「バンガウア、表彰される」(後)
フーコツは、強い風は操れないそうだが、炎や水を地上に向けて放射する事で、落下をゆるやかに出来るだろう。と、ぼくは思った。
「それにしてもガシャス、功を焦ったのう」
「それは拙者の言う台詞だ、フーコツ殿」
などとガヤガヤ話している内に、市役所に着いた。
水色三階建ての、窓の小さなレンガ倉庫のような外見だった。
これも偽装か?
似たような建物が、広い通りに向かい合っている。
中は灰色を基調とした飾りっ気のない壁、照明器具、設備品が並んでいた。
「避難所も兼用してるんだって」
と、メリオーレスさんが教えてくれた。
レンガ倉庫群は公共施設群で、避難所帯なのかも知れない。
黒騎士への、雷のガシャス討伐金および報奨金と、『蛮行の雨』への謝礼金は、市長の計らいもあって三階の質素な会議室で内々に行われた。
バンガウアさんが、
「ひっそりこっそり行って欲しい」
と頼んでいたからである。
バンガウアさんの心中は分からないが、ぼくたちはお金がもらえたらそれで良い。
のだが、大袈裟な儀式はやはり苦手だ。
フーコツが、
「あまり顔を売るべきではない」と言ってたし。
市長は壁を背に、事務机の奥に座っている。
お付きの職員が左右に一人ずつ立っていた。
テーブルの上にあるのは、表彰状と、お金の入った袋、だろう。
テーブルの前の椅子に座っているのは、黒騎士と「蛮行の雨」だ。
そのぼくらを挟んで、右に市の幹部職員らしき人々、左に着飾った街の名士らしき人々、それぞれ二十人くらいが並んで座っている。
ギュネーさんを含む「引き潮の海」とアヤメさんは、名士の列だ。
明らかに居心地悪そうだった。
そして名士連、職員たちの背後には、重装備の警備隊員が立って並んでいた。
その中に、ニューノ班長やデンス隊員も居た。
若干、眠そうにしている。
色々な後始末で、ロクに眠っていないのかも知れない。
まずぼくら「蛮行の雨」が、
「飛行竜隊の撃墜」と、
「岩石竜討伐の手助け(本当は討伐)、
「雷のガシャス討伐の手助け」を表彰され、報奨金を頂いた。
勇者団のクラスが、中級から上級に上がった事も報告された。
が、そのレベルの低さ(たぶん)に響動く室内。
表彰状と、お金の入った袋を受け取るぼく。
ぼくが勇者団のリーダーなので仕方がない。
ぼくが「勇者」として名を呼ばれ、深く沈めていたガニ股を伸ばして立ち上がった時は、室内が少し騒めいた。
「何故、ゴーレムが」
という囁きも、名士の列から聞こえた。
「人間を差し置いて」という当然の反応かも。
次に、本日のメインイベント。
黒騎士が表彰された。
「光栄至極に御座りまする」
ガチガチに緊張して、何度も頭を下げ、表彰状と賞金を受け取るバンガウアさん。
フーコツの、光呪術による魔族ムンヌルの取り込み。
そして、ロウロイドさんの、魔王軍の壊滅を目論んだ「謎の黒騎士作戦」。
それらは、クカタバーウ砦ネットワークとして、近在のギルド、さらに首長らが連絡を取り合い、共有し更新され続けているのだ。らしい。
だから、ユームダイムのレイヤベルカ市長も承知しているはずだが、ロピュコロス軍四天王のひとり、「鋼のバンガウア」が、
「もはや人間の味方。二重スパイ」
とはどの時点で知ったのか? 不安はないのか?
たぶん不安を押し殺して表彰しているんだろうけど。
ぼくたちはまだ、バンガウアさんと付き合い? があったので納得も早かったが。
表彰と賞金の授与の後、和やかな、質疑応答になった。
「我がユームダイムに滞在しては頂けないものか?」
という名士連からの質問には、
「世には魔族、魔獣の災難は尽きませんからな、ひと所に留まるのは無理です」
と答える黒騎士バンガウア。
「勇者団」を名乗るぼくらが恥じ入るくらい真っ当な返答だった。
次回「バンガウア、強化される?」(前)に続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
次回、第八十一話「バンガウア、強化される?」前編は、
来年の投稿になります。
予定の曜日通り、二日の木曜日から投稿できるのか?
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ではまた来年。良いお年を。




