「フーコツVS旅人ディルダ」(後)
「ウヌは近くの街や村で人を殺し、金品を奪って背中の荷物袋に入れておる」
フーコツは自信満々に言い放った。
「それはウヌを殺した後に、街にウヌの死体と荷物を運んで確かめよう」
「化け物めっ!」
ディルダは素早く火球を射った。
速攻性を求めたせいだろう、小さかった。
直径は三十センチもない。
しかし、ほとんど同時にフーコツは水球を発射していた。
すでに準備をしていたのだろう、そして地力が違っていたのだろう、コチラは直径二メートルはあった。
火球と水球はすぐさま衝突し、爆散して水蒸気と水滴と圧力波を生んだ。
ぼくはガンマ線視覚を作動させて、巻き上がる水蒸気の向こうのディルダを視認した。
『追撃!』
と叫ぶサブブレイン。
応じて、圧力波にローブをなびかせながら、第二、第三の水球を放つフーコツ。
旅人ディルダも追撃の火球を撃っていたので、再び爆発的に気化する水球。
盛大に噴き上がる水蒸気。
巻き上がり拡散する圧力波と熱波。
そして熱水の雨。
サブの言う、
『熱源喪失!』
とは、火球の事だろう。
『旅人、転倒!』
『旅人起立。のち逃走!』
『黒の盾発現!』
四天王バンガウアさんが持ってたヤツ?!
(ヤバくない?)
(『ヤバっし!』)
「黒持ちであったか。しかしあのような者が鍛練に精を出していたとは思えん。威力はなかろうよ」
フーコツは落ち着いた口調で言った。
「はい。盗品でしょう」
と、ぼく。
「しかし、本当に殺すんですか?」
「殺さねばならん。街の警備隊に引き渡した所で、すぐにあの暗示術を使って逃げよう。かの暗示術に耐えられる人型は稀と思え」
「そうですね。生け捕りは、人が殺されるだけかも」
「調べてみれば、警備隊屯所内の突然死とか、見つかるかも知れんぞ」
「あの旅人、エレを背負ってどんどん逃げて行くけど、大丈夫ですか?」
「すでに固定してある」
と、ゴーグルを叩くフーコツ。
そうだった。
「ゴーグル越しに見たものはロックする」って、前に言ってたっけ。
「問題ない。出来れば、『逃げ切れた』と思った所で殺したい」
「もう、奇岩や木々に隠れて、姿が見えなくなりましたよ」
「便利な目だな。ワシは水蒸気でサッパリ分からん」
と、フーコツは笑った。
「それではそろそろ殺してやろう。今頃、『逃げ切った』とほくそ笑んでいるだろうからな」
フーコツは、「卍!」と言い、目の前の盾に、指を二本立てた手をかざした。
フーコツも、ジュテリアンを真似て、ポーズを取る事にしたらしい。
無詠唱でも射てるが気合いが違う、とミトラも言ってたしなあ。
円盤状の盾が一枚、巨大な卍手裏剣に変化すると地面と水平になり、水蒸気を裂いて、すっ飛んで行った。
束の間あって、ぼくたちの周囲で、
「んはっ」とか、
「むふん」とか言う溜め息が発せられた。
「ギュネーたちが暗示から解放されたようじゃな」
と言う事は、旅人ディルダは死んだのだろう。
奇岩や木々に隠れているので、その死体は視認出来ないが。
歩き方を思い出そうとする歩行人形のように、覚束無い足取りで近づいて来る停止していた三人。
「身体は動かせなかったし、声も出せなかったけど、耳は聞こえていました、先生」
と、ギュネーさん。
ああ、だから皆殺しにしとかないとヤバいんだ。
ディルダ的に。
「フーコツ。あなた、妖魔アマンジャクと人間のハーフって本当なの?」
と、ジュテリアン。
「あんなもの、術師を動揺させるためのハッタリに決まっておろうが」
悪戯っぽく笑うフーコツ。
「でも、自信満々だったじゃん!」
「自信満々で言わねば意味がなかろう」
「あいつが人殺しとか、当たってたみたいじゃん!」
「推測で言ったまでじゃ。『物欲が強く、目的を達成するためには平気で人を殺す』という前提に立っての推理だがな」
「よく推理出来たわねえ」
感心するメリオーレスさんには、
「『ワシだったらそうする』という話だ」
と、あまり自慢にならない事を、さらりと言った。
次回「暗示師ディルダの犯罪」(前)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日、土曜日の「蛮行の雨」は、
第六十話「暗示師ディルダの犯罪」前編を投稿します。
本日、午後からは、「続・のほほん」を投稿予定です。
さらに余力があれば、「新・ビキラ外伝」を投稿したいです。
役者の、西田敏行さんが亡くなりましたねえ。
まともに見てたのは「西遊記」くらいでしたが。
そして、堺正章さんの熱演に、見入ってました。




