「黒騎士の参戦」(後)
ジュテリアンは、ミトラが岩石竜に突き刺した斧を蹴り込んだ。
伝説のブーツを履いているので、そんな無茶をする気になったのだろう。
願いは叶い、斧は完全に竜の体内に没し、黒い血が噴き出した。
竜が睨むより早く後方にジャンプしたが、着地を狙われ、金色盾を三層失うジュテリアン。
そして復元しないジュテリアンの盾。
「卍はもう射てない。射ったら半分死ぬ」
と、ジュテリアン。
なんだろう? 半死半生になる?
「あたしも。朝の飛行竜が余計だった」
と、ミトラ。エナジー切れが近いのだろう。
「盾の数は増えたが、エナジーを強引に吸い上げる護符であったな」
溜め息まじりにフーコツ。
フーコツはそして、火球を連射した。
火球は正確に岩石竜の頭部で破裂したが、竜は燃える岩弾にして反撃した。
その岩弾はフーコツの盾を二層、破壊し、地面に転がった。
そして、やはりと言うべきか、フーコツの盾は復元しなかった。
「血は止まらぬようだし、出血死を待つか?」
と、後退りながらフーコツ。
ぼくはとも角も、プースターによる大ジャンプを繰り返しながら岩石竜の周囲を舞った。
岩弾は、たまにしか飛んでこなくなった。
青の盾を犠牲にしながらジャンプで接近し、再装填の隙を突いて、電撃鞭、高熱鞭で岩石竜を打ってみたが、果たして効果がないっぽい。
あるいは、痩せ我慢の固まりか? 岩石竜。
「効いてる、効いてる!」
ゴルポンドさんの気休めが、虚しく公園に響く。
「あいつ、ちょっとスマートになってない?」
と、ミトラが言った。
「岩弾を吐出しすぎて、痩せてしまったのであろうな」
「魔族たちを倒したと思ったら、すぐに私たちの相手をしたものね」
「ジュテリアン、どうした? 髪の毛が逆立っておるぞ」
「フーコツ、あなたこそ盛大に逆立っているわよ」
「髪の毛がチリチリします。なんですか、これは?」
本物のアヤメさんが、茂みから姿を現わして言った。
『電子の道』
「なんだって? サブブレイン」
ぼくがそう言った時、ミトラたちの頭上に黒色の盾が一枚ずつ出現した。
「エレだ!」
叫んで思わず首をすくめるフーコツとジュテリアン。
誰かが出してくれた防御盾、と思ったのか、キョトンとしているアヤメさん。
「誰が一体?!」
ミトラのつぶやきと落雷が同時に起きた。
稲妻がハッキリと見て取れる。
スピードが甚だ遅い偽物の雷撃のくせに、音だけは一人前だった。
食堂で聞いた、遠雷だと思った音はコレだったのだろう。
ミトラ、ジュテリアン、フーコツ、アヤメさんへの落雷は、黒の盾が反射して虚空へと返した。
ぼくは落雷をモロに喰らったが、雷電は外装を伝って地面に逃げた。
辺りの空気は焦げ臭くなったが、ボディのどこかを破損する事はなかった。
さすがはムン帝国の戦闘兵。
こんなのを相手にして、大魔王軍もさぞ大変だったろう。
しかしなぜ、ぼくだけエレの盾から漏れた?!
岩石竜も落雷を受け、傷口に響いたのだろう、雄叫びを上げ、断末魔のミミズのように激しく身を捩った。
フーコツやジュテリアンたちは無論、竜の身悶えから、黒盾を頭上に付けたままとっとと逃げたが、腰にキテいるヤバい走り方だった。
体力の消耗が著しいようだ。
焦げ臭い空気に満ちた公園に、
「大事ないか?! 皆の衆!!」
と叫んで踊り込んで来たのは、フルメタルアーマーの、黒尽くめの怪人だった。
そいつも頭上に一枚、黒の盾を浮かべている。
黒マント、しかし裏地は金色。
勇者ではない。勇者マントの裏地は赤だ。
腰のホルスターには、茶色の棍棒?
存在しないはずの、「謎の黒騎士」その人だった。
二メートルくらいの背丈。やや猫背。広い肩幅。
などに見覚えがあった。
魔族とすれば、あるあるな体格だったが。
「うわ、黒騎士!」
と叫んで、ぼくのところまで走って来るアヤメさん。
「黒騎士はすべて偽物」なのを知ってしまったので、怖くなったのだろう。
んーーと、鋼のバンガウアさんて、確か味方になったんだよね?
彼っぽいんだけど……。
次回「雷のガシャスの隠れ家」(前)に続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
次回「蛮行の雨」第七十五話、
「雷のガシャスの隠れ家」前編は、来週の木曜日に投稿します。
後編は、金曜日になります。
第七十六話「ガシャスの最後」前、後編は、土曜日〜日曜日に投稿予定です。
「あっ、ガシャス、もう倒されるんだ」
と思ったのは内緒です。
しっかり読見返して、しっかり加筆修正したいと思います。
ではまた明日、「ビキラ外伝」で。




