「元・宮廷僧侶ジュテリアン」(後)
一方、魔族たちも、倒されたとは言え、大魔王デスラモゴラの覇道に憧れ、魔王を称する者が後を絶たない。
との情報を得ている。らしい。
ミトラは、村の決まりで「勇者の旅」をしている話をした。
「どこも勇者流行りですね」
とナラズ者が言ったので、
「あたし、大勇者サブローの末裔だから」
と答えてしまうミトラ。
ズキッ!
とでも表現すべき緊張した空気が流れた。
「酒池肉林の果てに危ない病気で死んだ奴」
と言うキーワードが、皆んなの頭に浮かんだのだろう。
「ああっ、大勇者の血筋だから『勇者の旅』なんだ。そうよね、百歳になったからって、ドワーフが皆んな旅に出てたら大変だよね!」
ジュテリアンさんが慌てた様子で明るく言った。
すると、
「討伐旅、ご苦労様です。末裔様」
「世が平穏なのも、大魔王軍が討伐されたお陰!」
と、口々に言ってナラズ者二人は振り返り、ミトラに頭を下げた。
「酒池肉林に溺れた俗物の子孫」とか、
「口の端にも出せない危ない病気で死んだ馬鹿の末裔」などと言わない、礼儀をわきまえたナラズ者。
根っこには、「堅気の心」が冬眠しているのかも知れない。
「そうよ、あなたたち。あなたたちが呑気に小悪党をしていられるのも、大勇者のお陰なんだからねっ!」
と、ジュテリアンさんは言葉を紡いだ。
「ミトラさんが生まれ育ったって言うオララ集落は、聞いた事があるわ。ここから北東にある工房集落よね?」
「あっ、人間とドワーフの共同体で有名な集落だったな」
前を歩いていたアゴ髭が振り返って言った。
「そおかあ、大勇者の血が取り持つ共存工房だったのかあ」
アゴ髭のない方が、大発見でもしたような大きな声を出した。
「大勇者の功罪を言う人がいるけど、大魔王の討伐のみならず、独裁帝国も滅ぼして、妖魔、幻魔、外道魔の化け物どもを絶滅危惧種にまで追い込んだのよ。さらに、奴隷制度も廃止させた! こんな超偉人に何の罪があるって言うのよ」
言い切るジュテリアンさんに、
「しゅちにくり……」
と言いかけ、アゴ髭に頭を叩かれるアゴ髭なし。
「ありがとう、ジュテリアンさん。あたし、ご先祖様を大自慢したいの、本当は!」
と言って、ミトラはメイド戦士風僧侶に抱きついた。
「うん。世知辛い世の中になっちゃったものね。辛いでしょうけど、仲間になら存分に話して良いのよ」
そう言ってジュテリアンさんがぼくを見るので、ぼくはラグビー頭を機関砲のように何度もうなずかせた。
しかし不覚だ。
ミトラから話を聞いて、
(大勇者、凄え!)ってずっと心の中で思っていたのに。
口に出さなかったばっかりに、ミトラに切ない思いをさせていたのだ。
(世間的には言い難い事でも、仲間になら話せるのだぞ)
とジュテリアンさんに眼力で諭され、ぼくは再び何度も頭を下げた。
(酒池肉林、うらやましい)
と思ったのは内緒だ。
次回「荒くれ仲間!」(前)に続く
次回の「召しませ!(中略)ですか?!」は、金曜日に投稿予定です。
週2回、金曜日、土曜日を「召しませ!(以下略)」を投稿曜日にしたいと思っています。
余裕が出来たら、また別の曜日にも!
「続・のほほん」は、明日も投稿します。
よろしくお願いします。




