「遺跡屋店主、ザパット」(前)
そしてフロアを徘徊している数体の、六本脚二本爪ゴーレム。
蠍型のパトロールゴーレム?
尻尾のない体長は、大きな鋏をいれて四メートル強か。
長い触覚を忙しげに振り、時々、左右の大きなハサミをショキショキ鳴らしている。
ハサミは完全に、解体用重機のソレだった。
工事用ゴーレムじゃないのかなあ。
「メタルスコルピウスたち、ハサミの開閉はさほど早くないね」
「今は戦闘時ではないからであろう、ミトラよ」
「腕の付け根が細いわ。攻撃するなら、あそこね」
と、ジュテリアン。
球体関節のようだから、狙いとしては良いと思う。
思うだけで、戦いたいわけではない。
何より目を引いたのはフロア中央の、低い囲いの中に立っている二足歩行らしい三体のゴーレムだ。
全長は三十メートルくらいか?
頭頂部が天井すれすれだ。
ゴツゴツした装甲に身を包んだ巨大なロボットだ。
二本の腕は細いが、下半身が特に太くたくましい。
「あの、金属巨人たち、動くのかな?」
見上げるミトラ。
「さあ。ハリボテじゃないの? 宮廷では見た事がないわね、あんなデカブツは」
「父に付いて行った遺跡屋にも、あそこまで大きなゴーレムはいなかったよ」
「絵画には残っておるな。大魔王大戦で、魔族や魔獣どもを駆逐する巨人の姿が」
と、フーコツ。
「あれは戦勝側である人間の、後年のデッチ上げ、と言う噂もあるぞ」
と、言ったのはロウロイドさんだ。
「そうそう。倒れてボコられてる壁画が発見されたわよね。洞窟で」
ジュテリアンは、強さには懐疑的なようだった。
あるいは、怖いのかも知れない。
頭部の造形のモデルは、三獣鬼神でしょうか?」
と、僧侶コラーニュさん。
「中央の赤いのは竜神よね。蛇神じゃないわよね」
ギュネーさんが言った。
「ドラゴーラの右横の青いのは、一角虎? 黄色いのは三眼熊ですかね?」
自信がなさそうに言うコラーニュさん。
「古代ムン帝国の時代には、一角虎も三眼熊も闊歩しておったのじゃろうなあ」
と、感慨深げに言うフーコツ。
「今や生存が確認出来るのは、無念にも竜族だけじゃ」
「こういうゴーレムが居るんだから、ユームダイムは安泰だよね」
と、ぼくが言うと、ジュテリアンは、
「遺跡屋は基本的に中立だから、人間にも魔族にも協力しないそうよ」
と答えた。
「でも、販売やレンタルは魔族相手にはしないから、結局、人型の味方なんだけどね。『武力で平和を守りたかったら、金払え』って話ね」
「ガメツイなあ」
コラーニュさんが苦笑すると、
「だって、商売人なんだもの、仕方ないわよ」
と、ギュネーさんが応じた。
「魔族に味方しないだけマシ、って思わなきゃ」
ミトラの声には、遺跡屋への嫌悪が感じ取れた。
「でも、カウンターテーブルらしき物はあるのに、受け付けの人が居ないわねえ」
と、辺りを見渡すジュテリアン。
「んーー。あっ、あそこに居るお爺さんじゃない? きっとヒマなんで、席を外してるんだわ」
ミトラは、白髪頭の紳士を指した。
「あの方はお客さんでしょう。後ろに手を組んで、ゴーレムを見上げてるわ。品定め中かしらね」
と、ジュテリアン。
「あっ。巨人ゴーレムの向こうから、動く椅子に座った人が出て来られましたが」
とは、コラーニュさん。
(うわっ。いきなり「現代」来た!)と、ぼくは驚いた。
ソイツはいわゆる、電動車椅子だったからだ。
「クカタバーウ砦に行く時にお世話になった商隊の、スブック親方を達人級と称するならば……」
と言ったのはジュテリアンだ。
「うん。超人級の体格だね」
ミトラが即座に応じた。
大きな背もたれに、大きな丸い頭と肩を預けているように見える。
「待て待て。あのような、器用に動く小型四輪の乗り物、オレは見た事がないぞ」
と、ゴルポンドさん。
慣れた手つきでV字ハンドルを操り、こちらに向かって来る。
その超人級の人は、地味な麻の上下を着ているものの、首飾り、耳飾り、腕輪、指輪など、装飾品を多く身に付けていた。
転生官ランランカが身に付けていたような、強化アイテムかも知れない。
「あの自動椅子の男が店主で間違いなかろう」
と、フーコツがつぶやいた。
「かなり高級な強化アイテムを身に付けておる」
「宮廷の族が身に付けるような?」
と、ミトラ。
「そうね。宮廷で見るような装飾品ね」
ジュテリアンが唇を少し歪めた。
「このお店、強化アイテムも売っているのかしら?」
「あたしは、強力なのが売ってても、買いたくない」
ミトラは自分の偏見を押し通す気のようだった。
次回「遺跡屋店主、ザパット」(後)に続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
「蛮行の雨」第八十三話、
「遺跡屋店主、ザパット」後編は、明日の金曜日に投稿します。
今年も、最低でも週四回の投稿を守って頑張りたいと思っています。よろしくお願いします。




