「飛行竜の罠?」(前)
「ん? こちらが何か撃ったのは見えたであろうに、編隊を崩さぬな」
「舐めてんじゃないですか? 先生」
「舐めてくれた方が助かるわ。でも、この距離で届くなんて……」
メリオーレスさんは攻撃を頼みに来たくせに、まだ信じられない様子だった。
「飛行竜が散開しました、先生!」
望遠鏡を覗いていたギュネーさんが声を上げた。
「遅い。すでにロック済みじゃ」
「あたしの卍だって、追尾出来るもんね」
「あちらの魔族たちも、各個に金色の盾を頭上に三層から四層、展開しました」
これは、望遠機能で確認したぼくの報告だ。
「ふん。黒でも、虹でも、無敵でもない盾じゃ。問題ない」
と言いつつ、正直に不安そうな瞳を見せるフーコツ。
やがて、卍手裏剣が散開した飛行竜たちを、ほぼ真上から襲った。
数を減らした卍は、そのまま地上に飛んでゆく。
卍を追うように、片翼を失った五頭の飛行竜と、乗っていた魔族が落ちてゆく。
遠いので、衝突音も叫び声も聞こえてこない。
「赤、三頭と、黒、二頭が落下。魔族も十人が落下中」
と、報告するぼく。
「卍を二枚破壊されちゃった。思ったより盾が硬い」
両手でヘルメットを抱えるミトラ。
「逃すか!」
卍の反転を促すように、頭を抱えた指を立てるミトラ。
残った三枚の紫卍が急上昇した。
「ワシも二枚やられた」
舌打ちし、片手を大きく振って、上昇を促すフーコツ。
「逃がさん!」
三枚の銀が、下から飛行竜を襲うべく舞い上がる。
残る五頭の飛行竜は紫と銀の卍に襲われ、片翼を失って搭乗者の魔族とともに落下してゆく。
「赤、二頭と、黒、二頭が落下。魔族は四名が落下中。残り、赤一頭、魔族二名」
事務的に報告するぼく。
「卍をすべて壊された。驚きじゃ」
「あたしも全部やられちゃった!」
たった十頭でユームダイムを襲おうとした連中だ。
精鋭部隊であったのかも知れない。
「ようやく私の射程に入りました。行きます!」
ジュテリアンはそう言うと、五層の金色の盾を出現させた。
そしてそれらは、たちまち大型卍手裏剣に変化する。
「飛べ、卍!」
と詠唱し、手印を切った。
高速で射ち出される卍。
弧を描き、残った赤い飛行竜を襲う。
頭上に金盾を発現させたまま、旋回して逃げようとする赤竜。いや、魔族の操縦だろう。
「んんん!」
と言いつつ、ハンドルを切るように、前方に出した両腕を曲げ、身体も捻るジュテリアン。
追尾機能を持たない卍を、遠隔操作しているのだ。
三枚の卍が赤竜との接触に成功し、両の翼が千切れ飛んだ。
接触した三枚の卍は消滅したが、空振りをした二枚の卍が、落下する竜の身体を追い、三枚に下ろした。
魔族への卍の接触はなく、彼らはただ落下して行った。
「もう良い、ジュテリアン」
フーコツが、そう言って、ジュテリアンの肩を叩いた。
「あっ。つい夢中になっちゃって」
ジュテリアンが握り拳を開くと、二枚の卍が盾に戻り消滅した。
「す、凄い。十頭とも倒した……」
「いや、メリオーレスよ。確実に死んだのは最後の一頭だけじゃ。残り九頭は、飛べなくなり落下しただけ。まだ生きておるかも知れん」
「あの高さだから、死んでなくても大怪我をしていると思うけど」
と、ミトラ。
「しかし、脆すぎる。幾ら脅威であるとは言え、たった十頭の飛行竜で、この巨大都市ユームダイムを攻撃する事自体が無謀じゃ」
簡単に言えば、三十頭なら蛮行の三人娘の手に余ったろう。
「空から攻めると見せたのは、陽動かしら?」
と、ジュテリアン。
「かも知れんな。街の警戒を深めるべきであろう」
「市長に報告して来ます。蛮行の皆さん、有り難う御座いました」
メリオーレスさんはそう言うと、屋根を滑り降り、軒の部分を蹴って筋向こうの屋根まで跳んだ。
その後も、屋根を伝って街を横切ってゆくメリオーレスさん。
「た、確かにあの方が、地上を道なりに走るよりは速いかも」
感嘆の声を上げるミトラ。
「あの方も、くノ一だったとは……」
とつぶやくアヤメさん。
「メリオーレスが出来るって事は、伝説のブーツを履く私にも出来るのよね? と言うか、やらなきゃ駄目なんだろうか?」
何やら悩み始めるジュテリアン。
「ともかくも、朝ごはんを食べようぞ。戦になるかも知れぬからな、今の内に腹ごしらえじゃ」
フーコツのその声で、ぼくたちは屋根を降りた。
食堂で席に付き、食事を始めた頃、警報が止んだ。
おかげで、遠雷が響いているのが分かった。
ミトラは、ヘルメットとガントレットをぼくの収納庫に入れ、フーコツはゴーグルを額に戻した。
非戦闘態勢である。
「どうするの? この後。伝説の杖をひっこぬきに行くの?」
骨付き魔獣肉を頬張っているミトラ。
「少し疲労したが、警報も止んだし、行ってみるか。ゴルポンド殿らと約束したしのう」
食肉植物のサラダを頬張っているフーコツ。
「でも、今からだと、約束のロク刻に間に合いません、先生」
串に刺さった小肉の群れを頬張るギュネーさん。
「遅れても行かねば。待っておろう、あの男どもは」
サラダを口に運ぶ手を休めずに答えるフーコツ。
「そうね」
ジュテリアンは、薬用茶? を飲んでいた。
「魔族の計略が何かあるのかも知れないけど、それはユームダイムに任せておけば良いと思う。だって私たちは、伝説に群がる旅のならず者なんだもの」
ジュテリアンの自嘲の言葉を、誰も否定しなかった。
次回「飛行竜の罠?」(後)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
↑。朝のワイドショーで、司会者が番組の終わりに、
「見て下さった皆さん、どうもありがとうございました」
と言うような言葉を吐くのです。
それの真似で御座います。
ではまた明日。
第七十一話「飛行竜の罠?」後編でお目に掛かります。




