「雷のガシャスの隠れ家」(後)
本物の、秒速三十万キロの落雷ならば避けようもないだろうが、魔法の雷術は遅い。
ピカッ! と光ってから盾を張っても、間に合うだろう。
たぶん、エナジー源が違うのだ。
「あたし、やっぱり武器取って来る!」
ミトラは紫盾を盾の群れに置いたまま、竜にダッシュした。
ミトラの伝説の斧は、ジュテリアンが竜の身体の中に蹴り込んでしまった。
取り出すのは大変そう。
「ああっ、ミトラさん!」
叫ぶアヤメさんに、ジュテリアンが、
「大丈夫。ミトラの鎧は雷耐性がある!」
と言った。
転生官ランランカとの最初の戦いで、ミトラは盾なしで落雷に耐えていた。
今度だって大丈夫なはずだ。
「馬鹿め。死ね!」
落雷が何本も、ガシャスの俗な叫びとともに、岩石竜に走るミトラを襲った。
爆風と直撃雷によろけながらも、竜の体に辿り着くドワーフの娘、ミトラ。
そこに、ミトラの居る辺りに竜巻雷撃が落ちた。
「ぎゃっ!」
と言う悲鳴を最後に、ミトラの姿が見えなくなった。
「やってくれたな、ガシャス!」
フーコツがそう叫ぶと、三枚の卍手裏剣が盾の群れから飛び出した。
盾を組み直す、ぼくら。
ガシャスは五層の金色盾で自分の身を守る。
自信か自慢か、魔族は笑っていた。
三枚の卍手裏剣はガシャスの盾に刺さり、そして爆発した。
その強力な圧力波によってガシャスの盾は消滅した。
爆発に共鳴して、ぼくらの盾の群れが唸る。
「ひいい!」
と声を上げてしまうアヤメさん。
黒騎士はガシャスに迫っていたので、飛んで来た圧力波を黒の盾が倍にしてガシャスに反射した。
その逆流の爆圧に、盾を失ったガシャスは身体を吹き飛ばされ地面に転がる。
こちらでは、フーコツが地面に崩れ落ちた。スタミナ切れだろう。
ジュテリアンが、
「盾のエナジーを回復に回します」
と言って自分の盾を消した。
慌てて再び盾を組み直すぼくら。
短剣をフーコツに翳す僧侶ジュテリアン。
「ああ、もう。完全にいっちゃってる」
ジュテリアンは、フーコツの目を片手で開いて言った。
「グゲゲゲオォーーー!」
岩石竜が唐突に鎌首を持ち上げ、そしてジャンプした。
故意か偶然か、バンガウアとガシャスの間に落ちる岩石竜。
「邪魔をするな、大蛇め!」
落ちて来た岩石竜に四本爪を突き刺すバンガウア。
しかし、出血には至らない。
だが、身を捩る岩石竜。
「おっと」
慌てて爪を引き抜く黒騎士バンガウア。
「ゲアアアァーーー!!」
今度は大きく仰け反り、そのまま後頭部から地面に落ちる岩石竜。
「拙者の爪が効いたわけではなかろうに」
跳び下がるバンガウア。
「なんなの? 竜の様子がおかしいわね」
ぼくの背後でフーコツの治療をしながら、ジュテリアンが言った。
後頭部を地面に打ちつけた後、再びのた打ち回る岩石竜。
「なんだなんだ此奴は」
さらに下がるバンガウア。
「末期の踊りか?!」
岩石竜が邪魔でガシャスに近づけない黒騎士。
ガシャスは樹木にすがり中腰のまま落雷を放つが、黒騎士の盾に阻まれ、天に帰ってゆく雷。
ダメージを与えられない。
白煙と火花を上げるが、欠損した様子はない黒の盾。
「ばっ、化け物か、黒騎士」
呻くガシャス。
「だから剣技も覚えろと言ったのだ、ガシャス」
黒騎士が放言した。
「そうかっ。貴様、風のシュクラカンス?!」
迷走を続けるガシャス。
「凄い。あそこまで言っても、バンガウアさんの名が出ないなんて」
と感心するジュテリアン。
「いかにも! 竜狩りなどとは真っ赤な偽り」
と、ガシャスの勘違いに調子を合わせる黒騎士バンガウア。
「ここ三年ばかりは、反魔族活動に暗躍していたのさ」
「ぬう。クカタバーウ作戦の失敗は、貴様の仕業だったか、シュクラカンスっ?!」
「いかにも!」
再び調子を合わせる黒騎士バンガウア。
「シュクラカンスって、何年も魔王軍を離れてたんでしょ?」
と、アヤメさん。
「それでどうやって、クカタバーウの作戦を知るんですか? オカシイですよね?!」
「しーーっ。錯乱して、時系列が混乱しているんだから、そっとしといてあげましょうよ」
アヤメさんとジュテリアンが、コソコソと会話していた。
「もっと近づけたら、『くノ一忍法影縛り』で、魔族の動きを封じられるかも知れません」
アヤメさんがぼくの横まで来て、言った。
「あっ。今は近づくのは危険です。岩石竜が悶え狂ってるし。稲妻もいつ落ちて来るか分からない」
と、ぼく。
「待って。どれくらい近づけたらいいの? 私たちの動きで竜の目先を逸らせれば」
と、ジュテリアン。
「二ペート(二メートル)くらいです」
「あっ。二ペートまで援護するのは無理かも」
肩を落とすジュテリアン。
「どのくらい縛ってられるんですか?」
と、ぼく。
「五 秒はイケます!」
力強く宣言するアヤメさん。
「あーー、完全に『不意打ち忍法』なんですね?」
と、ある意味、感心するぼく。
「はい!」
再び力強く返答するアヤメさん。
確かに、戦闘中に五秒も動きを止められたら、致命的だ。
アヤメさんがガシャスの動きを止めて、しかし誰が致命傷を与えるのか?
作戦を練る時間がなかった。
そして転生に際して、何も有効的な攻撃方法をもらわなかったぼくは、
「影 縛り、凄え!」
と改めてアヤメさんの忍法に嫉妬した。
次回「ガシャスの最後」(前)に続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
明日は、第七十六話、
「ガシャスの最後」前編、を投稿します。
こういうタイトルはどうなんだろう?
中身を言っちゃって良いのか? とか思いますね。
自分で付けたんですけど。
これからは注意します。たぶん。
今回も打ち間違いがチラホラあった。
申し訳ありません。修正しました。




