「バンガウア、表彰される」(前)
その後も黒騎士と女性陣の口論と言うか、ジャレ合いは続き、逃げ損ねた黒騎士は、市役所からの案内人、メリオーレスさんと顔を合わせた。
「あっ、バンガウ……」
剥き出しになっている魔族の顔を見て、思わず名を呼びかける。
「いえ、黒騎士様。すでにお戻りでしたか」
僕らの部屋に入って来て、破顔一笑のメリオーレスさんだった。
「あ。ああまあ……」
力無く応じる黒騎士。
表彰式に乗り気でないのを隠そうともしない。
「では市役所へご案内します。市長と、たんまりな報奨金がお待ちです」
メリオーレスさんは、露骨にモノ申した。
「おう。おおまあ……」
金は欲しい、と言う顔で返事する黒騎士。
「何? 報奨金、要らないのならあたしに頂戴」
煮え切らない黒騎士の返事に苛立って、ミトラが少し大きな声を出した。
「んあ。報奨金は欲しい。路銀に余裕がない」
黒騎士は遠慮なく生活臭を振り撒いた。
そして観念したのだろう、ヘルメットを被った。
そして市役所へと向かう「蛮行の雨」と黒騎士。
さらに、オマケ招待客の「引き潮の海(新入りギュネーさんを含む)」とくノ一アヤメさん。
心細いので、ぼくたちがお願いして、同席してもらう事になったのだ。
市役所は、山の中腹にあると言う。
「やっぱり、山頂の建築群は地対空施設なんですか?」
ぼくはストレートに聞いた。
「そうだそうよ」
と、メリオーレスさん。
「わたしは赴任して来たばかりだけど、予習はして来たわよ」
「街の機密ではないのか? 普通の家屋に偽装しておるのだろう?」
フーコツが口を挟んだ。
「昔は秘匿だったみたいね。でも今はもう、広く知れ渡ったそうだから」
「しかし、今回の跳躍蜥蜴の侵入には無力だった訳じゃな?」
「地上から素早く城壁を越えて来たそうですからね。でも警備隊は、『半分以上が撃退出来た』と言ってましたよ」
「そうか。警備隊には内緒だが、それは囮だったからじゃろう。撃退出来たのは、ガシャスの一団とは別の方角から侵入しようとした連中ではないのか?」
「あっ。そ、その通りです。さしたる抵抗もせず、逃げ去ったとか」
と言って頭を抱えるメリオーレスさん。
「ああ、三方から攻めて来たんじゃなくて、二隊は囮だったんだ。内緒にしとこう。いやいや、やっぱり市長に報告しとこう。今後の事もあるし」
「さらに内緒の話じゃが、大都市ユームダイムの防御は脆弱であったな」
「そそそその通りです、フーコツさん。魔族に攻め込まれたのは三百年ぶりだそうで、その間の平穏で、すっかり油断のカタマリになっていたようです」
「少数で攻められたのも、盲点であったでしょうし」
と、ジュテリアン。
「それにしても、隙だらけの街だと思わない? ジュテリアン」
メリオーレスさんは昨日、赴任したばかりで街に思い入れがないのか、きっちりとディスった。
「飛行竜の後始末に行った警備隊は、死体だけを見つけたそうです。数は十体。竜は全滅です」
「あの高さだと、死んでしまうのか? 脆いものだな」
「剣の傷があったそうですから、生きていた個体はトドメを刺されたようです」
「ええーーっ? 飛べなくなったら、もう邪魔者あつかいなの?」
と、ミトラ。
「連れて逃げる余裕がなかったんでしょう」
と、ジュテリアン。
「その場で解体して、肉は持って帰って来たそうですよ。夜の祝勝会が楽しみですね!」
「乗ってた魔族はどうだったの?」
と聞くジュテリアン。
「ああ。血の跡は派手にあったそうだけど、魔族の遺体はひとつもなかったそうよ。生き残りの仲間が運んで行ったんでしょうね。あるいは、誰も死ななかったのかも知れないし」
「パレルレなら、あの高さから落とされてもブースターがあるから、落下速度を和らげられるわよね」
ミトラが自信なさそうに言った。
「うん。壊れずに着地出来ると思う」
と、ぼく。
「あたしたちはどうなんだろう? 光の盾はクッションになるよね?」
と、ミトラ。
「そうね。吹き飛ばされた時なんか、咄嗟に背中に出に出して、クッションになった事があったわ」
とジュテリアン。
「あの高さは、分かんないけど」
「風使いであれば、風に乗って無傷で着地出来たであろうから、魔族にもそういう連中が居たのだろう」
温風くらいしか風を操れないフーコツが言った。
次回「バンガウア、表彰される」(後)に続く
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第八十話、「バンガウア、表彰される」後編は、明日の日曜日に投稿します。




