「蛮行の雨VSアマゾネス」(後)
セコンドのジュテリアンが走り、フェミーナさんの足首に回復光を当てた。
アマゾネス側のセコンドであるギュネーさんも走り寄り、
「ああ、回復光か。膝も頼む」
と、言った。
ジュテリアンの応急手当てが終わり、ギュネーさんの手を借りて立ち上がったフェミーナさんは、ミトラに握手を求めた。
ミトラは猫型仮面を脱いで応じたが、ミトラの顔を見たフェミーナさんは、ひと言、
「たまげた」
と、言った。
昨日、会ってはいるのだが、トッポさが丸出しの少女の顔をマジマジと見て、驚いたのだろう。
闘技場での会話は、ぼくが聴覚器を強化して盗み聞きした。
そして逐一、フーコツとメリオーレスさんに伝えていたのだが、フェミーナさんの「たまげた」を伝えると、
「何にたまげたのだ? 強さにか?」
と、フーコツが言った。
「ミトラの幼い顔に、たまげたんでしょう」
と、メリオーレスさんが笑った。
「百歳だって伝えたら、もっとタマゲるわよ、あの人」
握手の後、フェミーナさんはジュネーさんの肩を借りて観客席に去った。
フェミーナさんと入れ替わりに、黒髪のロングヘアに銀色のビキニブラ、ビキニショーツ姿の女性がやって来た。
切れ長の目が怒りに満ちている。
「あ。怒ってる」
戦い済んで、セコンドに回ったミトラが言った。
「目の前で仲間が一方的に倒されてはのう」
「次の人の防具は両足の膝当てだけど、どう思う? フーコツさん」
「金属でもない膝当をつけての攻撃は、威力が半減しよう。フェイクだな、あれは」
と言うのが、メリオーレスさんたちの意見だった。
「切り裂いてかまわねぇぞ、モーテリス!」
と言う声援が飛んでいる所を見ると、やはり得意技は肘での急角度撃ちか?
対するジュテリアンは、桃色スポーツブラ? とハーフショーツに伝説の膝上ロングブーツ。
落ち着いた様子で、左右のブーツを振っている。
「始め!」
の声で距離を詰めるジュテリアンとモーテリスさん。
両手を前に出して構えているジュテリアン。
モーテリスさんは、足でフェイントを入れた後、即座に肘打ちを繰り出した。
正直者か?!
身体を捻ってエルボーを躱わしざま、ジュテリアンは足を伸ばし、ブーツでモーテリスさんの肘を蹴り上げた。
衝撃で、モーテリスさんは高くヒジを浮き上がらせた。
声は無かったが、顔が苦痛に歪んでいた。
その開いたモーテリスさんの身体に、瞬時に密着するジュテリアン。
ジュテリアンは両手をモーテリスさんの背後に回し、ガッチリと組むと、そのまま身体を反らせ、さらに少しジャンプした。
モーテリスさんの両足が弧を描いて宙を舞う。
大きな反り投げだった。
「あっ!」
と叫ぶフーコツとメリオーレスさん。
アマゾネスの身体を心配しての事だろう。
アマゾネス側からも、
「モーテリス!」
という悲鳴が起こった。
ジュテリアンは反り投げの途中で両腕を離していたので、背中から地面に落ちるモーテリスさん。
地面でバウンドした。
頭から落ちないように投げられたのは、見て分かった。
一旦、自分も地面に転んだジュテリアンだったが、受け身を取りダメージも少ないので、すぐさま起き上がった。
ヒジを押さえてまだ地面に倒れているモーテリスさんの頭部に、ジュテリアンが蹴りを見舞う素振りを見せた所で、
「それまで!」
と、審判のおばさんが声を掛けた。
「余所者の勝ち!」
ジュテリアンの蹴りは実行されなかった。
やはりただの「振り」だったのだ。
そして直ちにしゃがみ込み、モーテリスさんのヒジに、両手からの回復光を当てた。
「ああ、気持ちが良い。こんな気持ちの良い回復光は初めてだ」
モーテリスさんが、地面に仰向けに寝転んだまま呟いた。
「大丈夫か、モーテリス」
セコンドのギュネーさんが声を掛けた。
「完全に破壊されたと思いましたが、治癒してゆくのがわかります、中隊長」
モーテリスさんが感心の態で言った。
「それは何よりだ。しかしまたしても完敗か」
ギュネーさんがつぶやいたので、その言葉もフーコツとメリオーレスさんに伝えた。
「三戦目は、セコンドのギュネー殿とお主だが、負けてはならんぞ、パレルレ」
フーコツが唸るように言った。
「ワシではアマゾネスに勝てぬからな」
「えええ?! クカタバーウ砦では、ワウフダンからの援軍に勝ってたじゃないですか」
「アレは相手の男性が、女性を相手に手荒な真似は出来ない、と勝手に手を抜いたからじゃ」
「ああ。試し合いでもしたの? オスメス対決あるあるよね」
と、メリオーレスさんが笑った。
「でも今回はメスメス対決だから、フーコツさん、気をつけないと壊されるわよ」
「わ、分かっておるわい! ここでパレルレが勝って、対戦を止めるのじゃ。三連勝で決着するのじゃ!」
(なんだか責任重大になって来たなあ)
と、心の内につぶやくと、
サブブレインが、
(『なんだか、は、抜き』)
と言って来た。
いや、分かってはいるんだけど、ほら、ぼくってちょっと前まで、中小企業の製造工場で、工員やってただけだから……。
次回「サブブレインVSギュネー」(前)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
場違い工芸品パレルレは、魔族も含め、まだヒトを殺していません。
殺しかけた事はありましたが。
平和ボケした現代からの転生者ですからねえ。
いつかヒトを殺す時が来るんでしょうか?
現在、在庫は276話まで書き終えていますが、さて、パレルレはヒトを殺しているでしょうか?
クイズではありません。
明日の土曜日は、
第五十六話「サブブレインVSギュネー」前編を投稿します。
午後からは、「新・ビキラ外伝」を投稿予定です。




