、ぼくの黒マントの角を持ち上げるミトラ。
「嘘を吐け。ゴーレムはただの攻撃避けだろうが。勇者マントを着ていると、狙われやすいと言うからな」
と、笑う店主。
(ヤバい。こっちの話を聞かない。かなり自己中な奴だ)
と、ぼくは思った。
「攻撃避けもあるが、転生者は本当じゃ」
フーコツは若干、譲歩して話した。
「では、どんな世界から来た? 言ってみろ。ふん、言えまいが」
「魔法のない世界から来た」
ぼくはそう言って、店主の乗る車を指した。
「そう言う自動車椅子は、ぼくの世界では具合の良くない人が乗る乗り物だ。光子エネルギーで動く」
ぼくの居た世界の、光子動力は嘘だ。
ぼくが光子動力のゴーレムなので、理解されやすいかと思って言ってみた。
「ふ、ふん! この四輪車の事など、ムン帝国のカガクに詳しい者なら、誰でも知っておるわ」
店主ザパットはそう言いながら、さらにぼくに接近して来た。
「大戦初期の、補助ゴーレムは珍しい。戦力にならんので、すぐに製造中止になったそうだからな」
ぼくのメタルな足を撫でるザパット。
「小回りが効くので、この平和な世なら使い道もあるだろう。幾らで売ろうと言うのだ?」
「えっ? さっきも言ったでしょう? パレルレは売り物じゃないわ。仲間で友だちよ」
ザパットに迫るミトラ。
「ふん。ゴーレムを友だなどと、正気を疑われるぞ、ドワーフの娘」
「だから、身体はゴーレムだけど、人間の魂を持っているんだってば!」
ミトラの憤慨は分かるが、理解してくれる相手とは思えなかった。
言えば言うほど、ヘソを曲げてしまうのではないだろうか?
「パレルレ、光盾を出してやれ。盾は心を持つ者にしか出せんからな」
フーコツが助言してくれた。
そうなのだ。いくら強くても、ゴーレムや魔獣は「人のような心」を持たないので、盾が出せないらしいのだ。
そして魔族には、「心」があると言う事だ。
ぼくは上半身だけを動かし斜め後ろを向いて、空いた空間に十層の青色盾を発現させた。
間隔を空けたので、長さは十メートルくらいになった。
ぼくなりのハッタリである。
「おお!」
椅子の上で仰け反る店主ザパット。
「いや、誰かが、さもこのゴーレムが出したように見せているだけだ」
そして盾を消し、体勢を戻したぼくに指を突き付ける店主。
「ゴーレムが勇者だなどと、馬鹿を言うな。勇者とは、大勇者サブローの子孫たるこのザパット様のような存在を言うのだ」
「あら。大勇者の子孫は、あたしもよ」
と、店主の怒りに触れそうな事実を言ってしまうミトラ。
「百歳の誕生日を迎えたので、オララ工房集落を出て、今は『勇者の旅』をしているの」
「お、お前のような小娘が、勇者になどなれるものか!」
予想通り、怒り出す店主ザパット。
「あっ、勇者になる旅じゃないわ。大勇者の血を引く者として、集落の掟に従って旅に出たけど、単に見聞を広めるための道行きよ」
肩をすくめるミトラ。
「先に説明しないで御免なさいね。『勇者の旅』は、昔からのただの名称よ」
「オララ集落に大勇者の末裔が住んで居る事は、自慢していたではないか、ザパットさん」
と、口を挟んできたのは、ゴーレム見物をしていた、紳士服を着た白髪の老人だった。
ぼくたちの口論を聞いてゴーレム見物を止め、先程こちらに来たのだ。
「今日、街が魔族に襲われた時、救って下さった旅の勇者団様だよ、ザパットさん」
(あ。あの表彰の時の、街の名士の一人か?)
と言う顔になる蛮行の三人娘と、引き潮の皆さん。
(『馬糞商ツベクトン』)
コソッとぼくに教えてくれるサブブレイン。
(ああ、名士の皆さん、各各名乗ってたっけ。一人も覚えてなかったけど)
「口の利き方に注意をしておくれ」
老人ツベクトンはやんわりと、しかしシッカリとした口調で言った。
次回「名士ツベクトン」(前)に続く
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明日の土曜日に、
第八十四話「名士ツベクトン」前編、を投稿します。




