「蛮行の雨VS岩石竜」(後)
「まずは、頑丈なミトラとパレルレで様子見じゃな」
「そうね。あたしとパレルレなら、万がいち岩弾に盾を壊され直撃を喰らっても、大丈夫だと思う」
手に持っていた棍棒に斧刃を出すミトラ。
「私も隙を見て、ブーツで加勢します」
と、大きく開脚し、片足を出すジュテリアン。
そう言えば、ミニスカートのジュテリアンとギュネーさんは、階段下遠くの警備隊から下着が丸見えでは? 望遠鏡でこっち見てる奴もいるし。
と、ぼくは男らしい心配をした。
まあ、余計なお世話なので黙ってるけど。
「全力で盾。あと、皆んなから目を逸らしてから突っ込んで切り掛かる予定。パレルレが囮になってね」
『御意』
サブブレインが即座に返事した。
「ではまず、ワシとジュテリアンで先に『無能なる空気』を射って怯ませよう。生き物ならば、呼吸をしていようからな」
「了解!」
と、ジュテリアン。
フーコツとジュテリアンは立ち上がり、フーコツは白色の泡球を、ジュテリアンは紫色の煙球を、それぞれに射った。
弧を描いて飛んで来る泡球と煙球を、大顎を開いて見ている岩石竜。
「鈍い奴ね。先生の窒息球をマトモに喰らうぞ」
と、ギュネーさん。
ふたつの球は岩石竜の頭部に当たり、破裂した。
頭部から白い泡と、泥のような紫煙がダラダラと流れ落ち、その大顎にも流れ込んでゆく。
岩石竜は、泡と煙を大顎から滴らせながら、こちらを向いた。
苦しんでいる様子が、ない?!
「まずい。来るぞ」
と、ギュネーさん。
「此奴、息をしておらんのか?!」
と、フーコツ。
「パレルレ、突進!」
ミトラは、腹這いの状態から立ち上がり、公園に突っ込んだ。
ぼくも、伏せの態勢から起き上がり、ミトラの後を追った。
ミトラは、岩石竜に向かうのではなく、大きく旋回して竜の目を引いた。
「よし、こっち向いた。このまま旋回を続ける」
竜に向かって、ミトラは五層の盾を、ぼくは十層の盾を出現させた。
岩石竜は、人の頭くらいのから拳大まで、様々な大きさの岩石を高速発射した。
そんなに接近していないのだが。
たぶん、「怪しい」と思われたのだろう。
三十ほどの岩石弾が、泡と煙を流星痕のように引いて、正確に飛んでくる。
「けっ。やるじゃん、あいつ」
蛇行しながらつぶやくミトラ。
竜の偏差射撃は見事だった。
ぼくたちの先を寸分違わず読んで、盾に衝突する岩石弾。
ミトラは二層、ぼくは四層の盾を失った。
走っていた所に衝突され、ぼくたちは衝撃に耐え切れずに地面に転んだ。
「復元急げ!」
地面を転がりながらも叫ぶミトラ。
立ち上がった時には、すでに五層まで復元していた。
ぼくも十層まで戻して起き上がる。
しかし岩石弾の追撃は来なかった。
岩石竜の周囲に、三十体ほどの黒い影が走り回っていたのだ。
竜はそちらに気を取られて、怪しい影に岩石弾を乱射していた。
岩弾を受けた影は即座に分解、消滅している。
アヤメさんだ?!
「くノ一影分身だわ。読み物よりもずっと数が多い!」
公園の縁に身を伏せたまま、声を上げるギュネーさん。
「くそっ。ぼくも転生時の異能譲渡、欲しかった!」
「どれが本物?」
と、悩んでいるジュテリアン。
「皆んな、偽物。体熱放射がない」
と、ぼく。
「本物は多分、何処に隠れて影を操っていると思う」
「あっ、ホントだ。隣にいたアヤメさんが、いつの間にか分身の影に!」
隣の「影」に気がついて驚くギュネーさん。
「行くわよ、パレルレ。一発、殴ってやる!」
「オッケ! 囮になるから」
ぼくは足の裏のプースターを噴かせ、空中に飛び上がった。
地面を走り回る影から目を離し、空中のぼくに鎌首を向ける岩石竜。
そして吐き出される岩弾。
何十発もの岩弾を受ける青色の盾。
空中では足の踏ん張りようが無く、背中のブースターを噴かせて前からの衝撃に耐えるが、盾の層が次々と破壊されてゆく。
また、湾曲して飛んで来た岩弾の直撃も喰らった。
岩弾が落下して、何体かの影アヤメさんを消してしまった。
「ドジ」とか、「バカ」という容赦ない励ましをあちこちから受けつつ、盾を再現しながら降下するぼく。
飛行能力のないぼくは、空中で位置を確保するのが、難しいのだ。
再び、宙に舞うぼく。
ブースターの爆音と炎の効果は絶大だ。
竜は再び、ぼくを集中的に狙った。
次回「黒騎士の参戦」(前)に続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
「いよいよ佳境」と煽りながら、今度は黒騎士の参戦。どうなる、蛮行の雨?!
土曜日〜日曜日に掛けては、第七十四話「黒騎士の参戦」前編、後編。
来週はついに第七十五話「雷のガシャスの隠れ家」前編、後編。
ガシャス、やっぱり逃げてなかったんだなあ、と読み返して思う作者であった。




