「アマゾネスの襲来」(前)
「あっ、胡乱なのが二人こっちへ来る」
と、テーブルに顔を少し伏せる形でミトラが囁いた。
ミトラは横目でガッツリとその二人組、モヒカン頭とダブルモヒカン頭を見ていた。
そのモヒカン頭組は、何やら怪しげな笑みを浮かべて近づいて来た。
灰色の上下服。
その上に、革鎧と長剣という、いたって普通の出立ちである。
「おはよう御座います」
と言って、二人そろって頭を下げた。
「あんたたち、クカタバーウ砦でトンパチ突入をしたグループだろ?」
モヒカン頭が嬉しそうに言った。
「見てたぜ。砦から飛んで来た大火球を、大大水球で叩き落とすのをよ!」
ダブルモヒカンも嬉しそうに笑った。
「あっ。ひょっとして奪還仲間?!」
ミトラが、顔を上げた。明るい顔になっていた。
「そうとも、細やかながら、協力させてもらったぜ」
と、モヒカン頭。
「炎の中で、でっかい斧使いを倒すのも見たんだ」
と、喋るダブルモヒカンを、
「阿呆、それは黒騎士だ」
小声で叱るシングルモヒカン。
「お、おう。黒騎士様がな」
と、言い直すダブルモヒカン。
謎の黒騎士の、流布仲間だ。
ロウロイドさんに言い含められた同志である。
『ザミールとカメラート』
と、サブブレイン。
「そ、そうだよ、ザミールだよ。こいつはカメラート。砦の祝勝会で一度挨拶しただけだったが、そうかあ、覚えていてくれたんだ」
慎ましく破顔一笑するモヒカン頭ザミールさん。
「あんまり役に立てなかったのに、感激だよオイラ」
と、ダブルモヒカンのカメラートさん。
サブブレインのファインプレーだった。
「頑張って、謎の黒騎士を流布しますよ。魔王を撹乱させるんですよね?」
テーブルに両手をつき、少し背を丸めて囁くザミールさん。
「そうそう。きっと、ロピュコロス軍の壊滅につながるから」
と、ミトラも囁き返した。
「あんたたちの手柄の返上があっての作戦だ。絶対、成功させなきゃなあ」
ザミールさんは、表情を引き締めて言った。
「やあ、盛り上がっているようだね」
一本眉のエプロンおじさん、ロームさんが、ぼくたちが絡まれているとでも思ったのか、皿に注文していない飲み物を乗せてやって来た。
「ありがとう、ロームさん。奢りでしょうね?」
と、笑うメリオーレスさん。
「当然だよ。昨夜、凄いモノを見せてもらったからな」
テーブルに皿を置くロームさん。
「で、こちらのお二人とは知り合いなのかい?」
「知り合いもなにも、クカタバーウ砦の奪還仲間だぜ、オイラたちは」
と、カメラートさん。
「昨日、自慢したろう? 謎の黒騎士様と一緒に頑張ったって」
と、ザミールさん。
「おう。お嬢さん方、クカタバーウでそんな大それた事に加わってたのかい?!」
ロームさんが驚いた顔になって言った。
「加わるもなにも、彼女たちの活躍に比べたら、オイラたちのやった事なんて小っこいもんだ」
「そんな大活躍だったのかい?!」
ロームさんが目を大きく見開いて言った。
「えーーっと、黒騎士の次くらいに頑張ったと思う」
と、ミトラ。
「そ、そうそう。黒騎士様の次くらいの大活躍」
慌てた様子で付け足すダブルモヒカンのカメラートさん。
「鼻髭を生やした砦の隊長さんも、そう言ってた」
と、シングルモヒカンのザミールさん。
ぼくたちはひとしきり、砦と黒騎士の話をして盛り上がった。
それは、『謎の黒騎士様』のすり合わせ作業でもあった。
「お嬢ちゃんたち、なかなかの豪傑だったんだねえ」
と、感心し始めるロームさん。
「半信半疑」と顔に書いてあったが。
「テーブルにサインしてもらおうかなあ」
「サインは黒騎士にしてもらうが良い」
フーコツが真顔で言った。
モヒカン二人組には、ウケた。
「それで、昨夜の花火なんだが、やっぱりあんたたちの仕業かい? 評判になってるぜ」
シングルモヒカンのザミールさんが声をひそめた。
「あーー、そう、爆発力……むにゃむにゃ、調べる事があって、やった」
と、ミトラ。
「地上に影響が出ないように、かなり高く打ち上げたんだけど」
「まあ、見えたしな。音も聞こえたから、噂にはなるさ」
と、ロームさん。
「よし。良い護符が買えたので、祝いで打ち上げた花火にしておこう」
「えっと、よろしく」
と、ミトラが言い、
「聞かれたら、いや、聞かれなくてもそう言っとくぜ」
と、ザミールさんが応じた。
モヒカン頭の二人組はその後、ぼくたち全員と握手をして席に戻って行った。
「彼らの名前、覚えてなかったわ。ありがとう、パレルレ」
小さく頭を下げるジュテリアン。
「サブブレインよ。サブちゃんのお手柄だから」
と、ミトラか小さく笑う。
「でも、ウロンなんて思って悪かったなあ。よしっ、謝ってこよう!」
そう言って立ち上がるミトラの金属袖を掴むフーコツ。
「わざわざ謝りに行かずとも良い。座れ、ミトラ」
と、フーコツ。
「えっ? 反省してるのに」
不満そうな顔をして座るミトラ。
「そーーゆーーのは、自分の心の中に仕舞っておけば良い。あえて言う必要はない」
「小娘が」
と言う目でミトラを見るが、相手は腐っても百歳のドワーフである。
人間似のなにかなフーコツ、幾つなの? と言う気持ちにぼくはなった。
次回「アマゾネスの襲来」(後)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日は、第五十四話「アマゾネスの襲来」後編を投稿します。
午後からは、回文オチ形式のショートショート、
「新・ビキラ外伝」を投稿予定です。
ではまた、ビキラ外伝、で。




