「ローカル魔王ドゥクェックの話」(後)
ギュネーさんの涙とヨダレと鼻水を拭いたタオルは、洗って棒に挟み、御者台の傍らに立て、旗のようにして干していた。
「なんなの、アレ?」
とタオルを差すギュネーさんに、ジュテリアンは、
「ちょっと汚れたから」
とだけ答えていた。
「ステゴロに強いのは、三人だけだった事が分かって嬉しい」
と、ギュネーさんが言った。
片膝立てて座り、灰色の魔法杖をホルスターから抜いて抱えている。
当然、金色のショーツがミニスカートの隙間から丸見えだった。
向かいに座るジュテリアンも片膝立て、同じように桃色ショーツを見せている。
女だけの気楽さか?
「ギュネーよ、すぐには街に帰れまいに、嬉しそうじゃな」
魔法学校のかつての生徒に声を掛ける元教師フーコツ。
「それは、ラファームの街が退屈だったからですよ、先生。女街を舐めたゴロツキなんか、そんなに直直来る訳じゃなし」
杖を撫でながら語るギュネーさん。
「魔獣だって、そんなに頻繁に出現してくれないし。退屈な街だったんですよ」
「えーーっ。一緒に試合に出た人たち、フェミーナさんとモーテリスさんだっけ? お別れの時、泣いてたじゃないの」
と、ジュテリアン。
「あの娘たち、泣き上戸だから」
と笑うギュネーさん。
「まあそのうち、里帰りしてまた泣かしてやるから」
「ピンクのワンピースの族長さんが、『手柄を立てれば追放の解除も早い』って言ってたね」
と、ミトラ。
「すぐに帰るつもりなんかないわ。まずはユームダイムで発見されたって言う、魔法杖の引っこ抜きに参加したい」
「うむ。良い判断だ」
フーコツが讃えた。
「ワシも狙っている得物だがな」
「あたしらの『蛮行の雨』に入れば良いのに」
「先生と比べられるのも、足手まといになるのも嫌だ」
ギュネーさんは笑って、キッパリと言った。
「餞別に、一ヶ月は遊んで暮らせそうなお金を貰ったから、コレを節約して使いつつ、その間に何処かの討伐団に潜り込みたいと思っている」
ギュネーさんは、あくまでも和かだった。
「男どもとヨロシク致しながら、面白おかしく暮らしたい」
ラファームの呪縛から解放されたギュネーさんは、大いなる野望を述べた。
「街からも離れたし、この辺で強化盾を試しましょうか?」
と言って、メリオーレスさんは街道を離れた。
赤松のような針葉樹が点在する原野に入ってゆく幌馬車。
黒っぽい樹の勢力範囲は抜けたっぽい。
が、下草は相変わらず赤かった。
そして鋭く尖った赤い岩が目立つ。
「奇岩が多いわね」
馬車から降りて、ジュテリアンが言った。
「天変地異の跡かしら? 地面から生え出たような感じよね」
と、その鋭角的に高く伸びた奇岩を眺めるメリオーレスさん。
「侵食に打ち勝った岩に過ぎん」
フーコツさんが素気無く言った。
「えーー? なによフーコツ。そのシンショクっての、あなた見たわけ?!」
唇を尖らせて言うミトラ。
「多少は見たかのう」
顎を撫でて答えるフーコツ。
「んじゃ、順番にパレルレの十層の盾を殴ってみる?」
と、言ったのはミトラだ。
「いや、アレはもう見たからよい。手に負える代物ではない」
と、フーコツ。
「十層盾? 盾って光の盾でしょ? 十層なんて聞いた事がないぞ」
怪訝そうにギュネーさん。
「オレのは三層の金色だ。族長の盾でも五層しかないぞ」
「じゃあ、ギュネーさん、壊して見るといいよ。手応えがあって面白いから。あたしは九層まで壊したよ」
「ミトラよ、それはあの婆さんに止められたからであろう?」
と、フーコツ。
「ワシは十層目も破壊できたと思っておるぞ」
「うーーん。出来たとしても、時間が掛かったと思う。とても実戦的でない時間が。だから、本当の戦いだったら負けたっぽいわ」
「それ、お婆さんに言ってあげれば良かったのに」
横目でミトラを見るジュテリアン。
「あたしはそこまで人は良くない」
ミトラは悪童の目をして言った。
「お主も存外、負けず嫌いじゃのう」
フーコツが笑った。
今度はギュネーさんか。
しかし、ギュネーさんは、アマゾネスには珍しいと言う魔法使いだ。
ミトラは物理攻撃が得意なので、ただ殴ってきただけだが、ギュネーさんは本来の得意攻撃である魔法を使うと言った。
そして、ギュネーさんの魔法教師は、フーコツだ。
ぼくは、なんだかとても嫌な予感がした。
ロクでもない魔法を教えているに違いないのだ。
だって、フーコツなんだから!
次回「旅人ディルダ」(前)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日、土曜日は、「蛮行の雨」第五十八話、
「旅人ディルダ」前編を投稿します。
はたしてディルダとは何者?!
(読み返すまで忘れていたのは内緒である)
ギュネーVSパレルレはどうなる?
(まだそこまでは読み返していない)
本日、午後からは、回文オチのショートショート、
「続・のほほん」か、「新・ビキラ外伝」を投稿予定です。
よかったら、お付き合い下さい。
読み返していて、ジュテリアンが伝説の杖を持っている描写があって、慌てて消しました。
加筆していて、時系列を勘違いし、ウッカリやってしまいました。申し訳ありません。




