「岩石竜」(後)
「なにいっ?!(ロウロイド談)」
「なんだとっ?!(ゴルポンド談)」
「まさかそんな!(コラーニュ談)」
口々に叫ぶ「引き潮の海」。
「走っていた人」は地面に下ろされて、
「公園で体操をしていたら、跳躍蜥蜴に乗って魔族たちが公園に! 伝説の杖が落雷攻撃されて、地面から岩石竜が!!」
と、叫んだ。
「うあ。ガチで魔族に侵入されてるじゃん!(ミトラ談)」
「また伝説狙いか? 懲りん奴らじゃ(フーコツ談)」
「岩石竜は確か、絶滅したはずでは?!(ジュテリアン談)」
ああ。遠雷は、魔族の攻撃音だったのか?
「ううむ、岩石竜。察するに、伝説杖の守護神ではあるまいか?」
と、フーコツ。
「儂は最初から見ていたぞ」
なぜが得意そうに言う走っていたおじさん。
「警備隊はどうなりました? 数人居たはずですが」
ジュテリアンがそう問うと、
「ああ。怪我をしているが無事だ」
と、答える走っていたおじさん。
「もっと見ていたかったが、そいつらに『逃げろ』としつこく言われてな、逃げて来た」
「やばい。急ぎましょう。パレルレ、抱いて」
そう言ってぼくの腕を掴むジュテリアン。
「走っていた」おじさんには、そのまま走り去ってもらった。
勇者マントを収納庫に入れたぼくは、ミトラ、ジュテリアン、フーコツ、ギュネーさんを腕に抱えた。
言わずとも、アヤメさんがラグビー頭に抱きつき、肩車の形に落ち着いた。
ぼくは四本の足の裏に車輪を出した。
「オレたちの分も残しておけよ!」
と言うゴルポンドさんたちを残し、背中のブースターを噴かせてダッシュした。
街に再び警報が鳴り響き始めた。
魔族侵入の知らせが、市役所にでも届いたのだろう。
早朝に、爆音を立てて街の中を疾走するぼくたちに、窓や扉を開き、
「うるさい!」とか、
「何事だ?!」とか言う人たち。まあ、当然か。
サブブレインが拡声器を使い、
『魔族侵入!』とか、
『逃げろ!!』とか伝えた。
公園が近くなり、逃げて来る人も散見されるようになったので、ブースターを切って、皆んなで走った。
途中で半鐘台を見つけて登った。
伝説公園の様子を見るためだ。
スルスルと真っ先にアヤメさんが登って、
「あっ、広い空き地に、大きな石コロや、木片が沢山散らばっています」
と、報告した。
「デモラとリープサウラーが倒れています。杖や剣も散らばっています。岩石竜らしきものしか動いていません」
「竜の頭に刺さっているのは伝説の杖ですね、先生」
竜と言って良いのか、アレ?
簡単に言うと、岩石ゴーレムの蛇タイプだ。
ぼくは半鐘台の支えに掴まって、公園を眺めた。
半鐘台の床は狭く、女性だけで満員になっていたからだ。
「うひゃあ。魔族もリープサウラーも、倒れたままピクリとも動かないじゃん」
「転がっておるのは岩弾か? ハイドサウラーのように岩を吐くようじゃな」
「階段の下に警備隊員が四人、うずくまっているわ。急ぎましょう」
すれ違う人の中には、「逃げろ」と言ってくれる人もいたので、杖や、棍棒や、短剣や、V字盾を手に持ち、ぼくたは「討伐に向かっている」意思表示をして進んだ。
公園は十段ばかりの階段を上がった所だ。
階段下の地面にうずくまる隊員四人に走り寄るぼくたち。
昨日のニューノ班長やデンスさんの顔はなかった。
昨夜の内に交代したのだろう。
「討伐団か? 止めておけ」
体格の良い、顎髭を生やした大男が、公園の斜面に背を預けたまま言った。
「この上の公園にいるのは、絶滅したと言われる岩石竜だ。岩弾を高速で吐く」
他の三人は、ぐったりと斜面に身体を倒したままだ。
「これは回復杖なので」
そう言って、短剣をアゴ髭の大男に翳した。
頭から流れ落ちた血は、すでに固まりつつあった。
回復光が大男を包む。
「『蛮行の雨』と言う。魔族の侵入を聞いたので、討伐に来た」
フーコツが名乗った。
「バンコーだって?!(小柄隊員談)」
「今朝早く、飛行竜を落とした人たちか?!(太め隊員談)」
「伝達蜥蜴で報告は受けています!(細身隊員談)」
ぐったりとしていた隊員たちが、上半身を起こして口々に言った。
「岩石竜が一頭、うろうろしているのは見えましたが、何があったんですか?」
と、ジュテリアン。
「魔族が、跳躍蜥蜴に乗って公園に飛び込んで来た。そうだな。五、六匹だったように思う」
アゴ髭隊員が言った。
公園に倒れているカンガルーみたいなサウラーは六匹だ。
「大慌てで逃げたが、サウラーの蹴りがちょっと掠っちまってな」
自分で頭を突く大男。
「丈夫な身体に産んでもらって助かった。親に感謝だ」
天に手を合わせる大男。
「で、魔族たちは我々を追う事はなく、即座に神木に落雷攻撃を始めやがった」
折れた大木が、神木に出世していた。
「そしたら神木が爆発して、岩石竜が出て来たんだよ。頭部に『伝説の杖』が刺さっている。ずっと地下で眠ってやがったんだ」
「直接的な刺激が大き過ぎて、お目覚めか?」
と、ギュネーさん。
「それから、魔族と岩石竜が戦い始めたんだが、魔族の落雷攻撃は効かず」
身振り手振りで話すアゴ髭大男。
「竜の吐く岩弾に、魔族の盾は簡単に貫かれ、たちまちリープサウラーもろとも駆逐されたよ」
「ひとり、デカい魔族が生き残ったが、地面に倒れて呻く仲間を見捨てて、自分だけ逃げてった」
と言って笑ったのは、アゴ髭ではない、小柄な隊員だった。
「雷を操るデカい魔族?!」
フーコツが、顎を撫でてつぶやいた。
「もしや、ガシャスと言う野郎かのう?」
「うあ。四天王の一人じゃん」
ミトラが眉を寄せて言った。
「でも、逃げてったのなら、安心か?」
いやしくも四天王ともあろう者が、そんな事をするのか?
捲土重来とか思って、そこら辺に隠れているんじゃないのか?
桑原桑原だ。
次回「蛮行の雨VS岩石竜」(前)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
次回「蛮行の雨VS岩石竜」前編は、来週の木曜日に投稿します。
明日は、「ビキラ外伝」を投稿します。
ではまた、ビキラで。




