「蛮行の雨VS岩石竜」(前)
「じゃあ、この上の公園にいるのは、岩石竜だけなのね?」
と、ジュテリアン。
「そうです。眠りを妨げられたせいか、お怒りな様子です」
「全長は三十ペート(三十メートル)はあります」
「竜の回転攻撃は脅威です」
隊員たちが、口々に言った。
「近づがなければ、大丈夫です。竜から攻撃する事はありません」
アゴ髭隊長が補足した。
「私は上に上がって確かめました」
「ふん。飛行竜は伝説の杖を奪うための陽動であったと言うのか?」
フーコツは鼻を鳴らして吐き捨てた。
「飛行竜は全滅し、肝心の杖は抜けず、踏んだり蹴ったりではないか」
「ぼくらにしてみれば、ザマアミロですけどね」
と、小柄な隊員がまた笑った。
「強力な回復光だな。私はもういい、ありがとう。部下を頼むよ」
と、アゴ髭隊員。いや、班長?
「岩石竜の攻撃は、口から高速連射する岩石弾だ。魔族の光の盾はことごとく破壊されていたよ」
「それと高速回転です」
細身の隊員が、先の言葉を繰り返した。
「駒のように身体を回転させ、魔族らを跳ね飛ばしました」
「三十ペートの岩石竜か。微妙じゃのう」
と言うフーコツの言葉を受け、
「うん。小さな岩石竜か、大きな岩石蛇か、ビミョー」
などと笑うミトラ。
あーー。大きいのが鷲、小さいのが鷹みたいな話かな?
「お主らは、もっと遠くに逃げるのじゃ」
と、隊員たちを指すフーコツ。
「アヤメさん、ギュネーさん、手を貸してやってくれ」
「私はもう少し彼らの回復を。足や腕に怪我をしています」
と、ジュテリアンが言った。
「頼む、ジュテリアン。ワシらは岩石竜の様子を見に行く」
そう言うと、四つん這いになって階段を上がってゆくフーコツ。
スリットから時々はみ出す太股が刺激的だった。
ミトラとぼくもフーコツに倣い、頭を低くして登った。
階段を這い登り、頭を半分出して公園を覗くぼくら。
竜の回転攻撃のせいだろう、掃き寄せられたような倒れ方をしている跳躍蜥蜴は、全長三〜四メートルくらいか?
トカゲ頭のカンガルーと言った風貌だ。
「むう。魔族や跳躍蜥蜴が、ピクリとも動かぬところを見ると、すでに絶命済みか?」
と、フーコツ。
大小の燃えている木片や岩石、焦げた地面が多数、確認出来た。
そして間もなく、伝説の杖争奪の第二ラウンドが始まろうとしているんだ。
岩石竜は茶系の表皮だ。
全長三十メートルは聞いた通り。
胴の直径三メートルは、聞いてなかったが。
頭部は異様に大きく、ティラノサウルス風だ。
手足はなかった。
眼は、すこぶる小さいが、頭の左右にひとつずつ。
頭頂部の盛り上がった部分に、伝説の杖が刺さっていた。
竜の身体のあちこちに、黒い焦げ痕があるが、体皮の模様ではなく、魔族に雷撃攻撃された名残りだろう。
「ここまで来たら、伝説の杖が欲しいのう」
「うん、守護神だがなんだか知らないけど、アイツの頭から引っこ抜いちゃおう」
と、光娘と闇娘の意見が一致した。
岩石竜は鎌首を高く掲げていた。
節足動物のような大顎を左右に開いたり閉じたりして、頭部を左右に振り、同じ所を這い回っている。
永い永い眠りから覚め、襲われ、コーフン未だ冷めやらず、と言った所か?
公園の縁から頭を出しているぼくたちの事は、見えているはずだが、襲ってこない。
領域外、という話か?
「杖は欲しいが、高速射出の岩弾に、魔族の盾が耐えられなかったと言うのは、怖いのう」
「大丈夫。あたしらの盾は大丈夫だから。ラファームの、モグリの護符屋さんで強化したもん」
「自己暗示では強化されぬぞ、光の盾は」
「どんな様子ですか?」
ジュテリアンがやって来て、ささやいた。
ギュネーさんやアヤメさんも来た。
「おう。もう大丈夫なのか? 怪我人たちは?」
と、振り返るフーコツ。
「警備隊が騎馬でやって来ました。『引き潮の海』も便乗してやって来たので、回復はコラーニュさんや警備隊の僧侶に任せて来ました」
「それから先生。岩石竜に対しては、
『蛮行の皆さんで好きにやって下さい』との事でした」
と、ギュネーさん。
「今朝方の、飛行竜の全滅が効いたようです」
と、アヤメさん。
「好きに出来るのは有り難いが、ワシらは余所者ぞ。ユームダイムの面子はいいのか?」
隊員に被害が出ないのであれば、メンツは構わない、という話なのかも知れない。
「人を近づけないでくれると助かるわ。岩石竜、強そうだから、戦いは蛮行の極みになるかも知れないし」
ジュテリアンがそう言うと、
「伝えて来ます」
と応じて、アヤメさんが十段ほどの階段を一挙に跳び下りた。
警備隊は、遠く家屋の間に散開していた。
一般市民が近づかないようにしている、のだろう。
「忍者って、やっぱりあんな事が出来るのねえ」
しみじみとつぶやくギュネーさん。
いや彼女は、ただの忍者マニアだったはずだけど。
さては、ランランカにもらったチート能力か?
……うらやましい……。
次回、「蛮行の雨VS岩石竜」(後)に続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
明日の金曜日は、
第七十三話「蛮行の雨VS岩石竜」後編、を投稿します。
ではまた明日、蛮行の雨、で。




