「元・宮廷僧侶ジュテリアン」(前)
「そっ、それはそうだが、この女エルフ、か弱いメイド戦士に化けてやがったんだぜ」
と、顎髭のあるナラズ者。
「そうなんだ。魔法使いのくせしやがってよう」
と、アゴ髭のないナラズ者。
「誰が魔法使いにチョッカイ掛けるかよう。あいつら、水球を頭に被せて、殺そうとするんだぜ」
「魔法使いではない!」
金髪娘は否定した。
「私は僧侶だ。お前たちに掛けたのは過大回復だ!」
「ヒールでなんでオレらがクラクラ頭になって倒れるんだよう」
と、アゴ髭のない方。
「それは、薬も取り過ぎると死ぬのと一緒よ。過剰に摂取すると、ヒールも猛毒になるのよ」
(なんだろう? 血流を上げ上げするとか、下げ下げするとか、それとも両方を急激に繰り返すとか、そう言う回復攻撃なのだろうか?)
「えーーと、ともかく。警備隊の屯所へ突き出せば良いんじゃないですか?」
と、ぼくが言うと、
「手ぬるい! このような下衆のヤカラは見ぐるみ剥いで、足腰立たぬようにするのが世のためなのだっ」
金髪を逆立ててエルフ娘は叫んだ。
ナラズ者二人は異口同音に、
「屯所! 屯所!」
と喚いた。
「終わったよ、ミトラ」
二本の長剣をひとつの手で持って、ぼくは細道から出た。
二人組の男が、ぼくの後ろに続いて出た。
「ご苦労様、パレルレ」
そしてミトラは最後に出て来た女性に語り掛けた。
「危なかったですね、エルフのお嬢さん」
「危なかったのは、この二人組の方だよ、ミトラ」
「えっ?!」
そんなやり取りがあって、屯所へ、ナラズ者二人を連行するぼくたち。
エルフの女性は旅人らしく、荷袋を背負っていた。
ナラズ者は、ぼくたちの前を大人しく歩いている。
金髪の僧侶娘が、
「逃げても構わんが、その時は突発性失禁脱糞症を掛けるからね」
と釘を刺したからだろう。
これはつまり、一時的に失禁や脱糞を止める治療の逆だと思う。
金髪の女性は、ジュテリアンと言う名で、元は宮廷に勤めていた僧侶だと語った。
背後に装備した短剣は、偽装した回復杖だった。
もちろん、短剣としても使えるそうだ。
「魔族、魔獣、妖魔、外道魔の手足は斬り落とした事があるけど、幻魔にはまだ出会った事がないわ」
と、ジュテリアンさんは言った。
「あるいは、会っていて気づかなかっただけかも知れないけど」
「あーー。相手は幻魔。普段は見えないって言うもんねえ」
と、ミトラがつぶやいた。
屯所への道中、女性たちの会話は盛り上がった。
「へえ。ジュテリアンさん、勇者団に居たの?!」
なんだか羨ましそうに言うミトラ。
「うん。討伐団や勇者団に出たり入ったりして来たわ。まあ、一時的な雇われ兵ね」
思うところあって、宮廷を辞め野に下り、世に仇なす魔族、魔獣のたぐいを討伐している変人だ、ジュテリアンと名乗ったメイド戦士風僧侶は。
「前のチームは、勇者さんが身に過ぎた討伐を狙ってねえ、死んじゃったもんだから、解散したわ」
「一体、何を狙ったの?」
と、驚くミトラ。
「ローカル魔王ロピュコロス。もっとも、その配下の四天王だかなんだかに殺されたんだけど」
古の大勇者が死亡してからと言うもの、その武勇伝に憧れて、巷に勇者を名乗る者は後を絶たないそうだ。
「大勇者サブローは馬鹿な死に方をしたが、自分はそうはならない」
そう考える事で、頭の中で大勇者を超えているのである。
世界の平穏のためにも、頑張って欲しいものである。
次回「元・宮廷僧侶ジュテリアン」(後)に続く
次回「元・宮廷僧侶ジュテリアン」(後)は、今日の午後に投稿します。
次次回第七話「荒くれ仲間」(前)(後)は、来週の金曜日に投稿予定しています。
次次次回第八話「蛮行の雨、登録せり!」(前)(後)は、来週の土曜日に投稿予定しています。




