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「雷のガシャスの隠れ家」(前)

「黒騎士っ?!」

と口々に叫ぶ、階段に身を伏せている「引き潮の海」とアマゾネス・ギュネーさん。


存在しないはずの者が、ぼくら「蛮行の雨」に味方したのだ。

  さぞ驚いたろう。

ぼくも驚いた。

(バンガウアが黒騎士?!)と。


「この黒盾(フフシルト)は貴様の仕業(しわざ)か?」

  と、黒騎士を(にら)むフーコツ。


「いかにも。反射殺しの娘よ」

黒騎士はそう言って、四本爪の鉤爪(クロー)を立てて見せた。

「危ないところであったな」


その返事で、

(なんだ、(シュタール)のバンガウアか)

  と言う顔で黒騎士を見るフーコツとジュテリアン。

ヘルメットで表情は分からないが、ミトラも気がついたのだろう。

「よしよし」

  とつぶやきながら、うなすいている。

そして、「引き潮の海」の皆んなも、ギュネーさん以外は気がついたようだった。


拙者(せっしゃ)を信じろ!」

  と、念を入れるように叫ぶ黒騎士・バンガウア。

「あっ、自称を『()れ』から『拙者』に変えてる」

  ミトラが笑った。

「武人ぶってるぞ、アイツ!」


「敵は『(トニトルス)のガシャス』。魔軍内の立ち場が悪くなったので……」

  公園を進む黒騎士。

「伝説の攻撃杖を奪い、拙者の持つ伝説棍棒との交換を()し魔王に献上しようという、ご機嫌取り作戦なのだ、これは!」


「セコい……」

  とつぶやき、走ってぼくの所にやって来るミトラ。

飛行竜(ヴォルドラゴーラ)跳躍蜥蜴(リープサウラー)も失って、散々じゃな」

フーコツは、疲労で腰をやられたのか、へっぴり腰で走って来た。

「黒騎士さん、私たちの盾も雷撃耐性があるから、(エレ)は引き取ってもらっても大丈夫よ」

  ジュテリアンも走って来る。


岩石竜(ロックドラゴーラ)は、跳ね疲れたのか、今は地面にS字になって伸びている。


「ガシャス、このままでは帰れまい。姿を現わせ」

黒騎士は女性たちに与えていた四枚の黒盾を自分の元に引き寄せ、四方を囲んだ。

元々、頭上には一枚あったので、盾で身を(つつ)んだ形になった。


  黒盾は徐々に交差して、隙間を(ふさ)いでいる。


盾は五枚しかなかったので、ぼくは選から()れだのだろう。

彼奴(あいつ)はゴーレムだから大丈夫」

とか思われたのかも知れない。

     確かに大丈夫だったけど。


「ガシャス、何処(どこ)に隠れておるのじゃろうか?」

「あの公園の隅っこの物置き小屋? なんか、怪しいじゃん」

「そんな単純な。仮にもガシャスは四天王ぞ」

「じ、じゃあ、何処に隠れているっていうのよ」

「それはじゃな、ワシらには分からぬ場所じゃ」

  と、逃げるフーコツ。


「黒騎士キサマ! 何者だっ?!」

公園の隅にあった物置き小屋から、身の丈二メートル半はあろうかという魔族が現われた。

「何故そこまで知っているっ?!」


「ほらっ!」

  小屋に指を突きつけて叫ぶミトラ。

「やっぱりあの物置きが隠れ家だったじゃん!」

「いや、『隠れ家』ではない。たまたま隠れておっただけじゃ」

  惨敗確定の屁理屈で対抗するフーコツ。

「あんな狭いトコにずっと……馬鹿(ばっか)じゃないの?!」

  すでに勝利に酔い、フーコツを相手にしないミトラ。

「ここは敵地なんだから、大目にみてあげましょうよ」

  と口を(はさ)むジュテリアン。

 

『同情、屈辱なり!』

「しっ。声が大きい、サブブレイン」

  ぼくは(あわ)てて注意した。

四天王とかいう魔族を刺激したくなかった。


ガシャスは(フフ)い肌に、(フフ)革外套(レザーコート)銀色(ギュミュシ)(ふんどし)

  細面(ほそおもて)の男前だった。

そして魔族らしい立派な猫背だ。


「何者だ?! だって。あたしたちよりずっと付き合いが長いでしょうに、ガシャス」

「しーーっ、しーーっ。ミトラ、余計な事、言わないの!」

  ジュテリアンが唇に人差し指を立てた。

「バンガウアの裏切りを想像出来ないのよ、きっと。人格者なのね、バンガウアさん」

  うっかり? 敬称を付けるジュテリアンだった。


「正体を知られたからには、お主にはここで死んでもらうぞ。ガシャス!」

「ぬぬ。何を言っておるか、黒騎士。お前は何者だっ?!」


「おっ? 暴露(バレ)てなかったのか?!」

  キョドる黒騎士バンガウア。

「えーー、こいつには落雷しかないが、気をつけろ、皆の衆! 側撃雷、竜巻雷などを自在に(あやつ)る」


「無駄な説明だ、黒騎士。()の雷術を避けうる者などおらん!」


「ついさっき、黒盾に跳ね返されたじゃないの。忘れっぽいの? ガシャス」

  と(あき)れるミトラに、

見栄(みえ)よ、見栄。黙って聞いてあげて」

  ジュテリアンが注意した。

刺激して、ガシャスにキレられるのが怖いのだろう。

  ぼくもだ。


ミトラの五層、ジュテリアンの二層、フーコツの三層。

そしてぼくの十層とアヤメさんの緑色(クローロン)の五層の盾が、集合しているぼくたちをガチガチに囲んだ。

盾の交差も深く、ただ、窒息しないようにあちこち隙間を開けてある。


雷撃は、隙間に突っ込んで来るんじゃないかと、ぼくはちょっぴり心配した。



      次回「(トニトルス)のガシャスの隠れ家」(後)に続く




お読み下さった方、ありがとうございます。

  明日は、

第七十五話「(トニトルス)のガシャスの隠れ家」後編を投稿します。

      ではまた明日、「蛮行の雨」で。

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