「旅人ディルダ」(後)
「誰だ!?」
と、ミトラ。
「何用だ!?」
と、フーコツ。
ミトラの背後の奇岩の陰から、灰色のローブを着た黒髪の男が現れた。
中肉中背。
さほど大きくないが、荷物袋を背負っているようだ。
髪をセンター分けにした、ごく平凡な顔付きのオヤジだった。
手には背丈くらいの杖を持っている。
ぼくたちが原野に入る前から居たと思われた。
もし、移動して近づいて来たとしたら、フーコツのように姿が消せて、放射熱も出さない奴だと言う事になる。
要注意だ。
「我の名はディルダ。ただの旅人だが、そのゴーレムの十層の盾に興味を持った」
にやにや笑いを浮かべて近づいて来る。
「所有者は誰だ? 我にそのゴーレムを貸してくれんか?」
と、中々に厚かましい事を言った。
「悪いけど、貸し借りが出来るゴーレムじゃないの」
ジュテリアンが真っ先に言った。
「お断りします」
「先を越された!」という顔で、
「パレルレはチームの仲間で友だちですから!」
と、ミトラが続いて言った。
「それは残念だ。何も取ろうと言うのではない。五対一だ、そんな事は無理だからな」
一人、数に入ってないが、ぼくか?
「あの人、口ではああ言いながら、パレルレを奪う気満々じゃない?」
ミトラがぼくの傍まで来て、ささやいた。
「ワシもそう思う」
フーコツも、そうつぶやいた。
「仲間は見当たらぬようだが、ワシらを女の集団と思うて舐めておるのか? それともワシら六人を相手に何か秘策があるのか?」
そう言ってフーコツは、額のゴーグルを目に掛けた。
彼女なりの戦闘態勢だ。
「同感」
ギュネーさんも、ぼくたちの輪に加わった。
「この際、はっきり伝えておいた方が良いわね」
ギュネーさんはそう言うと、大きく息を吸い込んで、
「ちょっとおじさん。それ以上オレたちに近づかないでくれる!!」
と叫んだ。
「おやおや、嫌われてしまったようだね」
旅のおじさん、ディルダは素直に立ち止まった。
「同じ時間の流れに生きる仲間ではないか」
「随分と大雑把な括りね。それじゃ魔族も魔獣も、皆んな仲間になっちゃうじゃないの」
そう言ったメリオーレスさんは、ぼくたちと少し距離を空けていた。
一網打尽、になるのを警戒しての事だろう。
「その通り。生ける者も死す者も、同じ時間の中に漂流する仲間だ。この奇岩も」
と言って、隠れていた岩を撫でるディルダ。
「そこらの木々も、やがて朽ち果てて塵に還る同胞である」
「岩が塵に還るまで? 時間の流れが出鱈目すぎるわ」
と、ギュネーさん。
「人間の歴史も魔族の歴史も、同じ時間の中で紡がれて来た。違うか?」
と、ディルダおじさん。
「えーー、なんなの? 時間の中では敵も味方もないみたいな話?」
ミトラがぼくの傍らで首を捻った。
「時間と言う万物共通の流れの中では、そうなるのではないかな? そして時間は全てを腐食させる。何人も時間からは逃げられんのだ」
「なんなのおじさん。時間を崇拝してんの?」
付き合いの良いミトラが、応じた。
「いや。我は時間を操れるので、崇拝する必要はない。時間はむしろ、我の従者である」
「えっ? なんなの、その大言壮語」
眉をひそめるミトラ。
「時間を操れる者などいるものか!」
と、ギュネーさん。
「では少しだけ、時間を止めてみせよう」
旅人ディルダは両手で杖を掲げた。
「動けるものなら動いてみせろ!」
「耳を塞げ!」
フーコツが叫んだ。
(えっ? 音を遮断したら、なんとかなるの?)
ぼくは聴覚器を遮断しようとした。
サブブレインに拒絶された。
(なんだよう?! 動けなくなったらどうすんだよう!)
次回「フーコツVSディルダ」(前)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
次回、「蛮行の雨」、
第五十九話「フーコツVSディルダ」前編は、来週の木曜日に投稿します。
今日の午後には、「続・のほほん」と「新・ビキラ外伝」を投稿予定です。
ではまたお昼に。




