「ユームダイム」(後)
「結局のところ、彼女は忍者ファンに過ぎぬから、大丈夫であろう」
と、フーコツ。
「アヤメさんは、コスプレ忍者かも知れないけど、手に入れた忍者スキルは本物でしょ?」
と、ミトラ。
「そう考えると、例の転生の女神、かなりヤバい事をしてくれたのう」
フーコツが唸った。
とりあえず、予約した宿屋に歩くぼくたち。
「ところで、本当に隠密活動とか、アヤメさんにやってもらうんですか?」
ぼくは誰にともなく問うてみた。
すると、
「ウチは間に合ってるんじゃないかなあ、そういうの。なんでも先に片付けられると、あたしたちする事がなくなって退屈しまくるだろうし」
出て行って欲しい理由を正直に吐露するミトラ。
「アヤメ姫は、ゴルポンド殿に引き取ってもらうのが良かろうて」
ゴルポンド好きらしいフーコツが言う。
「暗遁を見ても、忍術は有能みたいだから、喜ぶ討伐団は多いと思うわ」
「オレは間近で忍術を見たいかも。でも、『蛮行の雨』のメンバーになるつもりはないし」
と、アヤメさん放出は、すでに確定のようだった。
引き取り手が決まるまで「同行」するんだろうけど。
予約したのは五人部屋なので、ベッドも五つ。
ミトラ。ジュテリアン。フーコツ。ギュネーさん。ぼく、にアヤメさんが加わって六人になったが、ぼくは眠らないので、寝床は五つのままで良いのだ。
だが、宿泊客が増えた事を伝え、宿代を一人分プラスしなければならないだろう。
検問所でもらった観光地図を頼りに、散策も兼ねてブラブラと宿屋に向かっていると、なんと『引き潮の海』と出会った。
クカタバーウ砦の奪還で、共に戦った人たちだ。
「よう、待ってたぜ。『蛮行の雨』」
木の陰から、大剣を背負ったオーガのゴルポンドさんがニヤニヤ笑いながら現れた。
身長二メートル越えの偉丈夫だ。
黒毛皮の上着に、黒革のズボン姿だった。
確か毛皮は、以前は焦茶だったように思うが。
一緒に出てきたのは、黒ローブの僧侶、コラーニュさんだ。
こちらの黒は、以前と同じだ。
「『蛮行の雨』は、また美人が増えたようですね」
と言って、ぐわっ! とした銀髪に真っ赤なミニスカートのジュネーさんをしげしげと見るコラーニュさん。
ゴルポンドさんも、赤装束のアマゾネスをガン見している。
男性だもん、そうなるよね。
下着が金色だと分かったら、さらに目を剥くんじゃなかろうか?
「いんや。この人は、たまたま同行しているアマゾネス、ギュネーさんだよ」
と、ミトラ。
「アマゾネス?!」
と、声を揃える引き潮の二人。
「抜けアマゾネスのギュネー。魔法使いだ。です」
と、頭を下げるギュネーさん。
「抜けアマゾネス?!」
「アマゾネスで魔法使い?!」
それぞれが奇異に思った部分を繰り返す、ゴルポンド&コラーニュ。
「あなたたち、その木にずっと隠れてたわよね」
と、ジュテリアンが笑った。
「バレていたか」
笑って頭を掻くゴルポンドさん。
「ちょっと驚かしてやろうと思ってな」
「新しい『伝説の武器』が、このユームダイムで見つかったでしょう? だから、『蛮行の雨』はきっと引っこ抜きに来るって」
と、ゴルポンドさんを指すコラーニュさん。
「ゴルポンドが言って聞かないもんだから、馬車を飛ばしてこの街に来て、待ち伏せてたんだよ」
「暇虫か、お主ら」
フーコツは歯を見せて笑った。
「ゴルポンドさん、毛皮もズボンも黒になっちゃって、闇堕ち?」
と、ミトラ。
こちらは真面目な質問だろう。
「ああ。新入りに『黒で統一しよう』と言われてな」
と、ゴルポンドさん。
「『引き潮の海』に新メンバー? 良かったですね!」
ジュテリアンが自分の事のように喜んだ。
「あのう。こちらの人たちは?」
アマゾネスのギュネーさんが、ひそひそ声で聞いてきた。
「あのオーガさんは、クカタバーウ砦で、黒の火吹き大蜥蜴を一頭、倒した人ですよ」
(実際にはミトラに助けてもらっていたが)
と伝えると、ギュネーさんは、ぱっ! と顔を輝かせた。
「おおっ! 砦を実効支配した、凶悪なるフーヌイヌイヌイサウラーを倒した方?!」
そう言って、ゴルポンドさんを頭の天辺から爪先まで、舐めるように見直すギュネーさん。
(ああ。話がかなり誇張されて伝わっている……)
ぼくは心の内でつぶやいた。
(そうなるとは思っていたけど)
次回「宿屋オストーン」(前)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
「蛮行の雨」は、また来週、木曜日〜日曜日に投稿します。
第六十七話「宿屋オストーン」前編。後編。
第六十八話。「『引き潮の海』の新入り」前編。後編。
を、投稿予定です。




