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「くノ一、アヤメ」(後)

こうして、ユームダイムを目前にして、あのスカタン転生官のお(かげ)で、またひとり仲間 (たぶん)が増えたのだった。


ユームダイムをめざして進む(ほろ)馬車の中で、当然な事ながら、アヤメさんに質問が集中した。

「あのランランカって転生の女神、パレルレを狙っているんだけど、どういう事かご存知?」

  と、ジュテリアン。


「転生に失敗した人がいて、もう一度やり直すように上司から言われたっておっしゃってました」

焼き菓子を美味(おい)しそうに食べながら、そう答えるアヤメさん。

「でも、自分ひとりだと自信がないので、条件の良い転生をエサに、部下を集めたんです」


「上司とは何者じゃ? 転生の女神は誰かに(あやつ)られておるのか?」

「ランランカ様は転生担当の単なる事務員らしいです。上の方は、転生課? の課長さんではないでしょうか?」

「そういう組織の人、って事ね」

  と、ジュテリアン。


「失敗をやり直すのは悪い事じゃないわ」

御者(ぎょしゃ)席から振り返って、メリオーレスさんが言った。


「パレルレもワシらも、その転生のやり直しは断ったのじゃがのう」


「組織の人間には、上司の命令は絶対ですからね」

  組織に身を置くメリオーレスさんが、前方に向き直って言った。

「『過ちては(すなわ)(あらた)むるに(はばか)る事なかれ』よね、ミトラさん」

「うん。サブロー語録は正しいと思う!」

  ミトラは、遠い先祖の名を出し、嬉しそうに言った。


「あたいは、忍者スキルは先に(もら)ったから、転生先はもうどうでもいいかな」

「つまり、あなたも転生者なのね?!」

  と、声を(はず)ませるミトラ。

そうなんだよ! 今かよ、その質問!


「違います。くノ一に憧れる、しがない小娘です。忍者として活躍出来る異世界に行きたくて、ランランカ様の誘いに乗っかりました」

  キッパリと言うアヤメさん。

「普通は、死んだ人が転生する時に与えられる能力だとか、申されておりました」


「あっ、この世界の人?!」

  ぼくは思わず声に出してしまった。

ぼくの声に、黙ってうなずくアヤメさん。

  良かった。ウカツに転生発言しないで。

しかし、職権濫用(しょっけんらんよう)じゃないのか? ランランカ。


「神隠し予備軍か?」

  と、フーコツさん。

神隠し? 

  そうか、それも転生・転移システムのひとつだったのか?!


「アヤメさんは、すでにスキルを貰っているんですよね?」

言語理解能力以外は、特に特殊なモノは頂いた覚えがないので、羨望(せんぼう)丸出しの声でぼくはたずねた。


「はい、勿論(もちろん)。転生希望者の特権ですから。えーーっと……」

  と、指を折りながら言い始めるアヤメさん。

土遁(どとん)。火遁。水遁。木遁。風遁。暗遁(あんとん)など、ひと通り頂きました。メンバー最後の忍者だったので」

  おお! テストナンバーのサイボーグ戦士が、この個体が総仕上げだと、色々と能力を詰め込まれるヤツ?


「えっ? アントンって何?! そんなの『忍術武芸大全』に載ってなかったよ」

  と、なにやら怪しげな本の名を出すミトラ。

「子供向けじゃからな、その本は。ワシも愛読しておったが」

  と、フーコツ。


「暗遁は、影に隠れるとか、影を操るとか、そういうのですよ」

「おおお。児童書は駄目だ」

  うなだれるミトラとフーコツ。


「能力を頂き、抜け忍も決意したので、後はこの世界で皆さんの旅のお役に立つだけかと」

「えっ? あたしたちの旅の役に?!」

  驚くジュテリアン。

「だって、あたいの十八番(おはこ)は隠密行動ですから。皆さんのために情報収集をしたり、旅を邪魔する悪人を人知れず退治するのが仕事になるかと思います」

  おおお。忍者のアイデンティティか?!


「あっ、それ知ってる!」

ミトラが、ポン! と手を打った。

「『あばれ旅カゲマル漫遊記』!」

「子供向けの冒険譚(ぼうけんたん)ではないか。ワシも読んだが」

  と、フーコツが突っ込んだ。

「あの物語、オボロと言う名の女忍者が健気(けなげ)で良かった」

  ポツリと語るギュネーさん。


「そう言う事なら、あなたの存在意義のためにも、(かげ)ながらの旅の助けをお願いしようかしら」

  と、ジュテリアンがアヤメさんの言葉に乗っかった。

「お任せ下さい、御一行様」

抜け忍、かつ隠密という大役に酔ったのか、アヤメさんは目を血走らせて力強く答えた。


「それでその、他の男性(オス)の黒装束どもは何だったの?」

  と、ギュネーさん。

「ああ。忍者に憧れる同志ですよ」

  と言って首を(ひね)るアヤメさん。

「ええっと、それ以上でも以下でもありませんが。同じ思いの者同士、嬉しかったのは確かですが、(きずな)を深める暇もなく、抜け忍を決意しちゃいましたから。今」


「魔法使い七人衆にしてたら、私たちも手こずったのに」

  と、ジュテリアンが言った。

「その辺は、ランランカ様の趣味だと思います。『魔法使いでは平凡だ』と思われたのではないでしょうか?」


「女神の趣味のお陰で、アヤメさんと知り合えたんだから、結果オーライだ。ねえ、皆んな」

  と、ミトラが()めた。


ユームダイムはもう、目の前だった。



            次回「ユームダイム」(前)に続く




お読みくださった方、ありがとうございます。

次回、第六十六話「ユームダイム」前編は、明日の金曜日に投稿します。


仲間集め編か?! と、お思いの方、その通りかも知れません。

「蛮行の雨」がさほど強くないので、まだしばらく仲間が増えてゆくと思います。


その後、仲間と協力しながら、蛮行を繰り返してゆくのではないか? と思われます。

二百八十話を越えると、そんな展開になるかも知れません。

どうか、長い目でお付き合い下さい。


ではまた午後に、「新・ビキラ外伝」(たぶん)で。

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