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「黒騎士現わる!」(前)

尻尾(シッポ)を失った火吹き蜥蜴(トカゲ)は背中を炎で焼かれながら、ぼくたちに向きを変え、突進して来た。


(ヌール)(シルト)!」

  と、叫ぶフーコツ。


ぼくは十層の青色盾(フフシルト)を発生させた。

  ミトラは五層の紫色盾(ビオレータシルト)を、

ジュテリアンは五層の金色盾(アウルムシルト)を、

  ギュネーさんは三層の金色盾を発生させて、フーサウラーの激突に備えた。


横一列に並んでいるぼくたち。

  誰に来るかは運だ。

いや、大きさと異形では、ぼくが一番目立っているように思う。

  真ん中辺りにいるし。


「パレルレ、盾と盾の隙間が短いけど、それで良いの?」

  と、ジュテリアン。

「はい、あまり間を空けすぎると、横に逃げられる気がするので」

ぼくがそう言うと、皆んなの盾の隙間が五十センチから三十センチくらいに縮まった。


いや、ぼくの盾は十層もあるので、全部出すと長くなりすぎるからなんだけど。

ぼくはそれから、マントを後ろ前に移動させて、ブースターの発射を準備した。

ぼくにサウラーが来た時、衝突のショックに反発するためだ。


フーコツは、跳ね回る長いシッポとの戦いに忙しかった。

  戦いつつ、地面の炎を消して回っている。


「オレに来るな! オレに来るな!」

ぼくたちと並んで、フーサウラーを(むか)え撃たんと逃げずに構えているギュネーさん。

その祈りは通じて、かのフーサウラーはぼくの盾に衝突した。


衝突の瞬間、背中のブースターを発射させて、衝突のエナジーを押し返す。

三枚の盾が破壊され、衝撃で若干後退(じゃっかんあとじさ)ったが。

  思ったより突進エナジーが大きかった。 

サウラーの二本の(ツノ)は、さらに三枚のフフの盾を(つらぬ)いていた。


  ツノが抜けない状態で火柱を吐くフーサウラー。

盾に(はば)まれて跳ね返される炎の束。

顔面に炎を受けて、火柱を吐くのを()めるフーサウラー。

質量勝負で、なんとかサウラーの動きを止めるぼく。


光の盾は、サウラーの火柱には一枚も破壊されなかった。

  が、これって、

(光の盾って、直接的物理攻撃に弱いのか?)

(『御意』』)

  と、サブブレイン。


そうか。それで出鱈目(デタラメ)なギュネーさんの猛烈火球にも耐えたのか。黙ってよう……。


(はさ)み込め!」

  フーコツの指示が飛んだ。

こんな時は大きな声を出した者が勝ちだ。

  文句を言わずに従うミトラたち。


フーコツは卍を乱射して、フーサウラーの尻尾(シッポ)を切り刻んでいた。


「これで良い?」

右に回り、原野側から、フーサウラーの胴体をビオレータの盾で押さえるミトラ。

後ろに周り込み、シッポを失った臀部(でんぶ)を、五層の金色盾で押さえるジュテリアン。

左に回り、丘側から三層の金色盾で押さえ込むギュネーさんは、

「オレは野獣(ビースト)じゃないから、無理無理無理!」

  と、(あわ)れな悲鳴を上げている。


そこに五枚の卍手裏剣がフーサウラーの頭部に降りそそぎ、その太い首を切断した。

フーコツは尻尾を片付けたので、今度は本体の斬首(ざんしゅ)に着手したのだ。


首を失ったフーサウラーは、身体(からだ)を左右に振って(もが)いた。

  耐え切れずに跳ね飛ばされるギュネーさん。


「があっ!」

跳ね飛ばされ地面に倒れるが、すぐさま飛び起きるギュネーさん。

  幸い、サウラーはギュネーさんに向かわなかった。

首のないのが幸いしたと言える。


紫色の鮮血を吹きながら、首無しフーサウラーはギュネーさんが開けてしまった左側の丘の斜面を駆け上がり、赤い奇岩に激突して止まった。

  たぶん、じゃなくて絶命したはず。


首の無い動物が動いているのを見たのは、子供の頃以来のような気がする。

首をチョンパされた(ニワトリ)が、庭を走っているのを見た記憶が(よみがえ)ったのだ。

  (なつ)かしさは全くなかった。

滅多に出てこない私生活の断片だ。

  あの鶏は親の実家の、おもてなしだったのだろうか?


その後フーコツは、地面に刺さった卍を円盤形の盾に戻して消滅させた。

  ミトラ、ギュネーさんも盾を消滅させる。

ジュテリアンは、斜面に撒き散らされた炎を消しながら、フーサウラーを追った。

  フーサウラーはまだ燃えていたからだ。


「あなたたち、いつもこんな事をやってんの?」

  呆れた様子で、肩で息をしているギュネーさん。

「どこかの馬鹿がフーサウラーを燃やすから、こんな事になったのよ」

  ミトラが忌忌(いまいま)しそうに言った。


「あの(ツノ)、お金になるらしいよ(ギュネー談)」

「うん、角だけ()ぎ取って行こう(ミトラ談)」

そんな話をしながら、フーサウラーの頭部に集まっている所へ、メリオーレスさんの幌馬車が帰って来た。

  地面の炎が消されるのを待っていたのだろう。


  お客さんを乗せていた。

降りて来たのは、黒騎士だった。

  全身を(つつ)漆黒(しっこく)金属鎧(メタルアーマー)

背中に垂れる漆黒(エレエレ)のマント。裏地は、真紅(プルプルン)

  背負うは漆黒の大剣。

腰のホルスターには、伝説の棍棒のつもりか、漆黒の棍棒が差してあった。


風体(ふうてい)は良いのではないか?」

  と、フーコツ。

「イメージとちょっと違う。小さくない? パレルレと比べたら、大人と子供じゃん」

「パレルレが大きすぎるのよ。とは言え、ゴルポンドさんと比べても小さいわね」

  と、ジュテリアン。

「ゴルポンド殿も大きすぎるじゃろ。あのオーガは、魔族のバンガウア殿よりも背が高かったではないか」


黒騎士が小さい、と言っても、百八十センチはあるように思った。

  少なくとも、女性陣で一番背の高いギュネーさんと同じくらいだ。


「ああ、ご苦労」

  と言って手を上げ、近づいて来る黒騎士。

「あーー、私が出るまでもなかったな」 


「皆さん、紹介するわ。クカタバーウ砦をほぼ一人で、魔族どもの手から奪還された、かの黒騎士様よ」

  と言って、笑いを噛み殺しているメリオーレスさん。


  偽・黒騎士も災難だ。

一番出会ってはいけない者たちと遭遇(そうぐう)してしまった。

  いや、天罰と言うべきか。



           次回「黒騎士現わる!」(後)に続く



お読みくださった方、ありがとうございます。

明日の日曜日は、

第六十二話「黒騎士現わる!」後編を投稿します。


午後からはまた、「ビキラ外伝」の投稿になるかと思います。

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