表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/365

「『蛮行の雨』登録せり!」(後)

もちろん、タダで勇者団になる方法もある。


ローカル魔王を一人倒すか、部下の大幹部を四、五人倒し(四天王とか、五神将とか、六邪神とか言った連中だ)、一国の王から勇者団認定を受ければ、褒賞(ほうしょう)金ももらえる上に、押しも押されもせぬ勇者団だ。


我ら「蛮行の雨」、お金で買ったいわゆる「なんちゃって勇者団」は、登録も終わったので、さっそく「勇者の(あかし)」も買う事にした。

  ギルド内の売店で売っているのだ。


(エレ)マント」である。

  裏地は(メラー)

裏地が、金色(アウルム)とか、銀色(ギュミュシ)とかは、勇者ではない、ノーマルな黒マントだ。


これは勇者であるぼくだけが身に付ける。

腰のあたりまでの、短い物を買ってもらった。

  こちらは案外安くて助かった。


「背中の補助推進器(ブースター)()かせたら、燃えてしまうよ」

  と、ぼくは言ったが、

咄嗟(とっさ)に脱ぐ。あるいは、マントを燃やしながら跳ぶのも良い」

  とのミトラの返事だった。


「ああ、火を噴く大ジャンプね。宮廷の警備ゴーレムが、たまにやってたわ」

  と、ジュテリアンが言った。

「急ぎの時は、人を(かか)えて跳ぶのよね。んで、着地の時はまた、炎を()いて、やんわりと降りる。器用なもんだったわ」


それと、「勇者団プレート」。

団名と個人名を刻印してもらって、共通の装身具(アクセサリー)とするのである。

たとえば、何処(どこ)かで魔族に倒され、野垂(のた)れ死んでも、プレートで誰だか分かると言う寸法である。


各自、二枚ずつ作る仕様になっていた。

元いた世界の、兵隊のドッグタグと同じ。認識票だ。


ミトラとジュテリアンは、個人(ソロ)用タグを持っていた。

「前の勇者団タグは、ギルドに返した」と、ジュテリアンは言った。

溶かされて、また新しいタグに造り直されるのかも知れない。


売店には、各地にあると言う『神岩に刺さった伝説の武器』の複製品(レプリカ)も売っていた。

「ザパルの大剣(ディックソード)

「アレドロロンの攻撃杖(アタックロッド)

「デルエルの双剣(ツインソード)

  などである。


ここでミトラとジュテリアンは、護符(タリスモン)吟味(ぎんみ)して買った。


  ぼくも、まだ光の盾を持っていない事を知ったジュテリアンに、初心者用という(フフ)の盾を発現させる護符を買ってもらった。


護符は重ねる事によって強化できるそうだ。

勿論(もちろん)、強化したつもりが、弱体化もあるそうだが。


護符と同じ効果を持つ、アクセサリーの(たぐ)いもあるが、目に見えるところには付けないと言う。

たとえば、

「攻撃力増強」や、

「防御力増大」の指輪をしているとして、手首をチョン切られたら終わりだし、実際にアクセサリーをした手は狙われるのだそうだ。


「結構、良い品もあるわね」

と、大剣の(ブレード)を見てニタついているメイド戦士風僧侶ジュテリアン。

戦士に擬態しているから、見た目に不思議はないんだけど。


(オノ)を、真剣な眼差(まなざ)しで見ているミトラ。

ミトラの持つ棍棒は、斧刃(ふじん)が飛び出す仕掛け棍棒なのだ。

つまり彼女は、「棍棒使い」に化けた「斧使い」なのである。


何故(なぜ)そんな事をしているのか?

『初めて対峙(たいじ)した『敵』」の場合、腕に自信のある奴ほど、

『なんだ棍棒くらい』って、自分の強さを誇示(こじ)するために、わざと避けずに腕や足で受けようとするのだそうだ。


「ぶつかる瞬間に刃が出るじゃない?」

  からの、

「ぶった切っちゃうじゃない?」

  からの、

「切られた部位が落っこちたりするじゃない?」

  からの、

「敵はビックリな訳じゃない?!」

  だからだ。


いわゆる「初見(しょけん)殺し」である。


「この仕掛けで幾度となく難敵を倒して来たわ」

と、ナーファ古戦場を出てからの道中に、教えてもらった。


自分(じぶん)が、(いにしえ)戦士(ゴーレム)、つまりぼくに相応(ふさわ)しい相棒である事を言いたかったのかも知れない。

こちらは、元の世界では製造工場勤めの会社員。

  戦闘経験皆無の一般人なのだが。


ギルドの、下級・下下級用の喫茶ルームで今後の作戦を練る「蛮行の雨」。

「とにかく、(ぶん)に過ぎたる依頼を狙うのは()めましょう」

自分の所属していた勇者団が解散しているからだろう、ジュテリアンはキッパリと言った。


「でも、あたしたちなら、上級や特級の依頼もこなせると思うわ」

  焼き菓子を頬張りながら、ミトラが言った。

「まあ、その辺りだったら大丈夫だと思うけど」

  と、薬用茶を飲むジュテリアン。


ミトラもジュテリアンも、個人(ソロ)の「超特級」の(プレート)を持っている。

      ど素人はぼくだけだ。


「派手に動くのも禁物ね。変に目立っちゃうと、(ねた)み、(そね)み、(ひが)みを生んで、大事な時に他のチームに助けてもらえなかったりするから」

(うわ。体験談だ)と、ぼくは思った。


「体験談ですか?」

     と、ストレートに聞くミトラ。


「もちろんよ」

  即答するジュテリアン。

「人間なんて弱いから、心も体も。勇者団の一番多い解散理由は、『分配金のいざこざ』なんだから」


「うへえ」

  首をすくめるミトラ。


「仲間が死んだら責任の(なす)り合い。大怪我(おおけが)をさせても、そう。そして、仲違(なかたが)いのまま、解散するのよ」

「大怪我を回復したら、感謝が生まれるんじゃ……」

「それが駄目なのよ。感情の問題だから」


「そ、そんな事になったらどうしよう……」

  不安そうなミトラ。

「『蛮行の雨』は大丈夫。私はエルフだし、ミトラはドワーフじゃないの。まあ、五百年生きて来て、まだこの(てい)タラクだけど」


「ぼ……、ぼくは今日、生まれたばかりです」

「そうだったわね。にしては頑張ってるわね、あなた、話を聞くに」

「うん。すごく頑張ってる。生まれたその日に勇者だなんて」


(いやそれは、ぼくの望んだ事ではない、ミトラ)

  と、ぼくは思った。

     口には出せなかったが。


そして慌てて、外部スピーカーのスイッチを確認した。

  うん。

      今度はちゃんと、切ってあった。




   次回「その者、金属場違(メタルオー)工芸品(パーツ)なり!」(前)に続く






次回、第九話「その者、金属場違(メタルオー)工芸品(パーツ)なり!」前編、後編。

は、明日の日曜日に予定が入らなければ投稿予定。


ダラダラ続いていますが、お付き合い下さってがいる方、ありがとうございます。

大きな声では言えませんが、「魔人ビキラ」のような一話完結の話ではないので、書くのが楽なような気がします。


今は、齟齬(そご)が出ないように気をつけて書いています。

ウカツな布石を消したのは内緒です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ