「『蛮行の雨』登録せり!」(後)
もちろん、タダで勇者団になる方法もある。
ローカル魔王を一人倒すか、部下の大幹部を四、五人倒し(四天王とか、五神将とか、六邪神とか言った連中だ)、一国の王から勇者団認定を受ければ、褒賞金ももらえる上に、押しも押されもせぬ勇者団だ。
我ら「蛮行の雨」、お金で買ったいわゆる「なんちゃって勇者団」は、登録も終わったので、さっそく「勇者の証」も買う事にした。
ギルド内の売店で売っているのだ。
「黒マント」である。
裏地は赤。
裏地が、金色とか、銀色とかは、勇者ではない、ノーマルな黒マントだ。
これは勇者であるぼくだけが身に付ける。
腰のあたりまでの、短い物を買ってもらった。
こちらは案外安くて助かった。
「背中の補助推進器を噴かせたら、燃えてしまうよ」
と、ぼくは言ったが、
「咄嗟に脱ぐ。あるいは、マントを燃やしながら跳ぶのも良い」
とのミトラの返事だった。
「ああ、火を噴く大ジャンプね。宮廷の警備ゴーレムが、たまにやってたわ」
と、ジュテリアンが言った。
「急ぎの時は、人を抱えて跳ぶのよね。んで、着地の時はまた、炎を噴いて、やんわりと降りる。器用なもんだったわ」
それと、「勇者団プレート」。
団名と個人名を刻印してもらって、共通の装身具とするのである。
たとえば、何処かで魔族に倒され、野垂れ死んでも、プレートで誰だか分かると言う寸法である。
各自、二枚ずつ作る仕様になっていた。
元いた世界の、兵隊のドッグタグと同じ。認識票だ。
ミトラとジュテリアンは、個人用タグを持っていた。
「前の勇者団タグは、ギルドに返した」と、ジュテリアンは言った。
溶かされて、また新しいタグに造り直されるのかも知れない。
売店には、各地にあると言う『神岩に刺さった伝説の武器』の複製品も売っていた。
「ザパルの大剣」
「アレドロロンの攻撃杖」
「デルエルの双剣」
などである。
ここでミトラとジュテリアンは、護符を吟味して買った。
ぼくも、まだ光の盾を持っていない事を知ったジュテリアンに、初心者用という青の盾を発現させる護符を買ってもらった。
護符は重ねる事によって強化できるそうだ。
勿論、強化したつもりが、弱体化もあるそうだが。
護符と同じ効果を持つ、アクセサリーの類いもあるが、目に見えるところには付けないと言う。
たとえば、
「攻撃力増強」や、
「防御力増大」の指輪をしているとして、手首をチョン切られたら終わりだし、実際にアクセサリーをした手は狙われるのだそうだ。
「結構、良い品もあるわね」
と、大剣の刃を見てニタついているメイド戦士風僧侶ジュテリアン。
戦士に擬態しているから、見た目に不思議はないんだけど。
斧を、真剣な眼差しで見ているミトラ。
ミトラの持つ棍棒は、斧刃が飛び出す仕掛け棍棒なのだ。
つまり彼女は、「棍棒使い」に化けた「斧使い」なのである。
何故そんな事をしているのか?
『初めて対峙した『敵』」の場合、腕に自信のある奴ほど、
『なんだ棍棒くらい』って、自分の強さを誇示するために、わざと避けずに腕や足で受けようとするのだそうだ。
「ぶつかる瞬間に刃が出るじゃない?」
からの、
「ぶった切っちゃうじゃない?」
からの、
「切られた部位が落っこちたりするじゃない?」
からの、
「敵はビックリな訳じゃない?!」
だからだ。
いわゆる「初見殺し」である。
「この仕掛けで幾度となく難敵を倒して来たわ」
と、ナーファ古戦場を出てからの道中に、教えてもらった。
自分が、古の戦士、つまりぼくに相応しい相棒である事を言いたかったのかも知れない。
こちらは、元の世界では製造工場勤めの会社員。
戦闘経験皆無の一般人なのだが。
ギルドの、下級・下下級用の喫茶ルームで今後の作戦を練る「蛮行の雨」。
「とにかく、分に過ぎたる依頼を狙うのは止めましょう」
自分の所属していた勇者団が解散しているからだろう、ジュテリアンはキッパリと言った。
「でも、あたしたちなら、上級や特級の依頼もこなせると思うわ」
焼き菓子を頬張りながら、ミトラが言った。
「まあ、その辺りだったら大丈夫だと思うけど」
と、薬用茶を飲むジュテリアン。
ミトラもジュテリアンも、個人の「超特級」の証を持っている。
ど素人はぼくだけだ。
「派手に動くのも禁物ね。変に目立っちゃうと、妬み、嫉み、僻みを生んで、大事な時に他のチームに助けてもらえなかったりするから」
(うわ。体験談だ)と、ぼくは思った。
「体験談ですか?」
と、ストレートに聞くミトラ。
「もちろんよ」
即答するジュテリアン。
「人間なんて弱いから、心も体も。勇者団の一番多い解散理由は、『分配金のいざこざ』なんだから」
「うへえ」
首をすくめるミトラ。
「仲間が死んだら責任の擦り合い。大怪我をさせても、そう。そして、仲違いのまま、解散するのよ」
「大怪我を回復したら、感謝が生まれるんじゃ……」
「それが駄目なのよ。感情の問題だから」
「そ、そんな事になったらどうしよう……」
不安そうなミトラ。
「『蛮行の雨』は大丈夫。私はエルフだし、ミトラはドワーフじゃないの。まあ、五百年生きて来て、まだこの体タラクだけど」
「ぼ……、ぼくは今日、生まれたばかりです」
「そうだったわね。にしては頑張ってるわね、あなた、話を聞くに」
「うん。すごく頑張ってる。生まれたその日に勇者だなんて」
(いやそれは、ぼくの望んだ事ではない、ミトラ)
と、ぼくは思った。
口には出せなかったが。
そして慌てて、外部スピーカーのスイッチを確認した。
うん。
今度はちゃんと、切ってあった。
次回「その者、金属場違い工芸品なり!」(前)に続く
次回、第九話「その者、金属場違い工芸品なり!」前編、後編。
は、明日の日曜日に予定が入らなければ投稿予定。
ダラダラ続いていますが、お付き合い下さってがいる方、ありがとうございます。
大きな声では言えませんが、「魔人ビキラ」のような一話完結の話ではないので、書くのが楽なような気がします。
今は、齟齬が出ないように気をつけて書いています。
ウカツな布石を消したのは内緒です。




