「仮面の盗賊団」(前)
ぼくたちの部屋は二階にあり、広かった。
なにしろ六人部屋だ。
ぼくは眠らないので使わないが、ベッドは六つあった。
女性陣は、
「風呂と食事だ(ミトラ談)!」
と言って、部屋を出て行ってしまった。
ぼくは、窓から見える棒状渦巻き銀河「天の渦」を眺めながら、彼女たちの帰りを待った。
(あの銀河でも、ぼくのようなスカタン転生を喰らった人がいるんだろうか?)
(『御意』)
器用に、しみじみとした口調で応じるサブブレイン。
スカタン転生された同胞を思い、ぼくは浅いが意味深な水蒸気を吐いた。
やがて浴衣に着替えた女性陣が、洗濯物をそれぞれ籠に入れて帰って来た。
洗濯物を部屋の乾燥室に干し、フーコツが「温温」の持続魔法を掛けた。
これで、明日の日の出前には乾くのだ。
お金を払えば、旅館付きの魔法使いがやってくれる乾燥魔法だ。
女性たちは思い思いの格好で、ベッドに腰を下ろし、食堂に売っていたという半熟菓子とお茶で、女子会を始めた。
「今日は色々と忙しなかったなあ」
と、ギュネーさん。
「そうね、ニセ黒騎士に、燃えるフーサウラーに、チャラ男に」
と、ジュテリアン。
「糞暗示師!」
握り拳を示すミトラ。
「全くだ。あの糞殺人鬼、安安と殺すのではなかった」
無念の思いを吐露するフーコツ。
「黒騎士の偽物は、これからも出会うと思うけど、どう対処していくの?」
メリオーレスさんがたずねる。
「捨て置いて構わんと思うが」
と、フーコツ。
「英雄・黒騎士を騙るフラチ者なぞ、ロピュコロス軍に命を狙われれば良いのじゃ」
「あまり狡っ辛い奴だと、英雄・黒騎士様のイメージが悪くなるから、壊しましょう」
と、ギュネーさん。
ギュネーさんには、黒騎士が架空の人物である事をまだ伝えていなかった。
そもそもギュネーさんは、メリオーレスさんのようなギルド関係者でも、ぼくたちのようなクカタバーウ奪還騒動の関係者でもなかった。
「黒騎士の真実」を伝える必要はない人なのだ。
今も「伝える」雰囲気は丸でない。
しかし、ずっと一緒にいるので、黙っているのは道義的に心苦しかった。
おそらくだが、ゴルポンドさんが目的地のユームダイムに居るらしい事が分かったので、皆んなは、
「ゴルポンドに『黒騎士の真実』を説明させよう」
と考えているのではあるまいか。
「そんじゃ、そろそろ新人さんに儀式を」
と、タイミングを見計らっていた感じでミトラが言った。
「えっ? 新人ってオレだよね!」
「そうなるな、ギュネーよ。『蛮行の雨』のメンバーではないが近い者、うん、予備軍としてツバを付けさせてもらおう。そこに座るのじゃ」
と、何故か、すぐ傍にあるのに誰も座らなかった背もたれ椅子を指すフーコツ。
「先生たちの予備軍は光栄です」
笑顔で椅子に座るアマゾネス、ギュネーさん。
「明日の活力をチャージ出来るから」
と、いつもの台詞を吐くミトラ。
なんの警戒もなく座ったギュネーさんの(いや、警戒する必要はないのだが)両肩と両脇腹を、ワッシ! と掴み、揉みしだき始めるぼく。
「おわっ。ここここここれかっ?!」
左様。すでにラファームの闘技場で体験済みの「これ」である。
ギュネーさんは身を捩るが、ミトラとジュテリアンが左右から太股を押さえて逃がさない。
「おふっ! おふっ!」
「おうっ、おおおっ」
ラファームの円形闘技場の時よりも声が大きく、乱れ始めるのも早かった。
「ギュネー、声が大きい」
と言って、ギュネーさんの唇を自分の唇で塞ぐフーコツ。
フーコツの背中に腕を回し、爪を立てるギュネーさん。
「でえええええ?!」
と言う目でギュネーさんとフーコツの接合部分に見入るミトラとジュテリアン。
「そう言えば、フーコツさん。ツバを付けるって言ってたわね」
と、感心したようにつぶやくメリオーレスさん。
「文字通りの話だったのね」
次回「仮面の盗賊団」(後)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日の日曜日は、「蛮行の雨」、
第六十四話「仮面の盗賊団」後編を投稿します。
午後にはナニか、「続・のほほん」か「新・ビキラ外伝」を投稿する予定です。




